Act6-75 夢の終わりに
ラストグロ注意です。
「いてて」
「無理をしすぎなのですよ」
やれやれとプーレが呆れた顔をしていた。
あのあと。デウスさんによって気絶させられて、気づけば俺たちが寝泊まりさせてもらっている部屋のベッドに寝かされていた。
目を覚ました俺を見て、プーレは「おはようございます」と笑いかけてくれた。
その笑顔からは昨日の夜の暴走モードの面影はなく、いつも通りのプーレだった。
いつも通りになってくれたことで、俺が安堵したのは言うまでもありません。
だって起きてすぐに暴走モードのプーレと対面なんざしたら、確実に喰われるもの。
あ、逆に俺が喰うのか?
どちらにしろ、襲われたであろうことは考えらまでもない。
それが襲われずに介抱してくれるんだから、ありがたく思うべきですよね。
「眠りすぎなのですよ、「旦那さま」」
ただ安堵してすぐにプーレからのお小言が始まったのだけど。
やれ自業自得だ。やれ考えなしに行動しすぎだ。とまぁいろいろと言われることになりましたね。
言葉のひとつひとつがいつもになく辛辣でしたよ。
思わず泣きたくなるくらいには。
でもなんだかんだと言いつつも、完全に呆れながらもちゃんと介抱してくれるんだから、うちの嫁は本当に優しいよね。
まぁややヤンデレの性質があるのはどうにかしてほしいとは──。
「なにか?」
音もなく包丁を取り出すプーレさん。笑うと包丁もなぜかきらりと光るのがとても怖いデス。
「……プーレはかわいいなぁと」
「本当のことを言ってもいいのですよ?」
きらりと光る包丁を小気味良く振るいながらプーレは笑っていた。
でもその笑顔はとても怖い。怖すぎるくらいに怖いよ。
下手なことを言ったら刻まれますね、と心の底から思えてしまうほどにプーレの包丁捌きは怖かった。
「ほ、本当ダヨ? 本当にプーレはめちゃくちゃかわいいっす! マジ惚れです!」
我ながらうさんくささがとんでもないけど、下手なことを言うよりかは誉め殺しをするべきだった。
ただこれで納得してくれるかがわかりませんけども。
かえって、プーレの怒りをより深めるだけなのかもしれない。
それでも、それでも言わなければならないときがあるのですよ!
「……とっても嘘くさいのです」
笑ながら包丁さばきを加速させるプーレ。
言動からしてあからさまに俺を信用していないですね。
「旦那さま」は悲しいです。なんて言っても聞いてくれそうにないなぁ。
「とりあえず浮気者は三枚おろしに」
「浮気なんてしていないですよ!?」
少なくとも今日はそんなことをした記憶はない!
サラさんとはまだそういう関係にはなっていないもん!
サラさんを一応嫁の一員として数えるようになっただけだもん。
だから浮気は今日はまだして──。
「「今日はまだ」?」
「え?」
「「今日はまだ」ということは、少なくとも近日中には浮気をするということですよね?」
にっこりと笑うプーレ。笑いながらも包丁さばきがより加速していく。
風切り音がやばいです。というか包丁をそんな風に振るっちゃダメだとカレンちゃんは思うのですよ。
包丁は凶器ではなく、調理道具ですよ!?
調理をするための道具をそんなぶんぶんと振り回すのはいけないと思うのです!
聞こえていないと思いますけどね!?
「ちょ、ちょっと待とうか、プーレさんや。あれは言葉の綾と言いますか」
「問答無用なのですよ? ふふふ、今日こそ三枚おろしなのですよ」
プーレが包丁を逆手に持った。
いかん。目が、目がマジだ。
明らかにヤンデレモードに突入してしまっていますよ!?
「待って! 本当に待ってください! 話せば、話せばわかるんです!」
「問答無用なのですよ」
プーレがゆっくりと包丁を掲げ、その後思いっきり振り下ろしてきました。
とっさにベッドの上を転がると、それまで俺の顏があった位置に、俺が使っていた枕に深々と包丁が突き刺さりました。
いや枕どこかベッドにまで達していないですかね?
うん、この子マジだよ!?
「なんで避けるのですか?」
「避けなきゃ死ぬわ!?」
プーレはわけがわからないというように首を傾げているけれど、そんな深々と包丁を突き刺されてしまったら、まず間違いなく死ぬね。
俺は一応半分神さまだって話だけど、それでも顏を突き刺されば普通に死ねます。
というかいくら神さまでも顔を思いっきり突き刺されたら死ぬよね?
……うん、よくわからん。でもあえて試そうとは思いませんよ。
だって試して死んだら、ただのアホやん。
とはいえ、いまのプーレ相手ではいつ殺されるのかわかったものじゃありません。
どうにか落ち着かせなければならないね。
だけどなにを言えばいいんだろうか?
なにを言えばこの子は落ち着いてくれますかね?
カレンちゃん、本当にそこら辺がよくわかりません。
「まぁいいのです。次で決めればいいのです」
深々と突き刺さった包丁をプーレは引き抜いた。
見れば包丁は枕どころかベッドまで達していました。
包丁の痕がくっきりとベッドにと残っています。
……うん、この子本気で俺を殺す気だね。
「次は避けちゃダメなのですよ?」
にっこりと笑いながら、包丁の突き刺さった枕を放り投げるプーレさん。
枕に入った羽毛がふわふわと宙を舞っている。
羽毛が舞う中穏やかに笑うプーレはまるで天使です。
でもね? 俺の知っている、というか俺の世界の天使という概念はこんな物騒なことはしません。
いやまぁ、神話を紐解けばそのくらいやらかしている天使とか普通にいそうですけどね?
いそうですけど、少なくとも嫁がそんなやらかす天使とかは勘弁願いたいです。
というかそろそろ落ち着いて──。
「落ち着けません。というわけで、ぐっばいなのです」
プーレがベッドの上で跳び上がり、まっすぐに俺へと包丁を振り下して──。
「ま、待ってぇぇぇーっ!?」
がばっと体を起こすと、そこにはプーレはいなかった。
「……夢?」
いわゆる夢オチですか。あんな物騒な夢なんて本気で勘弁ですよ。
「生きていてよかった」
しみじみと心の底から安堵のため息を吐いた。
ため息を吐きながら胸に触れていた手を下した、そのとき。
ぴちゃ、という音が聞こえた。手にぬるりとしたなにかが触れた。
ひどく生温かいものが、手に触れている。憶えのある感触だった。
恐る恐ると手を、手を下した方へと顔を向けると、そこには──。
「ぷー、れ?」
プーレが、顔の潰されたプーレの体が横たわっていた。
次回かなりグロいです。




