Act6-31 鍛冶王ヴァン参上
めっちゃ遅れました←汗
もう十分もないよ!?
というわけで早速Upです。
「鍛冶王ヴァンの子孫とな?」
デウスさんは驚いた顔をしている。
どうやらデウスさんの情報網にもまだ引っかかってはいないみたいだね。まぁ、無理もないのかな? なにせこの情報だってルルドたちが教えてくれたことだったもの。
ふらりと「グリード」に現れたと思ったら、またふらりといなくなってしまった。どこに行くのかと正確な場所は言っていなかったけれど、「鍛冶師がもっとも腕を見せられるところに行く」と言っていたということは、ここ「狼の王国に、それも近々「狼王祭」が開かれる「ラスト」に訪れる可能性は高かった。
だからこそ、俺たちは砂漠を超えて「ラスト」まで来たわけなのだけど、デウスさんの情報網には鍛冶王ヴァンの子孫ことヴァン姉ちゃんの存在はまだ引っかかっていないみたいだ。
まだ「ラスト」に着いていないのか。それとも「ラスト」には着いているけれど、まだ公に行動を起こしていないのか。はたまた「狼の王国」ではなく違う国に赴いてしまっているのか。
いまのところ確定となる情報はない。だからなんとも言えないけれど、デウスさんの反応を見るかぎりはまだ「ラスト」には来ていないのかもしれないね。
「はい。「グリード」に少し前までいたそうなんですが、「鍛冶師がもっとも腕を見せられるところに行く」と言って「グリード」を後にしたというところまでは情報を得まして。それで」
「近々「狼王祭」が開かれる「ラスト」にまで来たというわけ、か」
その通りですと頷くと、デウスさんは「ふむ」と言って手の中のグラスをゆっくりと揺らしていく。揺らしながら、グラスに再び口づけて、一気にあおった。どれくらい度数があるのかはわからないけれど、一気飲みは体によくないと思うんだけどな。それを言うのであれば朝から飲酒するのも同じなんですけど、それはまぁいいのかな?
「……結論から言うとじゃな。少なくとも妾はまだその情報を掴んでおらなんだ。まぁ、そなたであれば妾の反応からそこまでは予想できたじゃろうがな」
デウスさんはおかしそうに笑っていた。
「いえ、そんなことは」
「謙遜せずともよい。そなたであれば読んでくるであろうなと思ったから、言ったまでのことよ。特に怒るつもりもないから安心するといい」
空になったグラスを手持ち無沙汰なのか、ゆっくりと揺らしながらデウスさんは俺を見つめている。そう見つめてはいる。見つめてはいるんだけど、いくらか機嫌が悪そうな気がしてなりません。
「むしろ怒りを向けたいのは、妾の密偵どもじゃな。他国のこととはいえ、そのような重大な情報をどうして得なかったのか。小一時間ほど問い詰めたい気分よな」
「いや、それはさすがにかわいそうでは?」
いくらなんでも他国で起きたことまで把握しておけというのは、横暴にもほどがある。まぁ、王さまらしいと言えば、王さまらしい言葉ではあるのだけどね。ただ言われる側にとってはいい迷惑というか、勘弁してくれよと言いたいことだろうね。というかそんなことを言っていたらクーデターとか起きそうで怖いです。実際「獅子の王国」ではラスティによるクーデターが起こっていたわけだったし。そのクーデターもプライドさんによって鎮火させられてしまったのだけど。
ただあの事件のせいで、人が大勢死んだことには変わりない。それもプライドさんにとってみれば自国の民が、愛する民が死んでいったんだ。ああいうことはそう何度も起こってほしくない。だからデウスさんにもあまり密偵さんたちを責めてほしくはない。こういうことって積み重なった結果だものね。あまり積み重なってしまうようなことをしてほしくなかった。
「……安心せよ。あくまでも問い詰めるだけじゃよ。そもそも呼び出すつもりとてない。そんなことでわざわざ呼び出して説教をするほど妾も暇ではないからのぅ」
デウスさんは俺の話を聞いてため息を吐いていた。その顔にはお人よしじゃなぁと書いてあり、明らかに呆れていた。そう呆れているのだけど、その口元はわずかに笑みを浮かべているみたいだった。
「まぁ、そのこと自体はいいのじゃ。そんな重大な情報を掴めなかったという落ち度はあれど、あの者たちと言えど遊んでいたわけではなかろう。此度の件は重大ではあるが、国がひっくり返るほどのことでもない。まぁ、妾個人にとっては重大すぎることではあるのだがな」
「デウスさんにとっては、ですか?」
国がひっくり返るほどのことではないけれど、デウスさんにとっては重大なこと。その言葉の意味がいまいちわからなかった。
よく見るとデウスさんは大きくため息を吐いていた。いったいなにがあったのやら? たぶん間違いなくその子孫さんとやらとなにかしらのことがあったってことなんだろうけれど、いったいなにが──。
「オース! デウス様、遊びに来たよーん!」
いきなりダイニングに見知らぬお姉さんが入ってきた。褐色の肌に目が蒼い女性だ。最近なんだか褐色系の女性と会うことが多いように思えるけれど、どういうことだろう?
あ、いや、それは別にいいか。問題なのは、いきなり入ってきたこのお姉さんはいったい何者かってことであって──。
「来るなら来るとあらかじめ言っておけと言ったであろう? ヴァン」
「へ?」
デウスさんがおもむろに口にした名前に俺は上ずった声が出てしまった。そんな俺にデウスさんは追撃を仕掛けてくれた。
「紹介しよう。これが当代の鍛冶王ヴァンじゃ」
「オース、鍛冶王ヴァンです。よろしくー」
褐色のお姉さんは笑いながら名乗ってくれた。思いがけない形で俺は鍛冶王の子孫と出会うことになったのだった。




