Act6-2 雪の次は砂漠です
本日二話目です。
香恋視点になります。
暑い。
ただただ暑い。
「わ、ぅ、~」
目の前でシリウスがへばっている。毛並みのいい尻尾はいまや力なく垂れ下がっていた。狼の魔物なだけあって、この中で一番毛が多い影響だろうね。
「これ、やばいのです。これ、死んじゃうのですよぉ~」
シリウスの次にへばっているのは、プーレだった。
港町である「エンヴィー」で生まれ育ったからか、あの穏やかな気候と潮風の街で過ごしていたからなのか、プーレもこの暑さには参っているみたいだ。
「ふふふ、プーレちゃんもシリウスちゃんもかわいいですね」
そんなふたりとは対照的にレアはかなり余裕がある。
プーレを前に乗せて、リグディオンを操っている。最初はプーレを後ろから抱き締める形でプーレにリグディオンを操らせていたけど、プーレがへばったことでレアが代わりにリグディオンを操っている。
俺も最初は手綱を握りたいというシリウスのお願いを聞いてあげていたのだけど、シリウスが暑さにやられたことで俺が手綱を握っている。まぁ、へばる前から手綱は一緒に握っていたんですけどね?
いくら進化して成長したとはいえ、見た目は十歳児になったとはいえ、中身はまだ産まれて一年も経っていない子だ。
そんな子に操縦なんて任せられません。俺も日本ではまだ免許を取れなかったけど、それでもシリウスよりかはましだ。それにリグディオンの操縦は、レアから一通りレクチャーを受けたので問題はない。
プーレもレクチャーを受けていたけど、レアってばレクチャーしながら圧倒的なブツをわざとプーレの背中に当てていたからね。
プーレは「あわわわ」と言いながら目を回していたよ。
「当たっているのですよ!?」
「大丈夫よ、プーレちゃん。当てているだけだから」
ついにはブツが当たっていることをレアに伝えるも、レアがプーレに返したのはそんなお言葉でしたね。まさかの「当ててんのよ」とは。さすがはレアだなと思いました。
「プーレちゃん。大丈夫?」
「だいじょばないです」
「あらあら、それは大変ね」
「なのです。だからレア様、そろそろやめていただきたいのですよぉ」
「ふふふ、なにをかしら?」
プーレは涙目になり、肩を上気させている。頬どころか肌が淡く紅潮していた。「熱」という意味であれば、やられているのだけど、その熱の意味合いはだいぶ違っている。
「レア様は、意地悪なのですよぉ」
「いいえ? 悪いのはプーレちゃんよ? だってお姉さんにちょっと触られたくらいで、こんなにも反応しちゃうプーレちゃんが悪いのよ? いますぐ食べちゃいたいくらいにいまのプーレちゃんはとても魅力的よ」
クスクスと笑いながらプーレの耳に息を吹き掛けるレア。言っている内容が明らかにそっち系だけど、実際間違っていないです。
なにせレアってば、プーレの体をまさぐりながら、リグディオンを操っているもの。
心なしかリグディオンの表情が、普段は無表情のリグディオンが困った顔をしているね。「俺の背中の上でいかがわしいことをするな」と顔に書いてあるように思えます。なんかすみません。うちの嫁ふたりがご迷惑をおかけしています。
「ふふふ、プーレちゃんはまだそんなに大きくはないけど、感度はいいのね? 「旦那さま」にここ最近抱かれていないからなのかしら」
「そんなことは」
「じゃあ直近で抱いていただいたのは」
「ひ、秘密なのです」
「あら? 私に隠し事をするなんていい度胸ね? これはオシオキが必要ね?」
「あ、レア様、ダメ、ダメなのです!」
レアが服の裾からプーレの肌を直接触り始めたけど、そろそろ止めた方がよさそうだ。
「レア! 暴走しすぎだよ!?」
プーレを弄るのもほどほどにしてほしいものだ。……決して俺も混ざりたいとはいうわけではないのです。その気になれば、ねぇ?
