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Act0-56 真実

PV5300突破しました!

いつもありがとうございます!

「エンヴィーさん? なんで」


「お風呂に入りにきました。っていうのは建前で、ククルから話を聞いたんです。カレンちゃんが、例の誘拐犯たちを捕縛するきっかけを作った、ってね」


「ククル?」


「……私のことです」


 ギルドマスターが静かに手を挙げた。ただ、顔は背けている。というか鼻を押さえていた。こういうときでもぶれないのは、さすがだ。


「お姉さまに知らせに向かわせた子たちとは、別の手段でカレンさんのことを伝えていました。その結果、星の小人亭を包囲し、犯行グループである、ハーフフッド族の女性ふたりと男性を捕縛することができました。尋問の結果、いろいろと吐いてくれたみたいですよ?」


「ハーフフッド族? 誰のことですか?」


「あなたがモーレの兄と姉と思っていた人たちのことですよ。実際は、モーレが彼らの姉であったそうですが。ハーフフッド族は見た目が幼いとはいえ、あそこまで幼い顔だちの者がいるとは、ね。おかげですっかりと騙されていましたよ。星の小人亭とは、いま思えばよく言ったものです。主犯格六人のうち、四人が小人と呼ばれるハーフフッド族だったから、そう名付けたのでしょうね。いままでそのことに気付かなかったとは、痛恨の極みですね」


 ギルドマスターが続ける。言われている意味をやっぱり理解できない。なにを言っているんだろう。ギルドマスターの、いいやエンヴィーさんもか、ふたりの言っている意味が、俺には理解できない。


「ふたりは、なにを言っているんですか? 俺にはわからない」


「……カレンちゃんは、あの一家、いえ、あの人さらいの一派に騙されていた、と言っています」


 ギルドマスターが言おうとしたのを、エンヴィーさんは留め、はっきりと言ってくれた。だからと言って、納得できることじゃなかった。


「あ、あははは、なにを言っているんですか? ハーフフッド族? モーレが? そんなことあるわけがないじゃないですか。だって、あの子は、あの子は」


 この世界に来て、初めて出会った、友達だった。みんなに紹介されて、たまたま決めた宿屋の娘。本来であれば、友達にはなれないのだろうけれど、モーレは気さくな子で、まだこの世界に慣れていなかった俺に、いろいろと気を使ってくれた。


「はじめまして、モーレって言います」


 初めて出会ったのは、部屋に案内してもらったときだ。部屋への案内は、基本的にモーレの仕事だった。その際、モーレはいつもお客さんに対して、丁寧にお辞儀していた。それは俺のときも同じだった。


「そっか、カレンさん、十五歳なんだ」


 ただ俺の見た目が、いくらか幼いってこともあったのだろうけれど、お辞儀をしたあと、モーレはとても気さくに接してくれた。同い年だと思っていた。そう言って、あの子は少し肩を落とした。同い年の友人でも欲しかったのかもしれない。


 この世界には、学校という概念が、庶民にはなかった。子供もまた立派な労働力として見られていたので、学校というのは、基本的に貴族や王族の子供が通う施設だった。簡単な読み書きや計算、生活の知恵や常識などもすべて両親から教わる。それがこの世界の貴族や王族以外の、庶民の常識だった。


 そうなると、自然と友達を作ることは、難しい。なにせ、子供でさえ、朝から晩まで働くことがあたり前なんだ。友達を作る時間なんてないし、作れたとしても、その友達と遊びに行くことさえできない。特にモーレの場合は、宿屋という職業柄休みがなかった。それでは余計に友達は作れないだろう。


 だからこそ、同年代の女の子に見える俺に対して、気さくに接してくれたのだろう。お客さんと従業員という関係は変わらないが、少なくとも休憩時間や終業後のわずかな時間に、家族以外で話ができる相手が、あの子は欲しかったのだろう。


 けれど目論見は外れて、俺はあの子よりも五歳年上だった。それでは、肩を落としてしまうのも無理はなかった。


 俺に落ち度はなかった。モーレが勝手に勘違い、勝手に気落ちしただけ。ひどい言い方をすれば、それだけのこと。


 でも、俺はそれだけのことと切り捨てることはできなかった。


「俺、辺境の村で育ったから、いまいち一般の常識とかが疎くてさ、よかったら、いろいろと教えてくれないかな? それとよければ、友達になってくれないか? 辺境の村だと同年代どころか、子供自体がいなくてね」


