Act6-63 これからのこと
五月の更新祭りのラストです。
サラさんも正式に嫁入りが決まったことで、どうにか俺の首は繋がりました。
まぁ、レアのことだから怒ってもせいぜい押し倒してくる程度だったのだろうけれど。……いやそれはそれで怖いというか、搾り取られそうな。
うん。どちらにしろ、サラさんも認められてよかったと思います! いや、これからは呼び捨てにした方がいいのかな?
でも嫁だからと言って必ずしも呼び捨てにしなければならないという法律はないわけで。実際お嫁さんをさん付けで呼ぶ旦那さんも世の中にはいるだろうし。中にはちゃん付けの人もいるだろうけれど、やっぱりさん付けの方がちゃん付けよりも多いと思う。
だけど一番多いのは呼び捨てかな?
でも正直サラさんが嫁というのはいまいちイメージが。というか頼れるお姉さんって感じだったから、その人がいきなり嫁になると言われても、いまさら呼び捨てにできないというのがいまの俺の素直な気持ちかな。もっとも──。
「さぁさぁ、「旦那さま」のためにもいいグラスを作りましょうぉ~」
テンションが天元突破してしまったサラさんには届かないんだろうけどね。実際サラさんは嫁入りが確定したことで、もうテンションがうなぎ上りです。
そういうところは素直にかわいいなと思うのだけど、まだ惚れるって段階ではないんだよね。サラさんのことはそこまで多くは知らないもの。
だからまだ惚れるっていう段階じゃない。
むしろどうやって惚れればいいのかがさっぱりだ。
サラさんには悪いけれど、いまのところはいままでの関係を維持していきたいなと思う。そう言ってころりと惚れてしまいそうで怖いんですけどね?
なにせ俺はわりと惚れやすい体質みたいだし。当初はレアにしろ、プーレにしろ、嫁になった段階では惚れたとは言い切れなかった。
でもいまや俺は完全にふたりに惚れています。そうでもなければ抱くことはしないよ。抱いたのはふたりが好きだからだ。好きだからこそ俺はふたりを抱いたわけです。
いやふたりだけじゃないね。もういなくなってしまったけれど、カルディアにも俺は惚れていたよ。
ほんのわずかな、一週間にも満たない時間しか彼女とは一緒にいられなかったけれど、それでも俺はカルディアを愛していた。それはいまも変わらない。
でも一番愛しているのは希望だ。それもまた変わらない。変わらないけれど、それでも気づいたときには俺の中で愛する人は次々に増えていく。
そのうちサラさんもその中に入るんだろうなと自分でも思う。節操がねえなと自分でも思うけれど、こればっかりはどうしようもない。
「わぅわぅ、サラママ頑張って」
「はいは~い。ママは頑張りますよぉ~」
ただシリウスはもうすっかりとサラさんをママとして認識してくれているみたいだ。
シリウスはそんなにサラさんとは会う機会はなかったけれど、その少ない機会でもサラさんのことを好ましく思ってくれていたからね。だからこそサラさんがママになっても、反発することはない。
むしろ反発するという意味であれば、アルトリアがどう思うのかが気になるところかな?
アルトリアは俺ほどではないけれど、わりとサラさんには会っていた。サラさんもアルトリアのことを悪く思ってはいないようだった。
でもそれはふたりがビジネスにおける付き合いをしていたから。嫁同士という付き合いをしていなかったからこそだった。
嫁同士であればどうなのかはいまのところ読めない。
アルトリアがまたなにかをやらかしそうな気はするけれど、サラさんであればプーレやカルディアほどに反発はしないと思うんだよね。
なにせアルトリアってば、プーレとカルディアをいまだに「新参者」と「雌犬」と呼ぶからね。サラさんにも同じような呼び方をしそうで怖いなぁと思うんだ。
もっともいまであればそういう呼び方はもうできないだろうけどね。
シリウスが怒るだろうから。実際カルディアを「雌犬」呼ばわりしたことでシリウスは本気で怒っていたからね。プーレを「新参者」と呼ぶのもあまりいい顔はしていない。
シリウスのなかでのアルトリアに対する好感度はもうかなり下がってしまっている。
アルトリアは以前のように「まま上」と呼んでほしがっているけれど、シリウスはもう呼ぶ気はないみたいだし。
アルトリアがいないときにアルトリアを呼ぶのは「あの人」だし、アルトリアがいるときは「あんた」だもんな。
アルトリアは難しい時期だからこそだと思い込んでいる節はあるけれど、実際のところ難しい時期だからというだけではないように俺には思える。
俺個人としては、もう少しアルトリアには優しくしてあげてもいいんじゃないかなと思うんだけど、シリウスは聞く耳持たずだ。
「あの人と仲良くなんて絶対嫌だ」
「ラスト」にたどり着く前、砂漠の旅をしていたときも、何度か言ってみたのだけど、返ってくる答えは基本的に同じものだった。
少し前までは「まま上」と慕われていたはずだったのに、いまや蛇蝎の如く嫌われてしまっている。
アルトリアはいったいなにをしてしまったのやらと思うけれど、俺が首を突っ込むと余計に面倒事になりそうだった。
というかこういうことには父親は首を突っ込むべきではないんだろうね。母と娘のことは母と娘で解決してもらうしかない。
まだ俺にも経験があればどうにかできただろうけれど、俺にはいまのところそういう経験は皆無だから、ふたりに対してなにも言えないんだよね。
情けないとは思うけれど、こればかりは事実だからどうしようもなかった。
「わぅわぅ、サラママ、すごく真剣だね」
シリウスはアルトリアへの態度とは違い、サラさんの仕事っぷりを目を輝かせて見つめている。
サラさんはそれまでのおっとりとした雰囲気を消し、真剣そのものに炉を見つめていた。
普段とはまるで違う姿にちょっとドキッとしそうになったのは秘密だ。
「そうだなぁ」
サラさんは放っておいても立派にママをしてくれそうだ。俺との関係はおいおいかな?
「……どうなるかなぁ」
「狼王祭」のこともあるけれど、その先のことも考えるとまだまだ前途多難すぎる。そんな現実に俺は深いため息を吐くのだった。
五月の更新祭りはこれにて終了です。
次回更新は明日の十六時予定、です。
たぶん←ヲイ