ただ今回はちょっとレアの暴走が目に余る。わかるよ? いまのプーレがエロか、げふんげふん、魅力的なのはわかるけどもプーレは俺の嫁なのだから食べちゃダメ!
「プーレは俺の嫁なんだから襲っちゃダメです」
レアにはっきりと言うと、レアは残念そうな顔をしてくれました。対してプーレは耳まで真っ赤になって俯いている。うん、プーレはいつも初々しくてかわいいね。その分夜がすごいけども、ってそういうことはいいとしてだ。
「私もお嫁さんですよ?」
レアは拗ねたように唇を尖らせている。別に拗ねなくてもいいじゃん。と言えたらいいんだろうけど、それはそれで後が怖いです。
まぁいまは好きなように言わせておきますかね。
「とりあえずプーレにいたずらするなら、こっちで預かるからな?」
「じゃあシリウスちゃんと交代ですよ?」
「……わかった」
シリウスの面倒を見てあげたいけど、プーレにいたずらされるのも困る。
苦渋の決断になるけど、シリウスにはレアのリグディオンの方に──。
「パパと一緒じゃないと嫌だもん」
シリウスはリグディオンではなく、俺の服の袖を握りながら首を振る。
ここに来てから妙に甘えてくるけど、それさえも愛おしいです。
でも、困った。シリウスをレアに譲らないとプーレがいたずらされてしまうわけで。どうしたらいいんだろうか?
「……はぁ、仕方がないですねぇ~。「グリード」では私が「旦那さま」とシリウスちゃんを独占したわけですから、今回は譲りましょう」
やれやれとレアがため息を吐き、リグディオンを寄せてくる。
「はい、プーレちゃん。あなたも私も大好きな「旦那さま」ですよ。行けますか?」
「えっと、止めてくださればどうにか」
「ということですが、よろしいですか?」
「え、あ、うん」
レアらしくないあっさりとした対応に戸惑いつつも、リグディオンを止める。レアのリグディオンもほぼ間を置くことなく止まった。若干ずれがあるけど、ほぼ問題はなさそうだった。
「プーレ、手を」
「は、はいなのです」
プーレは頬を真っ赤にしながら、差し出した手を取ってくれた。位置を微妙に調整しながら、プーレをこっちのリグディオンに乗せてあげた。
ただ、いくらか勢いをつけすぎてしまったのか、プーレは勢いよく俺の胸のなかに飛び込む形になった。
が問題なく抱き留めることが──。
「……わぅ」
抱き留めることができたと思ったのだけど、シリウスが不意に体を起こしてしまい、プーレの背中に当たってしまう。その結果──。
「っ!?」
「あら、情熱的ですね。妬けちゃいます」
くすくすとレアが笑っていた。笑っているけど、いくらか顔が怖い。
なにせ俺とプーレは事故のようなものだけど、キスしてしまっているのだから。プーレの唇はとても甘い。スイーツ職人だからスイーツの味見をよく行うからなんだと思う。
「は、はわわわわわっ!?」
けれど、キスの後は甘い雰囲気など一切ないのが残念なところではあるけど、まぁいいかな。
「えっと、その、ごめんね?」
謝るけれど、プーレはすでに俺の話なんて聞いていない。いや聞けるような精神状態ではなかった。ただここでそんな慌てられるのも困ってしまうのだけど、というか無駄に動くと余計に体力を消耗するだけであって──。
「きゅ~」
「あ」
プーレは目を回して気絶してしまった。
やっぱりかぁと思いつつもとっさに抱きとめる。普段であればこれくらいのことで気絶なんてしないだろうけれど、今回ばかりは場所が悪すぎる。
「……砂漠だもんなぁ」
そう、俺たちがいまいるのは砂漠のど真ん中だった。どうしてそんなところにいるのかと言うと、いまからもう一週間くらい前のことになる。
今回の話でわかる通り、六章ではプーレとの関係を描く予定です。
続きは二時になります。




