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Act6-78 娘の悪口を言われて黙っていられるわけがないでしょう?(Byカレン&プーレ

 恒例の二話更新です。

 まずは一話目です。

 シリウスの言うとおり、例えることもできないような変なのがプーレに絡んでいた。


「は、離れてくださいなのです」


 変なのは気色悪い笑い方をする眼鏡をかけた太った奴だった。


 肌の色がやけに白く、なぜか黒のロープを身につけている。


 たぶん吸血鬼だとは思うのだけど、俺がいままで見た吸血鬼とはまるで違う。


 なんというか、悪意しか感じないオタク像とでも言えばいいのかな。


 俺がいままで見た吸血鬼とは、美男美女の吸血鬼とはまるで違う存在ですね。


 というか、これを吸血鬼と言ったら、他の吸血鬼さんたちに悪い気がしてなりませんです、はい。


「ぐふふふ。かわいいなぁ」


「き、気持ち悪いのですぅ」


 プーレは明らかに引いていた。


 がその変なのは、プーレの気持ちなどガン無視して、プーレの脚にしがみついている。


 えっと、とりあえず積もる話もあるので、まずは去勢からでいいのかな?


「とりあえずの基準がおかしいけど、気持ちはわかるの」


 シリウスはしみじみと頷いていた。頷きつつもちょっぴり引いた顔をしているのは、まぁ仕方がないかな?


 でもね? この変なのは、うちの嫁に手を出しているんだよね。


 その時点で極刑ものなんだから、それを去勢で済ませてあげようとしているんだ。感謝こそすれ、とやかく言われる筋合いはないよ。


「さすがパパ。尊敬レベルの理不尽だね」


 シリウスはやはり呆れているようだ。


 でもそのくらいのことであれば些事です。


 嫁を守れるのでれば、娘にどんな目で見られたって構わないよ。それが俺の覚悟だ!


「……パパのばーか」


 シリウスが棒読みで罵倒してくれた。


 やれやれそんな気持ちのこもっていない罵倒なんざいまの俺には通用しねえぜ?


「唇の端から吐血しながら言われてもね」


 やれやれとシリウスはため息を吐いていた。


 なんだろう。最近はシリウスが妙に辛辣なんですが。


 まぁそういうところもかわいいからいいけどさ。


 さて、おふざけはここまでにして。そろそろ本番といこうか。


「そこの変なの! うちの嫁になにをしていやがる!?」


 変なのに指差しながら叫ぶと、変なのは舌打ちをしつつ、俺を見やるとなぜか不思議そうな顔をしてくれました。


「……そなた、なぜ吐血しつつ、泣いておるのだ?」


 わけがわからないとそのお顔には書いていますが、そんなことはどうでもいい。


「いや、どうでもよくはないとは思うが。なにかしらの病気か?」


 変なのは性癖的にはヤバそうだけど、わりと紳士のようです。変なの! と指さしながら叫んだ俺を気遣ってくれているし。


「……よほどぶっとんでいない限りは、いまのパパを見たら誰だって心配すると思うよ?」


「パパをそうしたのは君だよ、シリウスちゃんや?」


「パパが勝手にそうなっただけだもん」


 とりつく島もなく、シリウスに切って落とされてしまった。


 ふふふ、これが反抗期って奴か。言葉のひとつひとつが胸に突き刺さるぜ。


 だけどパパは負けないよ!


 シリウスがまた「ぱぱ上のお嫁さんになるの」と言ってくれるまで、こんなところでは倒れは──。


「パパ、気持ち悪い」


 ……あははは、何故だろう? 涙が出ちゃう。罵倒される方がはるかにましな状況って本当にあるんですね。知りたくなかったよ。


「……なぜこの少女はここまで傷ついているのだ? たかが犬一匹に罵倒された程度で──」


「あ?」


 いまなんて言った、この野郎。うちのかわいい愛娘を犬一匹だと? よっぽど死にたいのかな?


