Act6-72 親子の姿とキツネは雑食←
遅くなりました。
時間泥棒さんが今日も見事に仕事をしてくれましてね。
おかげでもうこんな時間だよ。
……さーせん。
今回はフラグ回収話ですね。
いつものように朝を迎えた。
あくまでもこの国で言う朝じゃがな。ほかの国ならば明確な朝が訪れる。
しかしこの国には明確な朝の訪れはわかりづらい。
一応、朝の時間と称しているものはある。
ほかの種族用に作っておいた擬似的な太陽を配置している場所が夜から朝になると、夜のうちは消えていた光が灯るようになる。
それがこの国で言う朝の訪れじゃな。見れば街が少しずつ活気だっていく。
まるで死者が不意に蘇ったような──。
「……ちと縁起が悪いか」
死者が蘇る。それはどう考えても縁起が悪すぎる。
個人的には蘇って欲しい者もおるが、そればかりは叶わぬじゃろう。
死者を蘇らせることは誰にもできない。
あの母神みずからがそれを認めた。
母神にできぬことをほかの誰かができるとは思えぬ。
ゆえに誰かが死んでも蘇ることなどできない、はずじゃった。
「……そうか。ガルーダ様がか」
「そうみたいだよ、じゃなくて、です」
「……そなた、敬語が下手じゃの」
というか使い慣れておらんようじゃな。
これで伯爵家の跡取りというのだから、今後が大変そうじゃな。
「くぅん。いいの、私は「旦那さま」のお嫁さんだから。「旦那さま」に面倒なことはしてもらうから」
ぽっと頬を染めるカルディア。
どうもこやつもまたカレンの嫁であるようだ。
あやつ、本当に何人嫁を作れば気がすむのであろうな?
「誤解です」とか「詐欺事件だ」とか言うのであろうが、誤解も詐欺事件もなかろうに。
すべてあやつがうかつすぎるからであろうよ。
なにせカルディアのときは、狼の獣人であるこやつに模擬戦で勝ってしまったのが原因なのじゃし。
獣人なんてどいつもこいつも戦闘民族じみた思考なのじゃから、模擬戦とはいえ、戦って勝った場合どうなるかくらいは予想できそうなものなんじゃがな。
カレンは半神半人ではあるが、異世界で産まれ育ったがゆえにその辺の常識がないのが原因だったのかの。
どちらにしろ自業自得ではあるが。
女ばかりに優しくしすぎなんじゃよな、あやつ。
他人に優しくできるのは美点ではあるが、あれはちとやりすぎじゃ。
家族が男ばかりだったというのもあるんじゃろうがな。
だからこそ女にはすぎるほど優しくしてしまうのであろうよ。
そういうところは、あのアホ勇者によく似ておる。
もしや兄妹とかではないかの?
あ、姉弟という可能性もあるのか。
……うむ。どちらにしろ、変なところで似ておることには変わらぬの。
まぁ、あのアホ勇者のことはどうでもいいか。
「本当にあのちんちくりんのどこがいいのじゃ?」
レヴィアもそうだが、このカルディアもまたあのちんちくりんに惚れぬいておるようじゃ。
妾にはあれのどこにそんな惚れぬく要素があるのかがわからぬ。
たしかにひとつのことに集中する姿は、カッコよくはあるのかもしれぬが、それだけで惚れぬくかの?
「「旦那さま」の悪口はやめて。私の悪口はいいけど、「旦那さま」の悪口は狼王さまでも許さないよ?」
カルディアは小さく唸る。どうにも逆鱗に触れたかの。
この程度のことでもここまで怒れるほどに、こやつはあれを愛しているということか。
「女たらしじゃなぁ」
「くぅん。そればかりは否定できない」
カルディアは小さくため息を吐いてしまった。
あぁ、嫁でもあれがたらしであるという認識はあるのか。
まぁ誰が見てもあれはたらしよな。
しかも本人は無自覚と来ておる。
加えて美少女で、女性にはかなり優しく、それでいて下手な男よりも男気があって──。
「うむ。たちが悪いの、あやつ」
「……それも否定できない」
がくりとカルディアが肩を落としてしまう。
あぁ、やっぱりあやつはたちが悪い類いのたらしなのじゃな。
もしかしてあやつの嫁ってかなり大変なのではないかの?
