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Act6-76 悪夢ふたたび

 めっちゃグロイので、食前、食事中には読まないことをお勧めします。

 そこにあるのは体だった。


 いや体だけになったものが、元はプーレだったものが横たわっていた。


 その体は俺にぴたりと寄り添っている。


 寄り添いながらもその体からはぬくもりは欠片もなかった。


 あるのは血の臭いだけ。顔は潰されていた。


 あのかわいらしい顔は見る影もなく潰れている。


 顔の脇には青い瞳がふたつ転がっていた。


 きれいだった青い髪は血にそまり、元の色がわからなくなってしまっていた。


 耳や鼻と言った場所からは潰れたピンク色の塊が飛び出している。


 唯一歯だけがきれいなままだった。


 それがより異様さをかもちだしている。


 吐き気がした。口元を抑えて顔を反らした。がそれはより一層吐き気を催させてくれた。


 だってまだ顔はましだったのだから。顔を反らした先、目に入った胴体部分はより悲惨だった。


 胸元はあばら骨が出るほどに抉られていた。


 あばらの下にある心臓にはいくつもの刃物が突き刺さっていた。


 顔を潰された時点で死んでいるのに、心臓をめった刺しにされている。


 どっちが直接の死因なのかはわからない。


 だけどどちらも致死に至るものであることには変わらない。


 腹部は縦に裂けていた。縦に裂けた腹部からは腸が引きずり出されていた。


 引きずりだされた腸が俺の腹部を一周するようにして絡まっていた。


「う、うぇ」


 堪らず吐いた。プーレにかけないようになんて余裕はなく、ただ目の前の光景を見て胃の中のものを吐き出していた。


 でもいくら吐いても吐き気は止まることはなかった。


 止まらないまま、俺は何度も何度も胃の中のものを吐き出す。ついには胃液をも吐き出していく。


 それでも吐き気は納まらなかった。視界が歪むなか、ただただ吐き続けた。


「「旦那さま」」


 不意に声が聞こえた。プーレの声が聞こえた。


 でもプーレはすでに死んでいる。無惨に殺されている。


 なのにどうして声が聞こえるんだろう? 顔をあげると潰された顏がすぐ目の前にあった。


「どうしたのですか?」


「ど、どうしたって」


 きれいな口元が動く。口元だけがきれいなままなのが、生前のままなのが一層不気味だ。


 でもプーレ本人はそのことに気付いていないのか、淡々と話を続ける。


「目ざめのキスをしてくれないのですか?」


 小首を傾げながらプーレが顔を近づけてきた。


 待って、と言うよりも早くプーレに唇を奪われる。


 とたん血生臭さが口の中に広がった。  


 ぶよぶよとした柔からなものが口の中に入り込んでくる。


 それがなんなのかはわかっていた。  


 鼻や耳から垂れ落ちているのに、それが口から出ないわけがなかった。


 その口と俺はいま口づけている。つまりはそういうことだ。


 吐き気を再び催す。けれどプーレは止まらない。


 止まらないまま、俺を押し倒してくる。血に染まった腸が背中でぐちゃりと潰れる音がした。


 心臓に突き刺さる刃物がからんと床に落ち、俺の胸元が血で染まっていく。


 それでもプーレはおかいましに口づけを交わしていく。


 喉の奥から胃液が込み上がってくる。


 堪らず唇を離し、その場で吐いた。


 黄色い胃液の中にピンク色のぶよぶよとしたものがある。


 それがなんなのかは考えるまでもなく、俺は再び吐き出した。


 ピンク色のそれが歯に絡まっている気がした。


 確かめたくても確かめようとする気力さえわかない。


「「旦那さま」はひどいのです」


 プーレの口が動く。同時にころころと青い双眸が転がってきた。


 まるで自分の意思を持っているかのように双眸は俺をじっと見つめていた。


 光のない瞳に見つめられ、息が自然とあがっていた。


「キスしただけで吐くなんてひどいのです。プーレを好きだと言ってくれたのは嘘なのですか? 人間なんて一皮むけばこんなものなのです。一皮むけば筋肉と骨と内臓の体なのです。それはプーレも変わらないのです。そのプーレを好きだと言うことは、プーレの筋肉や骨、内臓だって全部好きだってことなのです。その好きなものに囲まれているのに、吐くなんてひどいのです」


 プーレが包丁を手にした。逆手で握り、自らの瞳を突き刺した。


 瞳を突き刺したまま、包丁をゆっくりと振り上げていく。


「嘘つきは死ぬべきなのです」


 そう言って包丁が振り下された。逃げようとしたけれど、プーレの腸が俺の体を拘束して動きことができなかった。


 包丁はまっすぐに俺の口元へと吸い込まれるようにして振り下された──。


「う、うわぁぁぁーっ!」


 掛けられていたシーツをはね飛ばしながら、起き上がる。


 体が汗にまみれていた。  


 視線を下げるもそこには内臓はなかった。


 正確には体を拘束していた内臓はどこにも存在していない。


 胸元も血に濡れてはいない。ただ汗にまみれているけれど、血よりかははるかにましだった。


「……夢、か。夢、だよね? 今度こそ夢だよな」


 自分に言い聞かせるように同じことを繰り返しながら、徐々に周囲を見回すも誰もいなかった。


 部屋は俺たちが寝泊まりをしている部屋だ。


 デウスさんによって気絶させられてからどれだけの時間が経ったのかはわからないけれど、少なくともまだ一日が終わったというわけではないはずだった。


「……なんつー夢だよ」


 夜中に見ていたら確実に寝られなくなりそうだ。

 

それはいまも同じだけど、少なくとも仕事がある手前、そろそろ起きた方がいいだろうね。


「……水浴びした方がいいかな?」


 全身が汗まみれになっている。仕事をしに行けば、グラス作りの依頼をこなせば自然と汗まみれになってしまうけれど、それとこれとではまるで話が違う。


「……うん、ひとっ風呂浸かろう。じゃないと仕事にも行けないし」


 どうにか起き上がり、着替えを手にしようとした、そのときだった。


「パパ!」


 扉が勢いよく開き、シリウスが入ってきた。


 でも普段のシリウスとは違い、かなり切羽詰まった表情だった。


「シリウス? いきなり」


「そんなことはいいの! プーレママが大変なの!」


「プーレが!?」


 あの悪夢を見たばかりだからか、プーレの名前に過剰反応してしまった。


 普段であれば不思議がられるだろうけれど、いまは緊急事態みたいだから、そこまで不思議がられることはないはずだ。


「うん、大変なの。だからパパも早く」


「わ、わかった。すぐ行く!」


 着替えを取り出すのではなく、「黒狼望」と「黒天狼」を取りだすと、俺はシリウスと一緒に部屋を後にしたんだ。

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