 友達になってほしい。そんなことを言うのは、ずいぶんと久しぶりだった。子供の頃に、何度か言った憶えはあるけれど、この歳になるとそういうことは、めったに言わなくなっていた。というか、気を遣わずに話し、一緒に飯を食って、そして一緒に遊べば、その時点でもう友達だという感じになっていた。それはたぶん、俺だけじゃなく、ほとんどの人が同じだと思う。


 友達になってほしい、と言えるのは、子供の頃の特権のようなものだ。もしくは、なにかしらの利益を求めて口にすることくらいか。子供の頃と比べると、純粋さがまるでない。それがある程度成長したら、口にする「友達になってほしい」という言葉の意味合いだって俺は思っている。


 だが、そのときの俺は、そういう利益なんて求めちゃいなかった。憐みはあったと思う。毎日家の仕事を手伝うだけの、代わり映えのしない生活を、十年も続けているのに、同年代の友達は誰もいない。そんなこの子を、俺は憐れに思った。それがモーレと友達になった動機だった。本人が聞けば、怒り出しそうなことではあったけれど、事実そのときの俺は、憐憫ゆえにモーレと友達になった。


 でも、すぐに憐みは消えた。俺は純粋にモーレが好きになった。モーレはいつも一生懸命だった。小さな体でも、頑張って接客していた。ときには失敗もあり、涙を流していたこともあった。それでも次の日には笑顔で接客をしていた。そんなあの子を俺は、とても強いと思ったし、その姿がとても愛おしく思えた。気づいたときには、俺は憐れみゆえではなく、本当にこの子の友達になりたいと思っていた。それまでは、モーレをちゃん付で呼んでいた。だが、ある日、思い切って、モーレと呼び捨てにした。


 モーレは一瞬唖然としたけれど、すぐにゆでだこみたいに顔を真っ赤にして、カレンちゃんって呼んでくれた。それまではずっとさん付けだったのが、ちゃん付けになった。それだけだったのに、それまで以上に、モーレとの距離を縮められた気がした。


 そしてそれからだった俺がモーレに「勇者と七人の仲間」を聞かせるようになったのは。モーレは仕事終わりの、わずかな時間をとても楽しみにしてくれていた。俺自身、母さんの手がかりや印税とか考えてはいたけれど、単純にモーレに話をするのが楽しみになっていた。


 ある意味では、お互いに求めて合っていたとも言えなくもない。変な意味に聞こえるけれど、実際間違ってはいない。


 この異世界での、最初の友達。それがモーレだった。そのモーレに騙されていた。そんなわけがない。そんなことがあっていいわけがない。


 そもそも、あの子はそんなことをしない。モーレが俺を騙すなんて。そんなことあるわけがなかった。そんなことをあの子がするわけがなかった。


 でも、エンヴィーさんとギルドマスターがこんな嘘を吐く理由がなかった。ならば、モーレは本当に俺を騙していたのだろうか。


 いや、あるわけがない。だってそんなことをして、あの子になんの利益がある。人さらいと言っていた。俺を売り飛ばすつもりだったと言われるかもしれないが、俺にはそんな価値なんかない。どこにでもいるような、地味な女じゃないか。中身だって、とうてい女らしくない。むしろ女の皮を被った男だって言われたとしても、否定しようはない。実際俺はそういう性格で、そういう趣味嗜好をしている。さすがに同性相手に、女の人相手に欲情することはないけれど、子供の頃ミニ四駆にはまっていたり、プラモデルを作ったり、サッカーをしていたり、と、実に女の子らしくない趣味だったと言える。


 そんな俺を、女として売り飛ばしたところで、たかが知れている。つまり俺は商品価値がまるでないってことだ。そんな俺を攫うなんてあるわけがなかった。


 そもそもモーレはあの盗賊たちに攫われたんだ。モーレが人さらいの一派であれば、あいつらとも繋がりがあるだろうに。なのにモーレは攫われた。それをどう説明するって言うんだろうか。


「モーレは攫われてはいなかったのですよ」


「攫われていなかった?」


「正確に言えば、モーレもまた彼らを潰したかったのでしょうね。なにせ逃げてきたとはいえ、盗賊ですから。当然人さらいをすることもある。そしてそれはモーレたち一派のお株を奪うことになる。つまりは商売敵ってことです。いままで独占していた市場を荒らされれば、誰だっていい顔はしませんし、支障がでかねない。となれば、それを防ぐには、相手を潰さないといけない。しかし真っ向から対立すると、自分たちの存在が露見してしまうし、「獅子の王国」で盗賊をしていた連中と真正面からぶつかれば、犠牲も大きくなる。たとえ勝ったとしても、一派の存続さえ難しくなる可能性もある。ならば、犠牲もなく、自分たちの存在を露見することもなく、相手を潰せる方法。ひとつしか私には思いつきません」


