Act6‐1 ある追憶~世界の宝~
さて、四月の更新祭り、というか、一周年記念の更新祭りを始めます。
今日は何話更新なのかは、あとがきにて。
闇が広がっていた。
種族柄、この身は闇との親和性が高い。もっともそれはほかの有象無象どもの話であって、妾にはなんの関係もない。
もっともそれはいまだからこそであろうが。当時の妾はまだ幼く弱かった。いまの妾は最強と言っても過言ではないほどではあるが、当時はまだ幼く弱かった。ただ当時から妾の美貌は国宝級、いや、世界の宝とでもいうべきものであった。だからであろうな。当時の妾は「豚」に囲われてしまっていた。
「これほどのシロモノはなかなかにお目に掛かれんなぁ」
いまでも吐き気を催すほどに「豚」は卑しい笑顔を浮かべていた。その笑顔を浮かべながら「豚」は来る日も来る日も妾を汚してくれたよ。
とはいえ、純潔を奪われたわけではないが。あの「豚」は見ためとは違い、とっておきは最後の最後まで取っておくという習性があったようだ。
おかげでどこぞの痴女とは違い、純潔を奪われることにはならんかった。ただあの痴女とはまた異なる方法で妾もまた嬲られていたがな。
「ふふふ、いい味だぁ。徐々に、徐々に私をおまえの中に植え付けてやる。気づいたときにはどうしようもないほどにおまえはおまえ自身が侵されていることを知るだろう」
「豚」はそう言っていつも妾の肌を舐めまわした。見目同様にその唾液さえも臭く、醜かった。犬どもが自分の縄張りだとマーキングするように、「豚」は妾の体を舐めまわすことで、妾を自分の所有物だと知らしめていたようだ。
ただそれをして楽しいのは本人だけだ。やられる側にとってみれば堪ったものではなかった。妾の玉体があんな痴れ者に汚されるなどあってはならぬことだった。
しかし当時の妾に「力」はなかった。身を守るための力も、「豚」のすべてを取り上げる力も持ってはいなかった。
だからこそ妾はあの「豚」にされるがままになることしかできなかった。終わるとも知れぬ恥辱の宴。それが毎晩続き、そのたびに妾の心は摩耗していった。
だが摩耗したところで死ぬことはできなかった。いやさせてもらえなかった。「豚」の手から毎日血を与えられていた。その血を飲まなければたぶんたやすく死ねただろう。
だが妾は血を飲んでしまった。生きようとしてしまった。それがかえって生き地獄を妾に与えてくれた。本当にあの頃の妾は美貌だけの存在だった。いくら美貌があっても愚かでは意味がないというのに。天は二物を与えずとは言うものの美貌だけでこの世界を生き残れるわけもない。まったく母神もけち臭いものよ。創造主と言うのであれば、妾のような世界の宝にはそれなりにひいきをしたところで罰は当たらぬと思うのだが。
とにかくじゃ。
当時の妾は愚かであった。愚かで弱い子供じゃった。だからこそ「豚」にいいようにされてしまっていた。そしてその環境から抜け出すこともできないでいた。まさに「籠の鳥」じゃった。だが──。
「へぇ? 人の販路を荒らしてくれた黒幕をぶちのめしに来ただけだったんだけど、思いがけない「お宝」を見つけちゃったかな?」
ある日、妾は籠から解放された。その籠を壊してくれたものがおった。それはまるでおとぎ話の「王子さま」のような少年じゃった。その少年との出会いが妾の運命を大きく変えてくれた。
「僕の名前はベルセリオス。君の名前は? 「お宝」さん」
奴はとても愛らしい笑顔で手を差し伸べてくれた。その手は「豚」の血に染まっていたが、とてもきれいだった。血に濡れた奴はまるで一枚の絵画のように美しく、怪しい魅力を放っておった。その姿に妾は心を奪われた。
あれはもう擦り切れてしまうほどの過去。だが同時にいまの妾のありようを定めてくれた思い出。もう妾は誰かの慰み者になるような弱者ではない。そう、いまの妾は──。
以上追憶でした。
さて、続きは一時になりまぁす♪
今日の二十三時まで毎時間更新しますので、できましたらお付き合いお願いします←