……本当にどこに惚れぬいているのやら。妾にはまるで理解できんの。
「でも、「旦那さま」は約束を守ってくれたよ」
「約束?」
「うん。私の婆さまをちゃんと助けてくれた。それどころか母さまにも会わせてくれた。偶然もあるんだろうけど、全力を尽くしてくれた。だから私はあの人が好きだよ」
カルディアは幸せそうに笑っていた。
正直カルディアに理由を教えてもらったいまでもわからぬ。
どこがどういいのかはまるでわからぬ。
わからぬがひとつだけはわかった。
スズキカレンは──。
「惚れた女を笑顔にできる。それだけは認められるかの」
下手な男どころか、並の男にはできぬことだ。
それこそかつての七王にもできぬことをあやつにはできる。
それはたしかに偉大ではあるの。
あたりまえと謗るものはいるかもしれぬが、惚れた女を幸せにすることほど、難しいこともない。
だが、あやつはそれをしている。カルディアは幸せそうじゃし、レヴィアやプーレもまた幸せそうに笑っている。
ひとりでも困難なことを妾が知る限りは三人でやれている。
まだサラが幸せかどうかなのかは見えぬが、時間の問題じゃろうな。
ゆえにその点だけは、あれ自身が惚れた女を幸せにするということだけは認められるの。
「……うん、そんな「旦那さま」が私は好きだよ」
カルディアが笑う。やはりその笑顔はとても幸せそうなものであった。
「……レヴィアが惚れぬいた理由はわからぬが、レヴィアを幸せにはしてくれるのかもしれぬな」
レヴィアが惚れぬいた理由はまだわからぬ。
それどころか目の前にいるカルディアが惚れぬいた理由とて妾にはまだわからぬ。
けれど少なくとも、スズキカレンであればレヴィアを、妾の友を幸せにしてくれるのかもしれぬな。
視線を逸らすとそこにはシリウスを抱き締めて眠るレヴィアがいる。
シリウスはかりそめの姿で健やかに眠っている。その姿はとても微笑ましいものであった。
「シリウスちゃん」
「レアママ」
お互いを呼び合いながら、ふたりは眠っている。
思わず笑みが漏れてしまうほどにふたりの姿は微笑ましいものであった。
「……親子とはいいものじゃの」
「そうだね、じゃなくて、そうですね」
「ふふふ、構わぬ。言いやすいように言え」
「いいの?」
「構わぬさ。いまの妾はとても気分がよい。だから構わぬ」
「うん、わかった」
カルディアはほっと一息を吐きながら頷いた。
敬語は使えぬようだが、一定の敬意を持ってくれていることは言葉の節々からわかる。
ならばいちいち腹を立てる必要もなかろう。
「……レヴィアたちが起きるまで、いましばらく時間がある。もう少しだけ話の相手を──」
してもらえるか。そう頼もうとした。
うむ。そう頼もうとしたのじゃが、その前に不意に扉が勢いよく開きおった。
「デウス様」
扉が開いたそこには、顔を俯かせた駄メイドが立っておった。
ただ、うん、なぜか雰囲気がおかしいような気がしてならぬの。
「駄メイド? なにを」
声をかけると同時に駄メイドが顔を上げた。
その顔は明らかに危険なものであった。
なんというか、頬が上気し、頬が赤面し、息遣いが荒い──ってちょっと待て!?
「き、貴様、駄メイド、もしや」
「デウス様ぁ~。ボクの赤ちゃん、産んでくださいです」
い、いかん。目に、目にハートマークが!?
こやつもしやカレンの食事と間違えて!?
「ま、待て。駄メイド。いいか、落ち着け。落ち着いて──」
「ボクは落ち着いているですよぉ~。デウス様をどうやって食べようかと考えていますからぁ」
ぽっと頬を染めて駄メイドがゆらりと近づいてくる。
い、いかん。いかんぞ、これは!?
いまのこやつには妾の言葉が届いておらぬ。
まずい、これはまずい。喰われる!?
「か、カルディア。て、手を──」
相手をしてくれていたカルディアに手助けしてもらおうとした。
だが、なぜか返事が来ぬ。
なぜだと思い、振り返るもそこには誰もおらん──って。
「なんでだよ!?」
さっきまでそこにいたじゃん!?
なんでもういないのさ!?
意味がわからないんですけど!?
そんな私の叫びの返事のようにひらひらと一枚の紙が落ちてきた。
拾い上げるとそこにはやけに達筆な字でひと言書かれていた。
「「あとは若い人たち同士で」だと?」
意味がわからない。
なにが若い人同士だ! 私はおまえよりもはるかに年上だっての!
いや、そんなことを言っている場合じゃない。
レヴィアとシリウスが眠っている以上、カルディアしか私の味方はいなかった。その味方がいなくなったということは──。
「ふふふぅ~」
いかん。
いかん、いかん!
喰われる。振り返ると喰われる!?
「振り返らなくても押し倒しますよぉ~」
あ、どっちにしても詰みか、これ? ってそんなことを言っている場合では──。
「いたっだきまーす!」
「ま、待て。落ち着──きゃーっ!?」
あえなく私は駄メイドに押し倒されてしまったのだった。
フラグ回収話でした。
え? この続き?
ここは「なろう」ですよ?←すべてを説明するひと言。
次回から香恋視点に戻ります。




