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Act6-46 常識と非常識の境目って非常にあいまいですねぇ~(Byカレン

 本日二話目です。

 常識と非常識って紙一重かなって←

「わぅ~。トンカチの音がそこら中からいっぱい聞こえてくるね」


 ぴこぴこと耳を動かしながら、シリウスがあたりを見回していた。


 デウスさんの「依頼」をこなすために必要なものを見つけることができた俺たちは、そのまままっすぐに鍛冶屋が多く集まる一角へと来ていた。


 シリウスの言う通り、この一角からはそこら中から、鎚を振るう音が聞こえてくる。


 タマちゃんに案内してもらったのだけど、さすがは鍛冶師がいま一番集まっている国なだけあって、この一角だけでも所せましにと鍛冶屋が開かれていた。


「さぁさぁ、どうだい。うちの工房の最新作だよ!」


「さて、ここに丸太がある。この丸太を」


「うふふふぅ~、楽しいですねぇ~」


 小柄だけど筋骨隆々のおじさまが威勢よく客呼びをしていたり、やや大柄だけどのんびりしていそうな人が工房の前で試し切りを実戦していたり、褐色肌のほんわか美人さんが目をきらきらと輝かせながら、通りにある工房を片っ端から覗いていたりも──。


「ふふふぅ~、さすがは「ラスト」ですねぇ~。たくさんの名人さん方がいて勉強になりますねぇ~」


 ……訂正。褐色のほんわか美人はサラさんでした。


 というかもう「ラスト」にたどり着いていたんだ。俺たちよりも後に「ラース」を出ただろうに、すでに「ラスト」に来ているとは思っていなかったよ。


「さぁて、お立会い! いましがた出来上がったばかりの逸品だよ!」


 サラさんに声をかけようとしたのだけど、その寸前で別の工房から汗だくの職人さんが出てきて叫んでいた。その言葉にサラさんの目は、その工房へとロックオンしていた。


「ああぁ~、あれはセレン工房の新作ですかぁ~!? ぜひ、ぜひ入手しないですよぉ~!」


 サラさんは俺たちの存在にまるで気づかずに、人だかりができている鍛冶屋さんへと突撃していく。


 そのお顔はとっても嬉しそうだ。というか生き生きしているというか。本当に鍛冶バカなんだな、サラさんってば。わかっていたけれど、改めてそれを理解しましたよ。


「サラさん、私たちに気付いていませんでしたね」


「まぁ、サラさんは鍛冶バカだから」


「わぅわぅ、サラお姉ちゃんは鍛冶が大好きだもんね」


 サラさんの姿にプーレは苦笑いし、シリウスは尻尾をふるりと振りながら笑っていた。


 でもふたりとも嫌悪の色は見えない。ふたりはそこまでサラさんとはかかわりがないけれど、サラさんがどういう人なのかはわかっていた。


 だからこそ呆れているのではなく、サラさんを笑って見守っているというわけなのだけど。いわばサラさんの人徳ってところかな?


「ふわぁ~、すごくきれいな刀身ですねぇ~。切れ味よりも一撃の破壊力を優先しつつも、破壊力と切れ味を極限まで両立させようとしたんですねぇ~。それでいながら、女の私でも軽々と持てるなんて、さすがはセレン工房ですねぇ~」


「……いや、あの、それかなり重いんだけど?」


 サラさんは突撃した工房の新作とやらを片手で掲げながらきらきらと目を輝かせていたけれど、工房の職人さん曰くかなり重い剣のようだ。


 でもその重たい剣をサラさんってば軽々と掲げています。竜人さんの身体能力ゆえのことであるのは間違いないね。もっともそんな事実さえもいまのサラさんには聞こえていないようだった。


