Act6-32 逸話と変態←エ
今日もまた遅くなりました。
で、でも、昨日よりかは十分近く速いもんね。
……さーせん←汗
と、とにかく。さっそくUPします。
ただ、その変態注意報が出ていますので、お気をつけて←汗
鍛冶王ヴァン。
俺はよく知らないけれど、この世界の人にとっては「初代英雄ベルセリオス」とその仲間である「六聖者」と同じくらいに有名な人だそうだ。
「鍛冶王さまはすごい方なのです」
と教えてくれたのは、「ラスト」まで連れてきたプーレだった。リグディオンの背中に揺られている間、プーレはずっとダウンしていたわけじゃない。まぁ、たいていダウンしていたけどね。でも途中からはちゃんとリグディオンに揺られながら話をしてくれた。そのひとつが鍛冶王ヴァンの逸話だった。
「鍛冶王さまが打たれる武具はすべて神器クラスの逸品だったそうなのです」
「神器ねぇ」
神器については「鬼の王国」で初めて聞いた。どういうものなのかを説明してもらう暇はなかなかなかったので、プーレが教えてくれるまでは俺もどういうものだったのかはわからなかった。まぁ、神器っていうくらいだから、相当なチートアイテムなんだろうなとは思っていたけれど。
なにせシリウスが尻尾に結うリボンは、母さんからのプレゼントであるリボンは回数制限なしの状態異常完全無効というとんでもアイテムだ。……まぁ、完全無効にしてはいろいろと穴があるように思えてなりませんけど。母神さまだというのに、なんでもそんなにも詰めが甘いことをしてくれるのやら。もしかして俺の詰めが甘いのも母さんの影響なのかもしれない。そんなことをぼんやりと考えている間にプーレは神器のことを話してくれた。
「神器というのは、神話において母神さまがお持ちだった装備群のことなのです。神刀空破と神剣ベルフェストは特に有名な二振りなのです」
「空破にベルフェストのほかにもあるの?」
「はい。ただ特に有名であり、名前までもがわかっているのはその二振りだけなのです。海を作りだした神杖、大地を生み出した神拳、大気を生じさせた神槍、炎を熾した神鎧、光と闇を一対にした神双などがあると言われているのです。そして刻を始まらせたのがベルフェストと言われているのです」
「ふぅん。空破は?」
「空破はこの世界を切り開いた剣と言われているのです。いわば始まりの剣と言われているのです」
「世界を切り開いた剣、か」
プーレが教えてくれた神器。そのうち空破とベルフェストについて、実を言うと俺は知っていた。いや知っていたというか、同じ名前の二振りの剣を知っていたと言いますか。
うちの実家が経営する道場。その道場の壁に掛けられている模造刀。親父たち曰く御神刀ということだったけど、その剣の名前が空破とベルフェストだった。
ただ神話にあるようなすごい剣というわけじゃない。だってあの二振りはただの模造刀だもの。実際俺は空破もベルフェストも振ったことはあった。重たくはあったけれど、あくまでも模造刀の域を超えてはいなかった。だって空破で何度か試し切りをしたことはあったけれど、空破で切れたのはせいぜい薄い紙程度。ペーパーナイフ程度での切れ味しかなかった。
ほかの模造刀もあくまでペーパーナイフ程度には使える。空破もベルフェストも仰々しいペーパーナイフ程度としか俺は思っていない。
そんなあの二振りが神器というのはさすがにありえない。いくら母さんが母神さまだからとはいえ、地球にそんな危険物を置いてくるわけがないもの。たぶんたまたま模造刀に同じ名前を付けただけなんだろう。
まぁ空破とベルフェストのことはいい。大事なのは神器がとんでもないチートアイテムだったということ。そして鍛冶王ヴァンは代々その神器クラスの武器を作り出しているということだった。
「そのうちのひとつが天王剣クロノスなのです」
「クロノスねぇ。たしか勇ちゃんの剣だったっけ?」
「はい。勇ちゃんさんの持たれている剣なのです」
勇ちゃんがいつも佩いている剣。それが天王剣クロノスだというのは、ずいぶんと前に聞いた憶えがある。なぜ天王剣なんて名前なのかはわからないけれど、英雄の佩く剣だということは知っている。そして天王剣にはもうひとつ別の剣があることもまた。それが天王剣ヴァンデルグ。「初代英雄ベルセリオス」が佩いていたとされる黒い剣だという話だった。
「クロノスは現代にも残っていますが、ヴァンデルグは当代の「七王」陛下たちとの戦いの際に消失したとされているのです。話によると竜王陛下の魔王剣によって切り捨てられたとされているのです。その魔王剣を打たれたのも鍛冶王さまだという話なのですけど、真偽のほどはよくわかっていないのです」
プーレの説明に相づちを打ちながら、ラースさんが佩いていた紅い剣を思い出していた。あれが魔王剣なんだろう。初めて見たのは、芝居中に勇ちゃんのクロノスと打ちあったときだ。クロノスと打ちあっても切り捨てられるどころか、刃こぼれさえ起こしていないほどに頑丈な剣だった。ただあの紅い刃はとても怖かった。なにがどう怖いのかはわからないけれど、ただ怖いといまでは思っている。
あの怖い剣を鍛冶王ヴァンは生み出した。もちろん当代の鍛冶王ヴァンではなく、たぶん初代とか二代目とかが打ち上げたものなのだろうけれど、それでもその剣が「初代英雄」を切り殺したことには変わりはない。というか、あのラースさんが、意地悪だけど優しいあの人が誰かを殺すところなんて想像もできない。
でも「初代英雄」をラースさんたちが殺したことには変わりない。ラースさんたちも先代さんたちを殺された怒りに突き動かされた結果だった。でも「初代英雄」たちも「聖大陸」のためにやむなく先代の「七王」たちを討ったんだ。どちらにも事情があった。悲しい事情があったんだ。
その事情の一端というか、相手を殺せる武器を作りだした鍛冶王ヴァン。その子孫が──。
「ふ、ふひひひ、お嬢ちゃん、いい体しているじゃねぇの? ちょ、ちょっとおじさんとそこまで」
「ち、近寄らないでくださいなのですぅ!」
「あ、あ、やべ、おじさん、興奮しちゃう」
「ひ、ひぃぃぃなのですぅぅぅ!」
明らかにヤバい顔をしてプーレを追いかける変態なのか。どうにもこの変態のツボにプーレは見事にはまってしまったようだ。だからと言ってね?
「人の嫁になにをしているんじゃ、ごるぅぁぁぁぁーっ!?」
うちの嫁に手を出すことを許せるわけもなく、プーレを追いかける変態に飛びかかったのだった。




