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Act6-9 狼王登場

 本日九話目です。

「あれが「ラスト」です、「旦那さま」」


 レアが指さしたのは、夜の闇の中でもはっきりとわかる白亜の城とその周囲に広がる街だった。


 街の周囲はすでに星の光さえも届かないくらいに真っ暗だった。そんな環境だからか、「ラスト」の城壁と外壁はすべて白で統一されていた。


 たぶん周囲が夜の闇で覆われているからこそ、夜の闇でもはっきりと浮かび上がる白で統一されているんだろうけれど、それがかえって不気味だった。なんというか街全体が幽霊みたいにいきなりぼうっと現れたように思えてならない。


「なんというか不気味な街だな」


「まぁ、夜の闇の中からいきなり現れたような街ですからね。そう思われるのも当然でしょう。まだ距離はありますけどね」


 レアが笑いながら、「ラスト」を見つめていた。そう「ラスト」にたどり着いたとは言ったものの、正確には「ラスト」の手前の街にたどり着いたというだけのことだ。


 ならなんで「ラスト」にたどり着いたと言ったのか。実は「ラスト」の手前にある街は「アスモ」という街なのだけど、その「アスモ」と「ラスト」は大きな目で見れば、ひとつの街だった。正確に言えば、首都「ラスト」を覆うようにして「アスモ」が広がっていた。そして「アスモ」と「ラスト」の間にもやはり砂漠は広がっていた。まぁ、砂漠と言ってもいままで旅してきた砂漠よりもはるかに小さなものだ。いままでの砂漠のように魔物が出現するわけでもない。


 あ、そっか、言っていなかったけれど、いままでの旅路にも魔物は出ていました。砂漠特有の魔物であるデザートスコルピオンやキングコブラを思わせるノストゥラという魔物がわんさかと出てきていた。ただそのわんさかと出てきた魔物たちは、すべてリグディオンによって踏みつぶされてしまったのだけども。


 実はリグディオンはその風貌とは裏腹にCランクの魔物なんだ。でここら辺の砂漠の魔物はたいていDランク。つまりはリグディオンの敵ではない。むしろリグディオンにとってはおやつのような存在ばかりだった。


 これも言っていなかったけれど、リグディオンはその風貌とは違い、肉食です。基本的には踏みつぶしたデザードスコルピオンやノストゥラの死骸なんかを食べているけれど、試しに渡してみたバンマーの肉も大変美味しそうに食べておりました。ちょっとだけ不気味というか怖かったのは秘密です。


 意外と戦闘力が高かったリグディオンのおかげでこの旅の最中で戦闘することがなかったのは僥倖だったね。こっちは酷暑と酷寒で苦しめられて、戦闘どころじゃなかったからね。


 だから代りに戦闘をというか、襲い掛かる魔物たちを始末してくれるリグディオンの存在は素直にありがたったよ。


 これほどに強いのに人間に飼われているのは不思議だったけれど、レア曰く──。


「リグディオンは頭のいい魔物ですからね。人間を乗せて旅するとその道中で人間の臭いに誘われて出て来る魔物たちを捕食できる。人間にとってみればリグディオンは運び屋兼護衛役としてこれ以上とない存在になってくれる。いわば持ちつ持たれつの関係なんですよ。リグディオンと砂漠の民は」


「鬼の王国」でいうウープと同様に共存共栄の関係を砂漠の民とリグディオンは築いている。だからこそリグディオンはそれほどの強さを持ちながらも、人間の脚として働いている。なんというか人と魔物の在り方としては理想的な関係と言えるのかもしれない。いくらかビジネスライクすぎる気もしなくはないけれど、これはこれでありなのかもしれないね。


 まぁ、それは置いといて。


「ラスト」と「アスモ」の間に広がる砂漠はリグディオンの脚であれば、半日もあれば踏破できる。人であってもたぶん一日歩き通せば踏破できそうなくらいのものだ。


 ただ砂漠でありながらも、ちゃんとした道があった。それも石畳の道が「アスモ」と「ラスト」を繋ぐようにして存在している。


 なんでそんな道があるのかはわからない。加えて言えば、道の外側、ふたつの街の間に広がる砂漠にはそれまでの砂漠にはなかった建築物らしき残骸が数えきれないくらいにあった。まるで道だけを残して街が丸ごと消えてしまったみたいだった。


 実際どんな理由があるのかはわからない。わからないけれど、砂漠の中にある残骸からはたしかに人が生活していたという痕跡があった。


 その痕跡は夜の闇に覆われてすべてを垣間見ることはできない。けれどその痕跡を横目にしながらの移動は、それまでの砂漠の旅路とは違い、心を荒涼としてくれた。


「わぅ。なんか怖い場所なの」


 シリウスはいままで同様に俺と同じリグディオンの背中に乗りながら、体をふるりと震わせていた。それはシリウス同様に一緒のリグディオンに乗っているプーレも同じだった。


「ここは、ひどく怖いのです。まるで魂までをも凍らせてしまうくらいに。いいえ、魂を震わせるようなそんな寒々しい場所なのです」


 プーレは砂漠をあまり見ないようにしていた。というか俺の胸に顔を埋めるようにして俺にぴったりとくっついていた。プーレも嫁だから別にそういうことをされても嫌ではない。嫌ではないのだけど、ちょっと周囲の目が突き刺さると言いますか。誰もがにやにやと生暖かい目を向けてくれると言いますか。とにかくなんとも居心地が悪い時間を俺は過ごすことになった。


 そんな居心地の悪さをどうにか我慢しつつ、俺たちはようやく首都「ラスト」の正門が見えるところまでたどり着いた。そのとき。


「待ちわびたぞ、貴様ら」


 頭上から聞き覚えのない声が不意に聞こえてきた。レアがいくらか辟易とした表情を浮かべていたので、声の主が誰なのかはなんとなくわかった。それでも声の聞こえた方を、頭上を見上げるとそこには──。


「ようこそ、我が膝元「ラスト」へ。歓迎するぞ?」


 酷薄とした笑顔を浮かべた、大層ご立派な胸部装甲を持ったロリータさんが脚を組んで宙に浮かんでいたんだ。

 続きは九時になります。

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