「工房主のセレン師ですかぁ~?」


「い、いや、俺は下っ端の職人ですが」


「そうですかぁ~。残念ですぅ~。セレン師であればぜひサインをお願いしたかったんですがぁ~」


「えっと、たぶんサインは無理かと。というか色紙がないように」


「ああぁ~、もちろん剣にお願いしようと思っていましたよぉ~?」


「け、剣にですか?」


「ええ、剣にですよぉ~?」


 サラさんの発言に職人さんがわりと引いている。


 まぁ、職人さんだけじゃなく、俺もいま引いたもの。というか剣にサインとか聞いたことねえよ。


 さすがはサラさん、いろんな意味でぶっ飛んでいますね。


「あ、あの普通剣にはサインなんてものはしない、かと」


「なにを言っているのですかぁっ!? あなたそれでも鍛冶師なんですかぁっ!?」


 くわっと目を見開き、サラさんが叫んだ。その剣幕に職人さんは完全に引いています。


 というか怯えているね。よく見ると集まっていたお客さんたちもサラさんの発言にちょっと引きつつある。だけど人だかりはあいかわらずできている。というのも──。


「そうだ、そうだ! おまえさん、それでも鍛冶師かよ!?」


「作家が本にサインを書くように、鍛冶師はみずからが打った剣にサインを書くのは当然のことだろうが!」


「そんな常識を知らずに鍛冶師面しているんじゃねえ!」


 周辺の工房の職人さん方がサラさんの擁護に回ったからです。……どうにもサラさんの奇行的な発言は、鍛冶師の間ではあたり前のことだったようだね。


 たしかに作家がみずからの本にサインをするのは当然のことだろうけれど、鍛冶師が同じことを剣にするのはどうかとカレンちゃんは思うわけなんですけど?


「……鍛冶師さんって、どこでもすごい人ばっかりですねぇ~」


 タマちゃんが遠くを眺めるように言っている。そういえば、EKOのときもとんでもない鍛冶師スミスが多かったような。


 ……うん、深く考えるのはやめましょうか。鍛冶師という職業にとんでもない偏見を持ちそうで怖いデス。


「皆さん、落ち着いてくださいぃ~。最初に大声を出してしまった私も悪いとは思いますがぁ~、この職人さんを非難しても仕方がないですよぉ~。それに最初は誰にもあるわけですから、あまりいじめちゃうのはダメだと思いますよぉ~?」


 サラさんが騒ぎたてる職人さんたちを制止させる。


 さすがのサラさんも少々ヒートアップしすぎていると思ったみたいだ。


 鍛冶バカではあるけれど、結構常識人だからね、サラさんは。


 だからこそ抑えに回ったわけだけど、職人さん方はサラさんの言い分を理解しつつも、納得はしていないようだ。


 というか納得もなにも単純に職人さんが常識を語っただけなのだけど、鍛冶師さんにとっては非常識だったのは仕方がないと思うんだよね。


 というかそんな常識があるとか普通は思わないもんね。無理もないとは思うんだけどな。


 それでも職人さんたちはまだ言い足りなさそうな顔をしている方々ばっかりです。どうしたものかな?


「ん~。……どうかここはお引き下がりをぉ~」


 サラさんもどうしたものかと考えていたようだけど、不意に胸元をちょっといじりだした。


 なんだろうと思ったときには、鍛冶師さんたちに向かって頭を下げていた。それも谷間が見えるようにだ。わりと絶景な谷間でした。


 その絶景さに鍛冶師さんたちが鼻の下を伸ばしたのは俺たちの位置からでもはっきりとわかりました。


「し、仕方がねえな。最初は誰にでもあるからな」


「お、おうさ。先輩としてここは退くところだな」


「次からは気をつけろよ、若いの!」


 誰もが口元を抑えながら、捨てセリフを残して立ち去っていく。数人ほど前屈みになっていたように思えたけど、あえてなにも言うまい。


 とにかくサラさんはサラさんなりの武器を使って、ヒートアップしていた職人さん方を退散させることができた。そう、職人さん方は退散させられたのだけど──。


「わぅわぅ、サラお姉ちゃんのお胸も大きいの!」


 シリウスがロケットスタートを決めて、サラさんに、サラさんの胸元へとダイブしていた。サラさんはシリウスの登場に驚いていたけれど、すぐにほんわかと笑いだした。


「あららぁ~? シリウスちゃんですかぁ~。ふふふぅ~、お胸が本当にお好きなんですねぇ~」


 そう言ってシリウスの頭を撫でるサラさん。対してシリウスはサラさんの胸に顔を埋めて幸せそうです。なんか、そのうちの愛娘がすみません。


「おや、そこにいるのはカレンさんじゃないですかぁ~。あとプーレちゃんもいらっしゃいましたかぁ。ふふふ、「狼の王国」ではいかがおすごしですかぁ~?」


 サラさんはマイペースに俺たちに声を掛けてきた。


 どこに行ってもサラさんはサラさんだなぁと思ってしまったのは、無理もないと思うんだよね。


 とにかくこうして俺たちはサラさんと合流できたんだ。

 サラさんと合流です。

 続きは明日の十六時にしたいなぁ←しみじみ

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