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Act6-27 星空の追いかけっこ、と言う名の逃亡劇

 プーレに愛の告白をされてしまった。


「──だって私は「旦那さま」が、カレン・ズッキーさんが大好きですからぁぁぁ!」


 プーレは顔を真っ赤にして叫んでくれた。耳鳴りがしそうなくらいの声量だったけど。でもそのくらいプーレの想いは大きいってことなんだ。


 それほどまでに俺のことを想ってくれているってことなんだ。


 正直どうしてそこまでプーレに想われているのか、俺にはよくわからない。そもそもなんでプーレみたいにかわいい子が俺を好きになってくれたのかが理解できない。


 まぁ、プロポーズしたのは俺だから、プーレが俺のことを好きになってくれるのは喜ばしいことではあるよ。その時点で嫁が四人もいたのにさらに増やしたということにはあえて目を瞑りたい。いや瞑らせてください。


 とにかくいくらプロポーズしたからと言って、プーレが俺のことを好きになってくれる理由はなかった。プラムさんを助けたのは気まぐれに近いものがあった。もし仮にエリキサの納品をプーレがククルさんのところのギルドで依頼しても、俺はきっと受けなかったと思う。


 プーレの家は、プーレ曰く貧乏だったとのことだし、エリキサの納品依頼をするための資金なんてあるわけもない。それでもプラムさんのためであれば、プーレはなんだってしたと思う。たとえば報酬としてプーレを一晩好きにできるということだってプーレであればしただろう。


 うん、考えただけで腹が立つことではあるけどね。ただそれはいまだから言えることだ。もしプーレと出会っていない状態で、プーレがプラムさんのためにエリキサの納品を依頼し、その報酬を自身の純潔としていたとしても、俺は無償でエリキサを分けてあげようとは思わなかったはずだ。


 同情はしたとしても、したのは同情までだ。エリキサを分けてあげようなんて考えもしなかったはず。そもそもそんな依頼をしたところで、まともに受けてくれる冒険者なんているわけがない。


 せいぜい悪い奴に騙されて、純潔を散らされたあげくに、下手をしたら孕まされていたってところだっただろうね。


 この世界はそれくらい厳しい世界だもの。騙すよりも騙される方が悪い世界だ。だから騙されたプーレが悪いとしか言いようがないもの。


 そしてそれが赤の他人であれば、俺はかわいそうだとしか思わなかっただろうね。騙した奴をぼこぼこにすることもせず、騙されたプーレにエリキサを渡してあげることもせずに、ただそういうひどい事件があったってことを後々知ったって程度だと思う。


 長々と言って結局なにが言いたいのかと言うと、俺は結構ひどい奴だってこと。それこそプーレに好きになってもらう資格なんてないくらいにね。


 そんな俺をどうしてプーレは好きになってくれたのやら。俺にはそのことがまるでわからないよ。「プライド」で初めてプーレを抱いたけれど、あのときにはプーレは俺を好きになってくれていた。その理由はよくわからない。わからないけれど、あのときとは違って、俺もプーレが好きになっている。いやあのときも好きではあったけれど、それは人柄という部分が強くて、ひとりの女の子としてとは言えなかったよ。


 でもいまは言える。俺はひとりの女の子としてプーレが好きだ。好きで好きでたまらない。それくらいに俺はプーレが好きだ。


 好きな女の子から大胆な告白をされてしまった。ここでなにも言わないのは女が廃るってもんだよ。ただ返事をする前にちょっと言っておこうか。


「あははは、プーレはすごいなぁ」


 そうプーレはすごいよね。こんなところで愛の告白なんて俺はできないよ。しようと思わなかったよ。


 でもさ、好きな女の子が、プーレが勇気を出して言ってくれたんだ。なら俺も勇気を出さないといけないよね。……もっともプーレの場合勇気を出したというよりかは、ほぼやけくそだったように思えるけれど、そこはまぁ気にしないでおきましょうかね。


 とにかくだ。プーレが、惚れた女がそこまでしてくれたのであれば、俺だって言わなきゃならんよね?

「それって褒め言葉なんですか?」


 プーレがジト目で俺を見つめていた。褒め言葉だよと言うのはたやすい。というか実際俺にとっては褒め言葉のつもりです。


 ただどうもうまく伝わらなかったのかもしれないね。というか下手にはぐらかそうとしてしまったからか。うん、こういうことはシンプルでいい。シンプルイズザベストです。というわけで──。


「カレン・ズッキー十五歳! 俺は嫁であるプーレが好きだ! 子供を産んでほしいくらいに大好きだぁぁぁっ!」


 腹の底から、プーレに負けないくらいの声量で叫んだ。どう考えても「ラスト」の住人の方々の耳に届いているよね? あーあ、やっちゃった。でもかえって清々しいぜ。


「な、なにを言っているのですか、「旦那さま」ぁっ!?」


 プーレが慌てていた。あー、うん。そういう反応になりますよね? でもまぁそれくらい俺はプーレが好きだってことを知ってほしかったというか。やられっぱなしは悔しかったというか。まぁ、そんなところですかね?


「そんなところですかね、じゃないのですよぉ!? こ、子供を産んでほしいとかってなにを言っているのですかっ!?」


「あ、そこなんだ?」


「あたり前なのですよ!?」


 今日のプーレはなんだかあたり前を妙に強調している。でもそういうところもかわいいよね。


「わ、私がかわいいとかそういうことはどうでもいいのです! 大事なのは」


「大事なのは?」


「こ、子供ができるということは、ちゃんとできるようなことをしないといけないってことで、それにプーレがそんな大役を任されるとか、どう考えても」


「プーレは俺の子供を産んでくれないの?」


「う、産みたいですよ!? だけど、プーレは序列三位なわけで、一位と二位であるノゾミさんとレア様を差し置いてそういうことをしてもらうわけには」


 プーレはなにやらうだうだと言い募っている。物事はもっとシンプルでいいというのに。でもそういうところもプーレらしいなと思う。プーレのこういうところも俺は好きだ。だからこそ、もう腹を決めようか。


「じゃあ作ろうか?」


「ふぇ?」


「だから子供を作ろうか?」


 プーレを見つめながら言う。プーレは一瞬唖然としたが、すぐに──。


「ふ、ふわわわわぁぁぁぁーっ!?」


 夜空へと向かっていままで以上の声量で叫んでくれました。その結果プーレがまた気絶することになったのは言うまでもありません。そして──。


「へぇ、子供を産んでほしいくらいにプーレちゃんが好き、ですかぁ?」


 レアがとてもいい笑顔で、そうこめかみをぴくぴくと震わせながら、満面の笑顔で迫ってきたのもまた言うまでもありません。


「私、妹が欲しいの!」


 俺の叫びを聞いて、シリウスがとても愛らしい笑顔を浮かべて言ってくれたけれど、そのときの俺はプーレを抱きかかえてレアから、笑顔のレアから逃げまどっていたのもまた言うまでもありません。


 まぁなんというか、うん。自分の発言には責任を持ちましょうってことですね。そんな教訓を抱きながら俺はその日一晩中レアとのし烈な鬼ごっこをする羽目になったのだった。

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