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Act5-81 母の正体。そして……

 本日八話目です。

 じいちゃんはフェンリルが言ったことを事実だと言った。


 俺がフェンリルの妹だと認めた。でも認められたからと言ってすぐに信じられるわけがなかった。


「どういうこと?」


 正直じいちゃんが言ったことを信じられないというか、意味を理解できない。だってさ、俺は母さんが産んだ娘だ。正真正銘人間だった。


 でもフェンリルは明らかに狼だった。誰がどう見ても人の姿をしていない。せいぜいシリウスのふりをしていたときくらいか。あれだってシリウスの姿を借りただけだったから、フェンリルの人としての姿を見たわけじゃない。


 それでも俺があいつの妹だと言うんだろうか? なんでそんなことが言えるのか、俺にはわからなかった。


「俺は人であいつは狼だよ? なのになんで俺があいつの妹になるのさ?」


「……聞きたいのか?」


 じいちゃんは俺を見つめている。ごまかしはするべきじゃない。この人の前ではごまかすことなんてできるわけもない。


 本当に聞くべきかどうか迷ってはいた。聞くべきじゃないんじゃないかって気持ちがとても強い。それでも聞かずにはいられない。聞かないわけにはいかない。


「教えてほしい」


「……よかろう。おまえがフェンリルの妹である理由。それは奴の母とおまえの母が同じだからだ」


「え?」


 フェンリルが母さんの子。俺と同じ母から産まれた子供だからだとじいちゃんは言った。たしかにそれであれば、俺がフェンリルの妹にあたるというのはわかる。わかるけれど──。


「どうして母さんが狼を産むんだよ? 母さんは巫女姫だけど、人間なんだから狼の子供を産むわけが、いや産めるわけが──」


「簡単なことだ。おまえの母鈴木空美は、人間ではない」


「は?」


 じいちゃんは言い切った。言い切ったけれど、それこそ意味がわからない。写真でしか母さんを見たことはないけれど、母さんは常人離れした見目ではあるけれど、たしかに人間だった。


 でもじいちゃんは母さんが人間じゃないと言った。あきらかに人間なのに、その人間である母さんを人間じゃないと言う。どういうことなんだろう? じいちゃんがなにを言いたいのかが俺にはわからない。


「母さんが人間じゃないとして、なら母さんは何者なのさ? 狼を産める人間のような生き物なんて俺は聞いたことも」


「聞いたことはあるだろう? 地球の神話で三匹の化け物を産んだ巨人の女の話を」


「アングルボダ?」


「うむ」


「でもあれは」


 そうアングルボダはたしかに三匹の化け物を産んだ。でもそれは邪神と言われたロキとの間の子供なわけであって巨人だからと言って化け物を産めるわけじゃ──。


「……えっと、ちょっと待ってくれる?」


 じいちゃんの言葉を信じるとするならば。いや、なぜわざわざアングルボダのことを言ったのか。その理由を踏まえると母さんの正体が導き出されることになる。でもそれは──。


「冗談だよね?」


「なにがだ?」


「いや、なにがって。わかって言っているよね? だってじいちゃんの言葉を信じるのであれば」


「あれば、なんだ?」


「母さんが母神さまだって言っているようなものじゃんか!」


 そう、アングルボダは邪神ロキとの間に三匹の化け物の子をもうけた。でもそれは神の血を引いたからであってこそだ。逆に言えば神の血を引く子であればこそ、邪神の血を引いたからこそ、化け物が産まれたということ。そしてこの世界で神と言えば、母神スカイストしかいない。この世界は母神スカイストによって生み出された世界なのだから。


 そう母神スカイストであれば、フェンリルを産み出すことはできるだろう。あの化け物を討伐することだって可能だ。


 でも母神スカイストと俺の母さんがイコールというわけじゃない。いやイコールであるわけがなかった。だって俺は──。


「俺は人間だよ!? 神さまの子じゃない! 俺は人間鈴木剛と鈴木空美の娘の鈴木香恋なんだ!」


 そう、俺は人間だ。神さまの子じゃない。人間の子なんだ。だからフェンリルの妹じゃない。俺は毅兄貴たちの妹だ。それ以外に俺に兄や姉はいない。いるわけがないんだ。


 なのになんでそんなことをじいちゃんは言うんだよ?


 どうして母さんが母神さまだなんて、ありえないことを言うんだよ!?


 ありえない。そう、ありえないよ。だって俺は──。


「普通の人間だもの! 俺は神様の子じゃない! 俺はただの──」


「ただの人間というのであれば、なぜそんなに取り乱す?」


「取り乱してなんかいない!」


 じいちゃんは俺を見つめている。仮面越しにではあるけど、じいちゃんに見つめられていることくらいはわかる。仮面がなければ、その瞳は俺を写していたはずだ。自分でも理解してしまうほどに取り乱した俺の姿を。


 俺は自分でもわけがわからないくらいに取り乱している。


 取り乱していることを理解しながらも、じいちゃんの言葉を否定する。


 自分でもどうしてここまで取り乱しながら否定するのか、よくわからなかった。


 神様の子だからと言って、それでなんの支障があるというのか。支障なんてなにもない。


 親がどんな存在だろうと俺は俺なのだから、母さんがたとえ母神さまであったとしても、俺が俺であることに変わりはない。


 なのになんで俺は取り乱している? 動揺してしまっているんだ?


 神様の子だと言われたところで、鼻で笑えばいいだけなのに。なんで動揺なんてしてしまっているんだろう?


 どうしてこんなにも心が乱れてしまっているのか。


 わからない。俺にはもうわからなかった。


「……よいか、香恋。この世界に異世界からの旅人は稀に訪れる。だがおまえのようにこの世界の言葉をまるで母国語のように操れるうえに、身体能力を超人のごとく上昇させられた者はいままでひとりとておらん。のんちゃんがよい例だ。あの子は調理技術を向上させた。この世界に訪れる者はみなその者が最も得意とすることを向上させられる。おまえの言う転移の特典とやらは、ひとりにつきひとつだけだ。そのうえ向上してもおまえほどではない。この世界で生きるのに困らぬ程度までだ。それをおまえはいくつ受け取っている? そしてどれほど桁違いに向上させられている?」


「それは」


 身体能力の向上、言語能力、各属性の適正、そして未完成ではあるけど「天」属性の行使。ひとりにつきひとつだけの特典が俺には四つもあった。いくら母さんが巫女姫であったとしても、母さんが母神さまに頼み込んだとしても、せいぜいふたつまでか、数は増やせなくても能力の向上の質をよりあげるとかになるはず。


 でも俺は数も多ければ、向上も桁違いだ。


 いくら母神さまの巫女姫の娘であったとても、そこまでルールを曲げてもらえるだろうか?


 曲げてもらえるとすれば、それは俺が巫女姫の娘ではなく、母神さまの娘だから。この世界のルールを決めた人の娘だからこそ、特別扱いされたということ。それ以外にここまで特典が多く、質が高い理由が俺には思いつかなかった。そしてそれは母さんが母神さまだとするのであれば、俺は──。


「……俺は人間じゃないの?」


 母さんが母神さまだとすれば、俺は普通の人間ではなくなる。


「……おまえは人間だ。半分は人間でもあるが正しいかな?」


「もう半分は?」


 聞きたくはなかったけど、聞かずにはいられなかった。答えなんてわかりきっているけれど。


「……おまえのもう半分は神だ。おまえは半神半人と呼ばれる存在なのだから」


 じいちゃんの言葉は、予想通りのものだった。

 続きは二十時になります。

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