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Act0‐6 やっぱり異世界のようです その二

竜王ラースさんは、俺をまっすぐに見つめながら、この世界のことを教えてくれた。


いわく、この世界は、母神スカイストという神さまが作り上げた世界で、この世界にはふたつの大きな大陸があり、その大陸にそれぞれ人間と魔族が暮らしているそうだ。大昔には、ふたつの大陸の間に、大陸と見間違うほどの大きな島があったそうだけど、いまは群島となっているみたいだった。たぶん天変地異みたいなものが起こったのだろう。ラースさんも、そんなところだと言っていたから、間違いはないだろう。


「人間たちが住む、荒れ果てた「聖大陸」とわれら魔族が住まう、緑豊かな「魔大陸」がある。ちなみにここがどこなのかは、言うまでもないが」


「「魔大陸」ですかね?」


「ああ。その中の「竜の王国」である。本来異世界人が紛れ込めるような国ではないのだが、どうやって来たのだ? カレンとやら」


「えっと」


「カレンちゃんさんは、エルヴァニア王国の召喚者さんですよぉ」


 どうやってきたと言われても、俺自身よくわかっていない。ただ変なおっさんに送り込まれてしまったということくらいしか言えない。そのままのことを言って信じてもらえるかなと思ったけれど、ゴンさんが事情を説明してくれた。まぁ説明といっても、俺が言うのと大差ない内容だったが、それでもラースさんと勇ちゃんさんは、ああ、と頷いてくれた。ただふたりともそれぞれに反応は違っていたけれど。


「なるほどな。ただの異世界人ではなく、召喚者か。ならば来られるな」


 納得し、何度もうなずくラースさん。そんなラースさんとは対照的に、勇ちゃんさんは、苦虫を噛み潰した顔をしていた。忌々しそうな顔をしている。でもそれは俺に対してではないみたいだった。


「あのくそじじい。こんな小さい子まで利用しやがるのかよ。最低だな」


 そう勇ちゃんさんは吐き捨ててくれた。なんか勘違いをされている気がする。どうにも俺を見た目通りの年齢と思っているようだ。いや、まぁ、十五歳にしては、小柄すぎるというのはわかっているし、勇ちゃんさんが、名前だけの勇者ではなく、本物の勇者さまなのもわかった。口調は荒いけれど、人情味のある人なんだっていうのがよくわかる。


 ただそれでもひとつ言わせてほしい。


「あの、俺、こう見えても十五歳なんですが」


「え?」


 勇ちゃんさんが固まった。ラースさんは少し驚いているようだった。ゴンさんはラースさんと勇ちゃんさんの反応を不思議がっている様子だ。やっぱりドラゴンと人間とじゃ寿命の差があるんだろう。まぁ、いまはゴンさんのことよりもフリーズしている勇ちゃんさんを元に戻すのが先決だった。


「あ、あの? そんなに俺が十五歳なのが不思議なんでしょうか?」


「え、あ、ご、ごめん。その、まさか同い年とは思っていなくてさ」


「へ?」


 今度は俺が固まってしまった。いや、外国の方(?)は日本人に比べて、年上に見えるというのはよく聞く話ではある。というか、日本人の顔つきが幼すぎるのかもしれないけれど、それでもまさか勇ちゃんさんが俺と同じ十五歳とは思っていなかった。


「勇ちゃんさんって、十五歳なんですか?」


「あぁ、こう見えても、まだ十五歳だよ。そのうち十六歳になるみたい」


「みたい?」


「うん、俺実は」


「まぁ、勇ちゃんとカレンとやらも、立ち話もなんであろう。そろそろ中に入るとしよう。ゴン、そろそろ夕餉の時間だが、準備はできておるのか?」


「ん~、ちょっとお待ちくださいねぇ」


 勇ちゃんさんが、なにか言おうとしたが、ラースさんが遮った。なんだかその先を言わせたくないようにも思えたけれど、たぶん気のせいかな。


 ラースさんは、そのままゴンさんに夕飯のことを尋ねていた。夕飯の準備、とは言っていたけれど、ゴンさんの体格じゃ、ゴンさん曰く保養施設となっている屋敷の中には入れないだろうに。でもゴンさんは待っていてほしい、と言うと、口をもごもごと動かし始めた。なにをする気だろう。そう思っていると、なぜかラースさんと勇ちゃんさん、いやふたりだけじゃない。舞台の下にいたほかの人たちも、なぜか耳を塞いだ。なにをしているんだろう。そう思ったとき。ゴンさんが大きく口を開き、それから空に向かって吼えた。


 ガァァァ、と鼓膜が破裂するような、爆音じみた声があたり一帯に響き渡った。あまりに大音量すぎて、体がふわりと浮いた気がした。というか、俺の鼓膜は大丈夫だろうか。破裂していないよな。耳に触れる。けれどぬるりとした感触はない。どうやら破裂はしていないようだった。


「あ~、準備ができたようですよぉ」


 ほっと一安心すると同時に、のんきな声を上げながら、ゴンさんが言う。返事なんていつのまにと言いたいけれど、それよりも前にひとつ言わせてほしいことがある。そもそも、準備ができたようですよぉ、じゃない。いきなりなにをするんだ、この人は。


「ご、ゴンさん! いきなり吼えないで!」


「あぁ~、これはごめんなさいねぇ~。いつものことなので、すっかりとカレンちゃんさんがいることを忘れていましたぁ~」


 あははは、と困ったように笑うゴンさん。うん、たぶん、いまのは困ったように笑っているはずだ。これが爆笑であれば、俺はこの人の人格を疑わずにいられない。もしくは、これがラースさんの言っていた、ゴンさんののんきなところなのかもしれない。どちらにしろ、周囲の準備ができてから吼えてほしいものだ。あ、だからみんな耳を押さえていたのか。っていうか、それなら教えてくれよ。押すなよ、と言ったら押すっていう様式美じゃないんだからさ。あ、ここで言っても通じないのか。なんだろう、この微妙なもの悲しさは。

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