Act6-53 ケルベロスとシリウスのヤキモチ
本日二話目です。
「アスモ」の外の砂漠には三つ首の狼(?)たちが駆け回っていた。
タマちゃんが言うにはいまの時間はデウスさんのペットである「ケルちゃん」たち一族の運動の時間らしい。
なんでも「ケルちゃん」はいろいろと大変な人みたいだ。それは一族も同じで、こうして夜にはうっ憤を晴らすために思いっきり遊ぶんだそうだ。
ケルベロスたちはみんな楽しそうに駆け回っている。中には砂に塗れて笑っている個体もいますね。
大きさはイメージよりも大分小さい。せいぜいダークネスウルフくらい。牛くらいの大きさしかない。だいたいは、だけども。
ケルベロスっていうとかなり大きい、それこそ一口で人を飲み込めるくらいの大きさをイメージしていたのだけど、ここにいるケルベロスないし、その幼体であるオルトロスたちはそんなに大きくはなかった。
うん、それ自体はいいんだ。そう、それ自体は。ただね? うん、イメージがかなり違うんですよね。
「ほぅ、なるほど。この時間に砂漠に来るとはよほどの大事かと思ったが、ただ単に我らを見に来ただけとは」
「申し訳ないです、ケルちゃん様」
「気にするな、タマモ。我らの領地というわけではないのだ。我らとて聖上にお許しをいただいているだけのこと。それをみなが気を使ってこの時間には砂漠に来るものがおらぬというだけのことだ。砂漠に来ることを禁止しているわけではないのだ」
「そう言っていただけるとありがたいです」
「恐縮しなくてもよい。あたりまえのことを言ったまでのことだ」
タマちゃんが一番大きなケルベロスことデウスさんのペットである「ケルちゃん」とお話している。
ケルちゃんという名前にしては、お声はかなりダンディーです。いぶし銀と言ってもいいレベルだ。
声だけを聞けば結構なイケメンなおじ様系な方です。そう声だけを聞けばね。
まぁ声だけではなく、性格もイケメン系のようです。
タマちゃんがデウスさんよりも人間的には立派だと言っていたけど、たしかにその通りだね。
むしろ、デウスさんは人間的には明らかにアウトな気がする。
国民を大事に思っているのはわかるけども、それがわかりづらすぎるし、いわゆる「我様」系だから、余計にアウトな部分が強調されてしまっている。
とはいえデウスさんもいい人だとは思うよ? いい人だとは思うけど、うん、まぁ性格が、ね。
その点、ケルちゃんさんは物腰が柔らかでおおらかな人だった。そのうえ目下の相手にも気遣いを忘れない。うん、こういう人が上司ならなと思います。
うん、概ね、欠点はない。そう、この人自体には欠点なんてない。ただ、その、ね? うちの母さんの悪行がひどいです。あの人はなぜ「この世界のケルベロス」をこんな風にしてしまったんでしょうか?
だってさ、ケルちゃんさん、イケおじ系なのにさ──。
「それに我らの同胞の世話をしてくださっている方を案内してくれたのだ。邪険にできるわけがなかろうよ」
佐藤さんちのケルちゃんのようにお顔が、真ん中のお顔がチワワなんだもの。
ほかふたつのお顔は端正な狼さん。けど真ん中だけがチワワ。そうチワワだ。
ほかのふたつのお顔とのギャップがすさまじいですね、はい。
ほかのふたつのお顔はキリッとしているのに、チワワ顔だけは微妙に震えているのがなんともかわいらしい。
そのチワワ顔がいま話しております。チワワなのにダンディー。
うん、これいかに。母さんの悪行をしみじみと感じますね。うちのまざーがアホをやらかして申し訳ないです!
どうせ母さんのことだから、三つの首全部が端正な顔だとつまらないとか、そんなおバカな理由だろうし。
本当にあの人はいったいなにを考えているのやら。
って、うん?
ケルちゃんさん、いまなんと?
「えっと、いまなんて?」
「同胞を世話してくれていると」
「同胞と言いますと?」
「そなたから我らの同胞の匂いがするのだが、違うのか?」
ケルちゃんさんは不思議そうに言っていた。
同胞。同胞ね。……いや、まさかね?
だって「あいつ」はただの犬ですよ? そう、えらくマッシブな体型をされておられますが、一応生物学上はただのわんこです。そう、マッシブな体型をしたチワワなはずなんです! だから同胞なわけが──。
「わぅわぅ」
なにやら足元でシリウスのような鳴き声が。でもシリウスはいま──。
「わぅ~。すごい眺めなの」
「本当だねぇ~。星空がすごくきれい」
ケルちゃんさんの背中のうえでプーレと一緒に星空を眺めているもの。ちなみにだけどシリウスが勝手に背中に上ったわけではなく、ケルちゃんさんが乗せてくれたんです。
やっぱりチワワ顏だけど狼なだけあって、狼の魔物であるシリウスには優しいみたいだ。
もしくは紳士として女子供には優しいのかな? うん、チワワ顏でなければ。チワワ顏でなければ、イケおじだったのにとても残念です。
しかしシリウスではないのであれば、この鳴き声はなんでしょう?
