Act6-68 「刻」の狼王
今回もデウスさまですね。
シリウスとのデート(殺伐)です。
今宵も見事な星空であった。
無数の星々と美しき月が織りなす夜空はまさに見事のひと言だ。
この星空はどれほどの時間が経っても見飽きることはない。そして何度見ようとも見飽きぬほどに美しい。
「今宵の「穢れ知らぬ者」は特に美味いの」
いま妾の部屋には誰もおらぬ。いつもであれば駄メイドが勝手に入ってくるが、今宵はなにやら体調が悪そうじゃったので、ひとまず下がらせた。
あやつなにか悪いものでも食いおったのかの? 拾い食いをするような育ちには見えんかったが。
まぁよい。駄メイドがいないおかげで話はしやすくなった。
あのアホ女神もシリウスの正体には気付いておらんようであった。
神代の頃では考えられぬことではあるが、あれも子や孫には弱いということなのじゃな。
だからこそ節穴になってしまっているのかもしれぬ。
もしくはそれらすべてをわかったうえで、アホウな振る舞いをしているのかじゃがな。
神代のあれを知っている妾としては、いまのあれの振る舞いは、すべてをわかったうえでしているという風にしか見えぬ。
それでもなおシリウスを泳がせているのはなぜじゃろう? なぜスカイストはシリウスを泳がせている? スカイスト自身の目的と乖離せぬからかの?
なにせシリウスの目的は明白じゃ。
あれはカレンを助けるためだけに動いておる。
大好きなパパを助けるためだけに自分のすべてを、誇りも夢もそしてその命さえも平然とチップと提示している。
愛というものはときに狂気を孕むもの。
けれどシリウスの愛はとても純粋であった。
一点の穢れなくただ愛する者のために突き進む。
それは果たして誰の影響なのやら?
話に聞くアルトリアとは少し異なる。
アルトリアも似た愛を向ける。
けれど彼奴の愛は同時に他者を弾劾するものでもある。
自分と愛する者だけでいい。
もっと言えば認めぬ者をすべて蹴り落すためのもの。
認めぬ者はその場に存在することさえ許さない、そんな愛。
純粋ではあるが、向けられる側にとっては恐ろしささえも感じさせられる、そんな大きく、そして重たすぎる愛情じゃ。
けれどシリウスの愛情は異なる。
シリウスは愛する者のために自分ができることをすべてやろうとしている。
アルトリアの愛情と似てはいる。
けれど決定的に違うのは、他者を尊重するということじゃ。
愛する者がらしく振る舞えるように自分のすべてを懸けられる愛情。
言うなれば自己犠牲の極みとも言うべき愛情じゃ。それはどこか母さまのそれとよく似ている。
だからなのかのう。妾にはシリウスの愛の方が好ましく感じられるのじゃ。
アルトリアの愛を否定する気はない。そういう愛もある。そういう形の愛もたしかに存在はする。
クソ親父の愛は、母さまに向けていたであろう愛はそういうものであったからな。
だからこそ語らいたいのじゃ。
シリウスの愛がどこまで深いものなのかを妾は知りたい。
本当にカレンのために自己の存在すべてを懸けようとしているのか。
それをしてなんの後悔もないのかを妾は知りたい。
なによりもスズキカレンには、あの半神半人にはそれだけの価値が本当にあるのかを知りたいのじゃ。
「……そろそろかのぅ?」
なにやら階下で騒がしいようじゃが、大方それだけ激しく事を為しているということかの。
まぁ、それくらい強い媚薬ではあったからな。無理もなかろうよ。
実際夕餉の席では、プーレの様子は明かにおかしいものであった。
徐々に息が荒くなり、肌も少しずつ紅潮していったからの。
それでもシリウスの手前母親の顔を浮かべてはいたが、あのときのプーレはすでに「女の顏」を覗かせておった。
対してカレンは平然としておったが、まぁ、効き目は個人差があるからして、そこまでおかしいというわけではなかろう。
気がかりであるのは駄メイドもなにやら顔が紅かった気がするが、まぁ、些事じゃ。問題はなにもない。
「……入っていい?」
不意にドアが開く音が聞こえた。ノックなしにドアを開けられたようじゃ。
月の光が銀髪を淡く照らし、その紅き双眸に宿る光は剣呑なもの。それでもこやつの姿はとても美しいものだ。
美しいからとはいえ、ノックくらいはするべきだとは思うが、まぁよかろう。こやつにとって妾は礼儀を通す価値もない相手であろうしな。
「すでに入っておるではないか」
グラスを傾け「穢れ知らぬ者」を流し込む。喉が焼けるほどに強い酒ではない。
むしろ甘い酒と言ってもいい。
妾は甘い酒の方が好きじゃ。
昔から甘いものを食べるのは好きじゃった。
母さまがよく作ってくださったしな。
「さて、なんの用かの?」
「あなたが来いと言ったから来たんだよ」
「そうだの。だが来なくても構わぬと言うたが?」
「来なければパパとママを」
ぎりっと奥歯を噛みしめる音が聞こえる。半分は冗談のつもりで言うたが、効果てきめんだったの。
「ふふふ、よいではないか。こうして来たのだ。そなたのパパとママに危害を加えぬと約束しようではないか」
「本当だね?」
「ああ。もちろんじゃよ。ロード・シリウス」
笑い掛けるとシリウスは舌打ちをしながら、妾に近づいてくる。
一触即発とまでは言わぬが、相当に剣呑じゃの。心地よい殺気がこの身を包み込む。
「私をその名で呼ばないでほしい」
「ほう?」
「私はまだ「至ってはいない」から」
「なるほどの。しかし「ロード」と化しているようじゃが?」
シリウスが息を呑んだ。目を見開き妾を見つめている。
なにか言いたそうにしているが、その言葉を寸前で飲み込んでいる。
言わんとしていることは理解できる。なぜそれをというところかの?
「妾の目は特別での。無数の魔眼と複数の邪眼。そして真実を見通す「天眼」で成り立っておる。その眼で見ればそなたの正体は一目瞭然じゃよ。ゆえにいつまでもそのような子供の姿でいるでない。さっさと「本来の姿」に戻るとよい。「刻」の狼王よ」
シリウスは顔を俯かせた。それが答え。
シルバーウルフでも見たことがないという者が大半じゃというのに、シルバーウルフの進化した姿であるクロノスウルフ。そのさらに先に至っているとはな。見たいと思うのが当然だろうに。
「……パパとママたちには言わないでほしい」
「約束しよう」
口約束でしかないが、妾は破るつもりはない。こやつが言うなと言うのであれば、言っていいと言われるまでは言わぬつもりよ。まぁ、カレンたちがこやつの正体に気付いたらわからぬがなの?
「パパたちが気づいたらいいよ。でもそれまでは」
「わかった」
お願いするね。そう言ってシリウスはかりそめの姿を解いた。眩い光が妾の部屋を包み込む。その光の中でシリウスの体は成長していき、そして──。
「ふむ、美しい」
光が止んだそこにはレヴィアを思わせる長身の銀髪紅眼の美女が立っておった。
いろんな意味でのフラグ回でした。
次回はカレン視点に戻ります。




