Act6-8 シリウスとアルトリア
本日八話目です。
アルトリアファンの方は注意をお願いします。
酷暑の次に待っていたのはまさかの酷寒だった。
でもその酷寒の中でもリグディオンの足取りは変わらない。ゆっくりとしているけれど、たしかな足取りで「ラスト」へと向かって行く。
目が覚めても外は真っ暗だった。
でも町の中は夜も昼間も変わらないくらいに賑やかだった。不夜城という言葉があるけれど、「ラルト」以降の町や村はすべて不夜城を思わせてくれる。
なにせすべての住人が等しく眠る時間がないんだ。どの村も町もどの時間でも誰かが起きていたし、商店も一日中開いていた。さすがに店員さんの顔ぶれは変わる。一日中店が開いているからと言って、店員さんまでもが一日中同じ人とは限らないものね。
それは住人も同じで、朝型の人と夜型の人とで完全に別れていた。もっとも常に夜だから、いつが朝でいつが夜なのかはわかりづらかったけれど、たしかな違いはあった。というのも「ラルト」以降の町から、吸血鬼の姿を見受けられるようになったんだ。
「むぅ、吸血鬼なの」
えらく真っ白な肌をした人と行きかうことが「ラルト」以降で一気に増えた。と同時にシリウスが少しだけ不機嫌になったんだ。
どうやら吸血鬼を見てアルトリアと重ねてしまったみたいなんだ。というのも「グリード」から帰ってきてすぐにちょっとひと悶着があったんだよね。
「き、きゃぁぁぁーっ!」
モルンさんとミーリンさんの姉妹によって強制的に書類仕事をさせられていたとき。いきなり中庭から絹を裂くような叫び声が聞こえてきたんだ。
何事かと思って窓の外を見やるとそこには──。
「し、シリウスちゃんが、シリウスちゃんが不良になってしまっているぅぅぅーっ!」
進化したことで外見が大きく変わったシリウスを見て、泣き叫ぶアルトリアがいた。アルトリアの反応はだいたい予想できていたのだけど、想定を裏切らないところはさすがでしたね。そんなアルトリアにシリウスは辟易としていた。
「うるさいなぁ。私は不良になんてなっていないもん」
「う、うるさい? まま上に向かって、まま上である私に向かって、そんなひどいことを。やっぱり不良よ、シリウスちゃんが不良になってしまっているの!」
「……本当にうるさい」
アルトリアはシリウスの言動ひとつひとつに対して、大げさな反応をしてくれた。まぁ、それまでの灰色から銀髪になってしまったのだから、たしかに髪を染めたという風に見えなくもない。そして髪を染める=不良になったという図式は、大昔であれば通じたものではあったのかもしれない。
まぁ現代であれば髪を染めたくらいで不良というわけではないんだけど、アルトリアにとっては髪を染める=不良ということなんだろうな。
……正直アルトリアの白髪も見ようによっては色を抜いたという風に見えなくもないから、それはそれで不良化していると言えなくもないんじゃないかなと思ったけれど、それを言うと確実に怒られそうだったのであえてなにも言わないことにした。
「なんで、なんで、なんで!? なんで不良になってしまったの、シリウスちゃん!?」
「……だから何度も言っているでしょう? 不良になんてなっていないって。何度言えばわかるの? バカじゃないの?」
吐き捨てるようにシリウスは言っていた。アルトリアに対する反抗期はいまだに終わらないようだ。そしてその反抗期まっただ中にいるシリウスからのひと言にアルトリアは──。
「ば、バカ? わ、私はまま上だよ? シリウスちゃんの大好きなまま上なんだよ!? なのにバカ? まま上をバカなんて、そんなひどいことを言う子にまま上は育てた憶えはありません!」
「……あんたに育ててもらった覚えはないよ」
「あんた? 私に向かって、まま上に向かって、あんた!?」
「そうだよ? なにか悪い?」
「どうして、どうしてそんなひどいことが言えるの? どうしてそんな汚い言葉が言えるの? ぱぱ上のせいなの? ぱぱ上の言葉遣いを真似して、そんな」
「パパのせいにしないでよ。パパは悪くなんかない」
シリウスはアルトリアを睨みつけつつも、俺を擁護していた。シリウスなりの優しさではあるんだろうけれど、そのときの情況では俺を擁護するとかえって俺に対するあたりが強くなるのだけど、そのあたりのことまではシリウスも考えてはいなかったんだろうね。その結果──。
「「旦那さま」! シリウスちゃんになにをしたんですかぁぁぁっ!?」
アルトリアが鬼のような表情で叫んでいましたね。ただ叫んですぐにシリウスが怒っていたけれど。
「だからパパのせいにすんな! パパはなにも悪くないの! 私が気に食わないなら私だけに言えよ! ほかの人まで巻き込むな!」
シリウスはアルトリアを睨み付けながらそう言い切った。その言動にアルトリアは完全に泣いてしまった。
「シリウスちゃんが、シリウスちゃんが、雌犬みたいな不良になったぁぁぁーっ」
アルトリアは泣き叫んでいた。けれどシリウスは辟易とするばかり。それどころかアルトリアが不用意に言ってしまった「雌犬」という言葉に怒りをあらわにしていた。
「カルディアママを悪く言うな! あんたのそういうところが本当に嫌い! 大っ嫌いだ!」
シリウスはそう叫ぶと中庭から出て行ってしまう。残ったのはひとりすすり泣くアルトリアだけだった。
それからというもの、シリウスは露骨にアルトリアを無視するようになった。アルトリア以外に関してはいままで通りに接している。ただアルトリアだけは露骨に無視していた。アルトリアもそれを理解しながらも、必死にシリウスの気を惹こうとしていた。
でも出発までの数日間で、ふたりの関係は改善されることはなかった。普段はアルトリアと喧嘩ばかりするプーレもアルトリアを気遣っているみたいだった。ただアルトリアにはプーレの気遣いを受け入れられる余裕は残っていなかった。
「私に触れるな、新参者!」
アルトリアはプーレをまるで仇を見るような目で睨み付けていた。プーレはなにもしていない。ただアルトリアに「大丈夫ですか」と声を掛けただけだった。ただそれだけなのに、アルトリアはプーレの頬を叩いていた。そんなやりとりを見てシリウスが黙っているわけもなく、結果的にアルトリアは自分で自分の首を絞めてしまっていた。
それからだな。シリウスが吸血鬼という種族を好ましい目で見なくなってしまった。アルトリアは吸血鬼の人魔族だけど、半分だけでも吸血鬼であることは変わらない。だからなのか、シリウスは「ラルド」以降で吸血鬼を見かけるたびにむぅと唸るようになっていた。
「これではデウスに会ったら、なにかしでかしてしまいそうですね」
レアは困ったように笑っていた。それは俺も同意見なのだけど、「ラルド」からの旅路でシリウスの吸血鬼に対する嫌悪感を拭うことはできなかった。拭えぬまま、俺たちは──。
「あれが「ラスト」です、「旦那さま」」
「狼の王国」の首都である「ラスト」へとたどり着いてしまった。
続きは八時になります。