何気なく足元を見やると、そこに「奴」がいた。
正確には佐藤さんところのケルちゃんを思わせる子が脚に纏わりついていた。
佐藤さんところのケルちゃんと比べてもまだ小さい。
産まれたばかりの子かな? ……その割にはすでにマッシブなお身体の持ち主ではありますが、それを踏まえても愛らしい子だね。
同時になんとなくわかりました。ケルちゃんはたしかにこの子と同じ種族だと。
えっと、ということはあれってチワワじゃなく、オルトロスなん?
いやオルトロスは二頭の狼だから、オルトロスの幼体?
あー、どうりで土佐犬も倒せるわけだ。チワワにしては突然変異すぎたもんね、ケルちゃんは。
むしろオルトロスの幼体と思えば、不思議と納得できるしなぁ。
その幼体がなんで地球にいるんだよとツッコミたいところだけど、まぁ、いまはいいや。
この子はどうしたらいいかな? なにやら遊んでほしそうな顔をしているのだけど──。
「これ、客人相手に失礼なことをするな。相手は我がするから、おまえはあっちで遊んでいなさい」
「……くぅん」
ケルちゃんさんがやんわりとその子に注意すると、その子は残念そうな声をあげて、とぼとぼと他の子たちのところへと帰っていく。
ざ、罪悪感が半端ない。いや俺がなにかをしたわけじゃないけどね? ないけどさ、さすがにこれはちょっと罪悪感が。
「あ、あの俺なら大丈夫ですから」
「よいのか?」
「えっと、問題はないですけど?」
「そうか。ならいいか」
ケルちゃんさんが首を傾げているけれど、いったいなんだろう? これと言ってなにかあるわけじゃないんだけど?
まぁ考えてもわからないことを、いま考えても仕方がない。それよりもだ。落ち込んでいるかわいい子の相手をしないといけないよね。
「ほぉら、おいで~」
帰っていく子に向かって腕を広げると、その子は瞬時に振り返ると、ケルちゃんさんを見つめる。
「いいの? 本当にいいの?」と言うかのようにケルちゃんさんを見つめている。
おおぅ、尻尾がフルスロットルですね。そういうところはシリウスと同じだ。
……シリウスと同じというところでなにか引っかかるような気がしたけれど、まぁ些事かな。
「構わんそうだ。遠慮せずに相手をしてもらいなさい」
ケルちゃんさんが頷くとその子は目をきらきらと輝かせ、一目散に駆け寄り、俺の腕の中にダイブしてくれた。
見た目同様にごっつい感触だけど、愛らしいことには変わりないね。
毛並もなかなかにいい。それでいて体温がちょっと高めなのもいいね。
うんうん、かわいいな。やっぱりどんな生き物でも子供の頃はみんなかわいいものだよ。
「あー、かわいいなぁ」
心の底からしみじみとそう呟いた、そのときだった。
「……わぅ~」
頭上からとってもご機嫌ナナメなお声が聞こえてきました。
恐る恐ると顔をあげると、ぷくっと頬を膨らませたまいどーたーと目が合いました。
……でぃどあいどぅーさむしんぐ?
「……無理もないのですよ。だってその子も狼の魔物ですし。シリウスちゃんは見た目十歳くらいですけど、中身はその子とそこまで変わらないのですから。なのにその子をかわいがったら」
「ヤキモチのひとつやふたつは妬いて当然だと思ったから、いいのかと尋ねたのだが」
プーレとケルちゃんさんの言葉がぐさりと胸に突き刺さった。
あ、あー、そういうことですか。あははは、そんなのわかるか!
もっと直線的に言ってよ、直接的に! 俺鈍感だからそんなことじゃわからないよ!?
ってそんなことを言っている場合じゃなくて──。
「し、シリウスちゃん?」
「……パパなんて知らない。その子がいいならその子のパパになればいいんだもん」
ふんだと顔を背けるシリウス。このくらいの年齢の子って本当に扱いが難しいなぁと思いつつも、どうにかシリウスを宥めるためにあれこれと手を尽くすことになったのは言うまでもない。
改稿前の二話目に登場していたケルちゃんの正体をようやく。
まぁ、改稿の際にカットしちゃっているんですけどね←ぶっちゃけ
続きは八時になります。




