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Act6-34 鍛冶王の片鱗

 続けて変態注意報です。

 まぁ、前回と前々回に比べればましなレベルかなと←顔を逸らす

「えっと、とりあえずこれを見てもらっていい?」


 明らかに俺よりも年上なのだけど、中身が変態すぎて敬語を使えない。


 それでも普通は敬語を使わにゃならんのだろうけれど、これ相手に敬語を使いたいとは思わない。というか勝敬語を使うこと自体を躊躇ってしまう。それが目の前にいる変態女こと鍛冶王ヴァンだった。


 鍛冶王ヴァンとは言うけれど、この変態女がそんな超一流の腕を持っているとは、とてもではないけれど思えなかった。とりあえず実力を試すという意味合いで「黒狼望」を見てもらうことにした。


 が不意に「黒狼望」が鈍く光ったように思える。……たぶんガルムが嫌がっているんだろうね。そりゃあこんな変態女にかかわり合いたいわけがないから、当然の行動だろうね。


「我慢してくれよ」


 ぼそりとガルムに言いながら、「黒狼望」を鞘から抜いた。すると変態女のまなざしが鋭いものにへと変わった。それなりに雰囲気がある。変態ではあるけれど、さすがは鍛冶王とまで謳われた人なだけは──。


「う~む。ジャスト八十のCってところかな?」


「は?」


 いきなり謎の数字とアルファベッドを口にしてくれた変態女。えっとなんのことを言って──。


「な、なんでわかるのですか!?」


 プーレが胸元を押さえながら体を捻る。その仕草で変態女がなんのことを言ったのかがわかりました。

「……殺す」


「黒狼望」を思いっきり振り下ろそうとしたけれど、とっさにデウスさんに止められてしまった。


「気持ちはわかる。わかるがここは抑えよ」


 羽交い絞めにされながら、デウスさんが必死に説得しようとしてくれているけれど、この変態女だけはこの場で息の根を止めにゃ気がすまねえ! うちの嫁の胸のサイズを平然と当てるんじゃねえよ! というか大真面目な顔で見ていたのは「黒狼望」ではなく、プーレの胸かよ! 本当にふざけんなよ、この変態女!


「いやぁ、十三、四歳くらいでそのサイズは十分巨乳だからなぁ。ついついと真剣になっちゃったよ」


 あはははと変態女は悪びれる様子もない。本当に殺してやろうか、この女? いまだったら花を手折るくらいの容易さで首を飛ばせそうだよ。


「こ、これ、ヴァン! 下手なことを言ってこの娘を挑発するでない!」


 デウスさんが慌てている。俺が本気でこの変態女の首を飛ばそうとしているのがわかっているみたいだ。でもね? 理解されたところでこの苛立ちは止められませんよ!


「ちょっとふざけたくらいじゃんかよ~」


「貴様のちょっとはちょっとの範疇に入らぬわ!」


 デウスさんが叫ぶ。耳鳴りがしそうな声量だけど、そんなことはどうでもいいんだよ! いまはこの名前だけの変態女を──。


「いいからとっととこの娘が差し出した剣をじゃな」


「あー? 魔竜の素材とナイトメアウルフの牙、それに魔鋼で鍛えられた刀をどうしろって言うんだよ?」


「……え?」


 変態女が不意に言った言葉に動きが止まった。変態女はあくびを掻きながら「黒狼望」を見ている。


「魔竜は竜族的に言えばBランク相当のそれなりの大物。その素材とそこそこ良質の魔鋼を混ぜ合わせたってところか? 発想はおもしろいっちゃおもしろいが、かなり苦労して打ったな、これ? 魔鋼と魔竜の素材がなかなか親和しなかったんじゃねーの? 筋はいいけれど、まだまだな鍛冶師の作だな。ん? おお、そこにナイトメアウルフの牙を繋ぎにしたのかよ? なるほど、なるほど。そうして親和性をあげてって、お? 面白いな。魔竜ではなく、ナイトメアウルフの牙に意思が宿っているのか? ははは、意思ある剣なんざなかなかお目に掛かれねえってのに、まさかこうしてこの目で見ることになるとは思ってもいなかったぜ」


 変態女は当初あくびを掻いていたけれど、いまや興味深そうに「黒狼望」を見つめていた。「黒狼望」を見つめるまなざしは、どこかサラさんに通じるものがある。この変態女も変態ではあるけれど、やっぱり鍛冶バカであるみたいだった。


 しかもただの鍛冶バカではなく、触ってもいないのに、見ただけで「黒狼望」のすべてを理解したようだった。変態女の思わぬ発言に俺は唖然となってしまった。デウスさんとレアは深いため息を吐いていた。


「できるのであれば最初からやらんか」


「余計な茶々を入れなければ、もっとスムーズに済んだのに」


「あははは、悪い悪い。お嬢ちゃんの嫁さんが好みでな」


 変態女は謝っているけれど、悪びれていない。むしろプーレのせいにしてくれたよ。……たしかに腕はあるが性格に難がありすぎだろう、この女!


「それで? この刀を俺に見せるのが目的だったのか? 面白いものを見せてもらったのはいいけどよ、あんたにメリットなさすぎねえか?」


 変態は怪訝そうな顔をしている。変態ではあるけれど損得勘定もできるみたいだ。まぁ、流れの鍛冶師みたいだし、そういう部分は自然と身に着くのかな? どちらにしろ、ただの変態ではないみたいだね。


「……あなたに見てもらいたいものがあるんだ。この刀とは別のものだよ」


「ふぅん? するってーと、あれかい? 俺はいま試されたってところか? ははは、信用されてねえなぁ」


 変態女は苦笑いしていた。ただ怒っているようには見えない。


 まぁ、その性格を踏まえれば信用なんてされないのは当然だろうに。


 あ、だから怒らないのかな? 


 俺がしたってこと要は値踏みだもの。


 鍛冶師にとってみれば喧嘩を売られているようなものだ。でも変態女が怒らないのはその値踏みをしょっちゅうされているからなのかもしれない。


 つまりは慣れているから怒る気もないってことなのかな? どちらにしろ、相手も無礼ではあったけれど、俺も礼を失したことはたしかだった。


「……お互いに礼を失したことをした。これでイーブンでしょう?」


「ははは、おもしろい嬢ちゃんだな? たしかに俺も無礼を働いた。そしてあんたも俺の腕を軽んじるという礼を失した行為をした。たしかにこれでイーブンだ。いいぜ? 見てほしいってものを見せろよ」


 変態女が口角を上げて笑った。その笑顔は心底楽しそうなものだった。信用できる人物とは言えない。でもその腕だけは信用してもいいのかもしれない。


 俺はアイテムボックスから件の二振りを、かつての鍛冶王ヴァンが打ったとされる二振りを取り出した。

 やるときはやる鍛冶王さんでした。

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