Act5-74 深まる謎
四月の更新祭りです。
まずは一話目です。
「フェンリル」からシリウスに戻った。
ただそれだけのことなのだけど、それだけのことが堪らなく嬉しかった。
力いっぱいにシリウスを抱き締めると、「パパ痛いから」と言われてしまった。
でもなにを言われても力を緩めるつもりはない。
シリウスもなにも言わなかった。
ただされるがままに抱き締められるだけだった。
そんなシリウスを俺は強く、強く抱き締めて──。
「わぅ~」
「……ゴメンナサイ」
結果、シリウスに怒られました。
……いや、怒らせるつもりはなかったんですよ?
カレンちゃん、そんなつもりは一切なかったの。
でもね? 仕方がなかったんよ。
だってさ、シリウスったら抱き締めていたら、心地よさそうにしてくれていたんだ。
そんなシリウスを見ていたら、ついイタズラ心が芽生えてしまい、ついつい立ち耳をちょっと弄ってしまったら──。
「やぁっ!」
シリウスからなんとも言えない声が漏れ出てしまいました。
感動的な空気が一瞬で消えてなくなったのは言うまでもなく、そしてそんなことをやらかしてしまった俺にシリウスは──。
「……パパ?」
明らかにご機嫌ななめなお顔で俺を見つめられました。
あ、やっちゃった。そう思ったときには時すでに遅く──。
「パパなんて嫌い」
伝家の宝刀で俺を切り捨ててくださいました。
その言葉に俺は崩れ落ちました。
その後、シリウスはどうにか機嫌を直してくれたけど、いまだ許してくれません。
どうしたらいいんでしょうかね、これ。
「ふふふ、シリウスちゃんったら、少し恥ずかしかったくらいで心にもないことを言っちゃうなんてね」
レアはシリウスを見て笑っていた。そう、笑っている。笑っているのだけど、正直笑っていられる状況じゃないんですけどね。
いやまぁレア的には笑っていられる状況なのかもしれないけど、俺にとってみれば笑えないよ。
レアにはやはり関係ないですけどね?
「心にもないことじゃないもん。私は本当に」
「ふふふ、さっきはパパ、パパと何度も言っていたのにね?」
「あ、あれは私じゃないもん! ボケ犬が喋っていただけだもん!」
「ふふふ、そう言うことにしておきましょうか」
「そういうことじゃなくて、そうなの! 私はそのとき意識なんてなかったもん!」
レアの言葉にシリウスはころころと表情を変えていく。まぁ、単純にレアの方が数枚は上手だってことなんだろうけど。
しかし「ボケ犬」、「ボケ犬」かぁ。
「その呼び名を知っているということは、あのとき、シリウスにはちゃんと意識があったってことだよね?」
思わず口にしてしまった言葉に、シリウスが大きく反応した。体をびくんと震わせると、紅い顔になって振り返った。
「な、なにを言い出すの、パパっ!?」
「いや、だってさ、「ボケ犬」って俺が言ったときは、あいつがシリウスの体を動かしていたんだろう? でもそのとき俺が言った名前をシリウスが知っているということは、シリウスは少なからず意識があったってことだろう?」
「ち、違うもん。あれがそう言っていたのを聞いただけで」
「どっちにしろ意識はあったんだろう?」
「ボケ犬」が言っていたことを聞いていたのだとしても、そのときシリウスにはちゃんと意識があったってことだ。うっすらとあっただけなのかもしれないけど、俺の言っていたことをわかるってことはそういうことでしょう?
「ふふふ、「旦那さま」ったら、そこはわかっていてもあえて言わないであげるのが、優しさですよ?」
「れ、レアママっ!?」
シリウスがレアの方を見やる。レアは「ふふふ」と笑いながら、シリウスへと追撃を仕掛けていく。
「だって、ボケ犬が喋っていただけと言ってすぐに、そのとき意識がなかったなんて、よくよく考えれば矛盾しているでしょう?」
「た、単純に否定しただけかもしれないじゃん」
「そうだったとしたら、シリウスちゃんは真顔で違うと言うでしょう? 慌てるということは意識がちゃんとあって、パパからの愛情がたっぷり詰まった言葉を聞いていたってことでしょう?」
ニコニコと笑いながら、レアはシリウスの頬を突いた。シリウスはわぅと唸ることしかできなくなっていた。耳まで真っ赤にしながら、シリウスはその場に蹲ってしまう。そんなシリウスを見てもレアはニコニコと笑うだけだ。さすがはレアだね。さすがのドエスキャラです。
でもいくらなんでも、そのドエスは娘にまで発揮するのはいかがなものだろう? 仕方がない。ここはパパである俺がフォローをですね。
「ま、まぁまぁレアその辺で」
レアを諌めるべく口を開いた。そのとき。なぜかシリウスが顔を上げると、とても怖いお顔で睨み付けてくださいました、ってなんでさ!?
「パパ、なにかした!?」
シリウスをフォローしてあげようとしたのに、なぜに睨まれなきゃいけないんだろうか? さすがに横暴じゃないですかね?
まぁ、そういうところもかわいいけれど。ってそういうことを言っている場合じゃねえ!
「パパのせいだもん。パパが余計なことばっかり言うからいけないんだもん!」
「よ、余計なことって」
「言わなくてもいいことをいちいち言うことだよ。私がパパを見つけたらすぐに泣くとか、私はそんな泣き虫じゃないもん! 泣き虫なのはパパの方だよ!」
「あ、やっぱり聞いていたんだ?」
「え?」
「だってそれ、「ボケ犬」に対して言った言葉だよ?」
「ふふふ、語るに落ちるね」
俺とレアの言葉にシリウスの顔が真っ赤になった。どう考えてもあのときシリウスはちゃんと俺の話を聞いていたってことだ。つまり意識があったってことだった。うん、たしかに語るに落ちるだな。
「ふふふ、本当にシリウスちゃんはわかりやすいなぁ。そんなシリウスちゃんがレアママは大好きよ」
楽しそうに笑いながら、レアはシリウスを抱き締めていた。シリウスは「わぅ~」と唸りながら必死にレアの腕から抜け出そうとするけれど、レアはシリウスが抜け出そうとするたびに力を込めるので、シリウスはレアの腕から抜け出せずにいた。
その代りに俺をとんでもない目で睨み付けてきますけどね? 中身が「ボケ犬」とチェンジしていないよね? いないよね?
「うぅ~、パパもレアママも大っ嫌いだぁぁぁーっ」
シリウスがせめてもの抵抗にとそんな心にもない言葉を言ってくれるけれど、今回ばかりは痛くも痒くもなかった。むしろシリウスの反応が愛おしい。
ただその一方で「ボケ犬」が言った言葉が妙に気になっていた。「忌々しき妹」とあいつは俺をそう呼んだ。なぜ俺があいつの妹になるのか。よくわからない。新しいことを知るたびに、より謎が深まっていく気がする。答えを知っているであろう人は、だんまりだしな。いったいどうするべきか。
「そういえば、兄弟は?」
不意にスパイダスさんが言った。そのひと言に俺もライコウ様も同時に反応した。周囲を見回すもセイクリッドウルフはどこにもいなかった。いやいないのはセイクリッドウルフだけじゃない。
「マモンさん?」
さっきまでそばにいたはずのマモンさんの姿もどこにも見当らなかった。
「いったい──」
どこに? そう言おうとしたとき、遠くから獣の雄叫び声が聞こえてきたんだ。
続きは三時になります。