「うちの愛娘をなんて言った?」


 変なのの襟首をつかみながら尋ねる。


 変なのは俺の動きに唖然としていた。


 動きが見えなかったのかもしれないな。


 もしくは俺の発言を理解できなかったのかもしれない。


 まぁ、唖然としていることには変わりないな。


 というか唖然としている理由なんざどうでもいい。


 大事なのはこの野郎がいまうちの愛娘相手にふざけた呼び方をしたってことだから。


 その呼び名を、うちのシリウスを犬呼ばわりなんて俺が許さない。


「聞いているのか? いまうちの愛娘をなんて言ったって聞いているんだよ」


 襟首を強く握り込む。変なのが慌てて俺の腕を叩くけれど、そんなことはどうでもいい。


 俺の怒りはその程度では収まらねえ。


「な、なぜそんなに怒るのだ? たかが狼一匹で」


「たかが?」


 襟首をより一層強く握りしめた。変なのが「ぐえ」という潰れた声を出すけれど、その程度では俺は止まらない。


「「旦那さま」、落ち着いてくださいなのです」


 プーレが俺を止めようとする。でもなんで止めようとしているのかが俺にはわからない。


 愛娘をこけにされて、黙っていられるわけがない。


「なんで止めるんだ?」


「……「旦那さま」のお気持ちはすごくわかります。私もシリウスちゃんをひどい呼び方をしたこの人を許せないのです」


「なら」


「でも、腹が立つからと言って、誰にでも手を下してばっかりじゃ孤立してしまうのです。大切なのは、拳を振り上げることではなく、握りしめた拳を解くことなのです」


 プーレはまっすぐに俺を見つめていた。プーレの言っていることは間違いじゃなかった。


 たしかに怒りのままに動いてもいずれは孤立するだけだった。


 大切なのは、怒りを抑え、握りしめた拳を解くこと。


 それはこの世界というよりも、地球、特に日本ではあたり前の考え方だった。


 腹が立てば誰でも彼でも殴っていいってわけじゃない。


 そんなあたり前なことを俺はすっかりと忘れていたみたいだ。


 というよりかは、この世界のあたり前に染まりすぎていたのかもしれない。


 我ながらどうかしていたんだろうな。


「……悪い。ちょっとどうにかしていたよ、プーレ」


「いいのです。気にしないでください」


 プーレが見つめてくれる。でもそのまなざしはさっきとは違う。とても柔からく、そして温かい目をしていた。


「ただ、シリウスへの暴言については謝罪させていいよね? というか「お話」ならしてもよくない?」


「ええ、それはもう当然なのですよ」


 にっこりとプーレが笑っている。


 よく見るとこめかみに青筋が浮かんでいますね。


 どうやらプーレもとっくにぶち切れていたみたいですね。無理もないとは思うけどね。


「というわけでうちの愛娘に謝罪してくださいね? してくれない場合はちょっと「お話」しましょうか?」


 変なのに笑い掛けると変なのは慌て始めた。


「ま、待ってくれ。言っていることとやろうとしていることがまるで違わないか!?」


 変なのはなぜか慌てている。なにを慌てているんだろう? 


 別に殴るわけじゃないのに。ただ「お話」だもの。


 そう「お話」をするだけであって殴るわけではないのに。


 なにを完治がしているんだろうね? 不思議でなりません。


「これは「お話」ですもん。だから問題ありません。ねぇ、プーレ」


「はい。そうなのです。「お話」だから問題はなにもないのです」


 ほら、プーレも問題ないと言っているし。


 うん、問題はありません。あるわけがない。


「……パパとプーレママ、性質悪い」


 ぼそりとシリウスがなにかを呟いているけれど、些事です。


 いま大事なのはこれに謝罪をさせるということなのだから。


「待って。待ってください。お願いだから話を」


 変なのは必死になって俺を宥めようとするけれど、もう遅い。


「問答無用ですよ?」


 きっぱりと言い切りながら、俺は変なのとの「お話」を始めたのだった。

 続きは二十時になります。

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