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Act5-79 祖父との再会

 本日六話目です。

 まぶたを開くと見覚えのある天井が広がっていた。


 マモンさんが用意してくれたアジュールの天井。一か月は過ごした家の天井だった。


「……起きたか」


 不意に声が聞こえた。見れば焚火の向こう側にライコウ様が座っていた。ライコウ様は手に薪を持ちながら、火をじっと眺めているようだった。


「……ライコウ、様?」


「その名で呼ばなくてもいいぞ?」


 ライコウ様が笑っていた。その名で呼ばなくてもいいと言われたけれど、なんのことなのか、いまいちわからない。ライコウ様はなにを言っているんだろうか?


「なにを?」


「……ふむ。深く眠っていたからかな? 「わしが誰なのかを忘れてしまっているのかな? それとも一時的に混乱しているのかのう?」」


「え?」


 いまライコウ様はこの世界の言葉ではなく、日本語を話していた。俺もなぜかは知らないけれど、この世界の言語を読み書きできるけれど、やっぱり使い慣れた日本語の方がいい。その日本語をこの世界で話せるのは、俺が知る限りは希望くらいだ。あとはまだ直接会ってはいないけれど、母さんくらいかな。


 でもその日本語をライコウ様はとても流暢に喋っていた。それこそまるで物心がついたころから使っているようにだ。


「なんでライコウ様が?」


「やれやれまだ思い出さんのか、香恋よ」


 仕方がない奴だと言うようにライコウ様はため息を吐いた。ため息を吐かれてもこればかりはどうしようもない。そう、どうしようもないのだけど──。


「その話し方は」


 ライコウ様の口調は知っていた。昔よく聞いた口調だった。いまでも聞けると言えば聞けるけれど、それはおおよそ意味のないものでしかない。いや意味のないものしか言えなくなった人のものだもの。


「じいちゃん?」


「うむ。ようやく思い出したか?」


 ライコウ様が再度ため息を吐いた。思い出したかと言われても、まだ──。


「まだ思い出せておらんのか? まぁ、あれから日にちも経っておるからのう」


 ライコウ様が手に持った薪を火の中に放り込む。薪は音を立てて徐々に黒く染まっていく。


「ちょうど三日か。おまえは三日ほど眠っておったよ」


「三日も?」


「うむ。思いだせることはあるか? 慌てず、ゆっくりとでいい」


 火掻き棒で薪を調節しながら、ライコウ様は言った。慌てずに思い出せか。


「……たしかセイクリッドウルフの案内でアンデッドたちに襲撃をしに行きました」


「うむ。それで?」


「それで、えっと」


 セイクリッドウルフの案内でアンデッドたちを奇襲した後、いや奇襲している最中にシリウスが暴走してしまい、神代の化け物と言われる「フェンリル」と化した。そのときにたしか──。


「あ」


「思いだせたか?」


「……うん。思いだせたよ、じいちゃん」


 ライコウ様、いやじいちゃんは「そうか」とどこか嬉しそうに笑っていた。露出している口元がわずかにほころんでいた。じいちゃんらしい笑顔だった。


「俺、じいちゃんに勝ったんだっけ?」


「……あのときも言ったが、別に勝ち負けを競っていたわけではないぞ? あくまでもあえて負けと言えば負けと言っただけのことであり、完全に手も脚も出ずに負けたとは言っておらん」


「むしろ、それは俺の方だもんね」


 じいちゃんの言う通りだ。俺はあのとき手も脚も出ずに負けていた。むしろじいちゃんの最後の攻撃で意識が飛びかけていた。シリウスの声が聞こえなかったから、俺はあのまま倒れていて──。


「そうだ。シリウスは? シリウスはどこに」


 じいちゃんにシリウスの居場所を尋ねようとしたが、じいちゃんはなぜか口元に手を当てて「静かにしろ」というポーズを取りながら、反対側の手で下を指している。示されるままに下を向くと──。


「わぅ~」


 俺に抱き着きながら眠るシリウスがいた。いやシリウスだけじゃない。その隣にレアがいる。正確には俺を挟む形でシリウスとレアが眠っている。ふたりともぐっすりと眠っていて、揺さぶっても起きそうにはなかった。


「ふたりして、いまのいままでずっと起きていたんだがな。さきほど同時に眠ったばかりだ。朝まで寝かせてあげなさい」


「いまのいままでってことは」


「うむ。あれから三日間一睡もせずにおまえが起きるのを待っていたよ、そのふたりは」


 新しい薪を火に放り込みながら、じいちゃんは言った。オレンジ色に爆ぜた炎でじいちゃんの顏が淡く彩られていく。


「一睡もしなかったって」


「顔を見ればわかる」


 そう言われてもふたりの顏を改めて見てみると、ふたりの目の下にはくまができていた。普段のふたりには決して見られないものだった。


「血の繋がりはないというのに、母娘揃って強情だったよ。サラ様がいくら寝ろと言ってもなかなか寝てくれなかった。が、さすがに限界だったんだろうな。三日前の戦闘でふたりとも疲労があったこともあって、ようやく寝てくれた。ただ寝たのはいいが、おまえを挟む形になってしまったから、どうしたものかと少し困っていたところだった」


「困るって?」


「寝るのであればちゃんとした布団の上で眠った方がよかろう? 実際おまえも布団の上で眠っていたわけだからな」


 言われて初めて俺が横になっていたのが布団の上であることに気付いた。アジュールの中にいることはわかっていても、布団の上で横になっていたことまではわからなかった。


「だが、おまえが起きてくれたおかげでようやくふたりを布団の上で寝かせてやれる。すまぬが、場所を開けてやってくれ。ただし起こさぬようにな?」


 じいちゃんに言われるまでもないことだ。ふたりを俺が横になっていた布団の上に寝かせると、ふたりの肩にまで布団をかけてあげた。ふたりは静かな寝息を立てながら穏やかに眠ってくれている。


「さて、これでようやく約束を果たせるかな?」


 じいちゃんはもう一度薪を火の中に放り込みながらそう言った。

 続きは十六時になります。

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