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Act6-4 いざ「狼の王国」へ

 本日四話目です。

「アダマンタイトを加工するには私ではまだまだ力不足ですねぇ~」


 サラさんは悔しそうな顔で言っていた。サラさんは「ラース」でも評判の鍛冶師だった。そのサラさんでもアダマンタイトの加工はできなかった。


「お師匠様であればたやすいんでしょうけど、私はそもそもアダマンタイトを触ったのは今日が初めてなのですよ~。だからどうすればいいのかがさっぱりですね~」


 加工どころかそれ以前の問題でもあったようだった。となるとサラさんを頼ることはできそうになかった。


「それに私になど頼らずに、鍛冶王さまの子孫殿にお願いするのがいいと思いますけど~?」


 サラさんには「グリード」に鍛冶王ヴァンの子孫がいたということを話していた。だからこそサラさんに鍛冶王ヴァンの子孫が向かったという「ラスト」へと向かうことを薦められてしまった。


「できることであれば私もお会いしたいところですけどねぇ~」


「なら一緒に「ラスト」まで行きますか?」


「う~ん、そうしたいところなんですけどねぇ~」


 サラさんは残念そうな顔をしていた。鍛冶バカであるサラさんにとって、子孫とはいえ、鍛冶王ヴァンの仕事を見たいと思うのは当然のことだった。


 ただ見たくてもサラさんには仕事があるので、鍛冶王ヴァンの子孫が向かったという「ラスト」には向かえないようだった。


「まぁ、仕事が入っているとは言っても~、あと一週間ほどで終わるんですけどねぇ~」


「そうなんですか?」


「ええ~。でもその仕事が終わってからだと遅すぎるでしょう~? 鍛冶王さまの子孫殿がまたふらりとどこかへと向かわれてしまうかもしれませんし~。あ、いや、ないかぁ~」


 サラさんはなにかを思い出したかのようにぽんと手を叩きながら言った。こっちとしては、サラさんがなにを言いたいのかがさっぱりだったけども。


「たしかそろそろ「ラスト」ではお祭りがあるはずですからぁ~」


「お祭り?」


「ええ、「狼王祭」という「ラスト」における一年で最大のイベントですねぇ~。その中で「鍛冶師コンテスト」なるものが行われるんですよぉ~。鍛冶王さまの子孫殿も鍛冶師であれば、そのコンテストに参加する可能性は高いと思いますよぉ~」


「コンテストか。たしかに腕を競うというのであれば、そういうのに出てもおかしくはないのかな?」


「ええぇ~。ですから「ラスト」に行けばまず間違いなく、鍛冶王さまの子孫殿にお会いできると思いますよぉ~? 「狼王祭」はあと一か月後くらいですからぁ~、一週間出発をずらしても間に合うかとぉ~」


 サラさんは嬉しそうに笑っていた。サラさんにはいろいろと世話になっている。そのお礼を兼ねて一緒に「ラスト」まで行くのも悪くはなかった。


「わかりました。じゃあ、一週間後にお迎えにあがれば?」


「いいえぇ~? カレンさんたちは早めに出てもらって構いませんよぉ~?」


「え? でも」


「「狼の王国」の気候に慣れてもらった方がいいと思いますのでねぇ~」


「慣れる?」


「ふふふ、それは国境まで行けばわかりますよぉ~。とにかく私は仕事が片付き次第、「ラスト」へ向かいますのでぇ~、現地でお会いしましょう~」


 サラさんはなぜか茶目っ気のある笑顔を浮かべていた。このときの俺はその表情の意味を理解していなかった。その結果がいまに至るわけなのだから、本当に笑えないよ。


 ちなみにプーレがいる理由は──。


「ちなみにですがぁ~。「ラスト」の夜景はとても神秘的のようですよぉ~? その夜景を見ながらプロポーズすると、ほぼ百パーセント成功するという話だそうです」


 にやにやとサラさんは笑いながら言っていた。いや、それが理由と言うわけじゃないですよ? プーレを正妻に選ぶと言うわけじゃない。


 ただ単にそれほどきれいな夜景であるのであれば、スイーツ職人でありながらも、治療師としての修業をしているプーレを慰労として連れて行ってあげるのもいいかなと思っただけだ。それ以上の理由はない。ないといったらないんだ。


 とにかくサラさんと別れた後、俺はギルドへと戻り、プーレに旅支度をするように言った。「ラスト」まで一緒に行こうと言うと、プーレではなくプーレのお母さんであるプラムさんと治療師の師匠であるララおばあさんが過敏に反応していたけども。


「「ラスト」に行くですか。ふふふ、つまりそういうことですよね?」


 にやにやとプラムさんは笑っていた。明らかに誤解をしていたけれど、プラムさんの中ではもう決定事項のようになっていたよ。


「あの子の晴れ姿はもう見られないけれど、プーレのが見られるのであればよしとするかねぇ」


 ララおばあさんはララおばあさんで反応に困ることを言ってくれたけれど、最終的にはプラムさん同様ににやにやと笑っていましたね。


「「ラスト」へ行くとなにかあるのですか?」


 ただ当のプーレだけは意味がわかっていなかったようだ。いや、意味というか、そもそも行くこと自体に意味はないよ? ただの慰労です。そう慰労。でもプラムさんとララおばあさんの笑顔は止まらなかった。


「……夜景がきれいなんだって。プーレはいろいろと頑張ってくれているから、慰労として連れて行ってあげたいなって思って」


「ぷ、プーレのためにですか?」


「いや、もちろんそれだけじゃないけど、でも主目的のひとつではあるけど、どうかな?」


 プーレは頬を染めていた。頬を染めつつ、嬉しそうに頷いてくれた。その笑顔がめちゃくちゃかわいかったのは、言うまでもない。


 ただその後が当然のように大変だったよ。俺が「鬼の王国」に行っていたのは一か月くらいだった。その間に貯まりに貯まった決裁待ちの書類が山のようにありました。


「お出かけするのであれば、これらをまず片づけてくださいね、マスター?」


 ミーリンさんとモルンさんがにこにこと笑いながら、旅支度をしていた俺の元へと書類を持ってきてくれたよ。その決裁をするだけで三日はかかりましたね。


 まぁ、そのおかげでプーレの旅支度も整えられたし、シリウスが進化したことをみんなに知ってもらう時間もできた。


 ある意味では怪我の功名のようなものだった。その分決裁が大変でしたけど、プーレが喜んでくれるのであればいいかなと思ったんだよ。


 でもね、国境に来て後悔しました。だって「竜の王国」と「狼の王国」の国境に広がっていたのは──。


「なんじゃこりゃぁ」


 一面に広がる砂の海。つまりは広大な砂漠が広がっていたんだ。

 続きは四時になります。

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