 自分たちが一切手を下すことなく、影響も受けることもなく、邪魔者を排除する方法。そんな魔法みたいな方法があるわけがない。昨日までの俺であれば、そう言っていた。けれど俺はその方法を知っている。いや、俺自身それをしたんだ。俺にとっては、そんなつもりはなかった。だが、もしギルドマスターたちの言う通り、モーレたちが今回の件を組んだとするならば、俺がしたことは。いやモーレが俺にさせたことはつまり──。


「……事情をなにも知らない、第三者を利用する?」


 ギルドマスターとエンヴィーさんが同時に頷いた。たしかに、それが目的であれば、攫われたふりをするのも当然だろう。だってそうすれば、助けに来た誰かの手で、相手を潰せる。自分たちの手を汚すこともなく、疲弊することもなく、そのうえ存在が露見することもない。行き当たりばったりと言えなくもないが、可能性としては、十分にありえることだった。でも解せない。


「たしかに頷けなくもないけれど、それだって不確定要素が多すぎませんか? そもそも助けに来たのが俺だったから、連中は潰せました。けれどほかの人だったら、どうなっていたか」


「だからこそ、「勇者アルクを呼べ」という手紙が来たのですよ。勇者アルクであれば、盗賊を殲滅することなど容易い。そのうえモーレとも面識がある。加えて、面識がある程度だったとしても、いたいけな少女が誘拐され、自身が呼ばれているというのに、赴かなかったら、勇者アルクの株を下げることになります。どうしてモーレたちが勇者アルクに固執するのかまでは、わかりませんでしたが、とりあえず彼らの目論見はあなたによって潰され、そして達成もしている。当分はおとなしくしているとは思いますが、念のためにということで、捕縛したのです。なにせモーレたちが次に狙うとすれば、あなたの身柄しかありませんからね。固執する理由は定かではありませんが、少なくともあなたは、勇者アルクを呼び出せるだけの価値がありますからね。今度は狂言ではなく、本気であなたを誘拐するつもりでしょうから。そうならないために先手を打った。今回のあらましはそんなところですね」


「それでも納得できないです。なんで俺なんですか? どうして俺だったんですか? 俺以外にだって候補はいるはずだ。だいたい、ギルドマスターの言ったことは、全部憶測でしょう? 確証なんて」


「ありますよ。あなたが気絶したのは、あの盗賊たちから攻撃を受けたということでしたが、実際は違うのです。はじめにあなたを攻撃し、昏倒させるきっかけを作ったのは、モーレ自身です。状態異常系の魔法をあなたに放ったのですよ、彼女は。私は精霊を通して見ていましたから、知っています」


「嘘、ですよね?」


「本当のことです。あなたが後ろを振り返った瞬間を狙って、彼女が魔法を放ちました。ハーフフッド族は、魔法を得手とする種族ですから。そしてあの盗賊たちには、魔法使いはいませんでした。ならば、現場にいた第三者が、魔法を放ったということになります。なにせあなたの傷は頭部の打撃痕がひとつだけでしたからね。それ以外の傷はなかった。二回攻撃を受けたはずなのに、一回分の傷しかない。状態異常の魔法は、傷を残しません。そしてあの場であなたと彼の盗賊たち以外にいた第三者は、彼女しかいません」


 逃げ道を塞がれていく。言われていることは事実だった。たしかに俺は二回攻撃を受けた。でもギルドマスターは、一回分の攻撃の痕しかなかったと言っていた。そしてあの盗賊たちは、みんな武器での攻撃しかしてこなかった。仲間がいるから、攻撃魔法を放てなかっただけなのかもしれない。


 しかし言われてみれば、後ろから攻撃を受けたのはたしかで、そして後ろから攻撃を仕掛けられるのは、盗賊だけではなく、モーレにも可能だった。むしろモーレからの攻撃だからこそ、俺は反応できなかったのかもしれない。モーレから攻撃を受けるなんて、考えてもいなかったからだ。


 本当に俺は騙されてしまったのだろうか。本当にモーレは俺を騙していたのだろうか。


「……まぁ、それもモーレたちの尋問が終わればすむ話です。彼女の弟妹たちは、すでに口を割っていますので、あとは彼女が割れば、それで──」


 そうギルドマスターが言った、そのときだった。


「ギルドマスター! 例の誘拐一派の主犯格が、脱走しました!」


 脱衣場から、職員のお兄さんの声が聞こえてきた。

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