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Act5-69 パパとして

 本日は恒例の二話更新です。

 まずは一話目です。

 とんでもない方法でシリウスの元へと飛ばされてしまった。


 障害であった黒騎士たちの頭上を文字どおり飛び越えながら、一直線にシリウスの元へ向かう。延長線上にいた黒騎士たちはミンチよりもひどい状態になっているけれど、この際気にしないことにした。というか気にしていられません。


 かなりスプラッターな状態ではあるけれど、そんなことよりもシリウスを優先したかった。だってシリウスはスパイダスさんが言うには闇堕ちしかけているってことだもの。


 もともとシリウスは闇属性の狼だ。けれど闇に堕ちたわけじゃなかった。むしろ闇=悪というわけじゃない。そんな単純な図式はそうそうありえない。


 同じように光だからって必ずしも正義とは限らない。世の中は常に額面通りというわけじゃない。建て前と中身は違うってのは往々にしてよくあることだ。


 シリウスもそれと同じだ。あの子は闇の狼ではあるけれど、とても明るくて優しい子だ。すぎるくらいに優しいからこそ、あの子は復讐に囚われた。復讐をするために力を求めてしまった。たぶん今回の暴走はその力を、復讐するに足る力を得られたからこそなんだと思う。


 そのあまりにも強すぎる力に酔いしれてしまっている。だからこそ心のたがが外れている。でなければシリウスは、俺の大切な愛娘は──。


「あは、あははは、死ね。もっと、もっと死ね!」


 あんな風に笑わない。返り血を浴びながら楽しそうに笑いなんかしない。あの子はそんなことができる子じゃない。あの子は、シリウスは──。


「おまえはそんな笑い方をしないだろう、シリウス」


 命を笑いながら狩り取れる子じゃなかった。命の尊さをあの子は知っている。だからこそあんな虐殺じみたことは、もうしないはずだ。ビッククラブたちをなにも考えずに全滅させたときは違うんだ。あのときは幼さゆえの残酷さが顔を出した。命の重さを知らなかったからこそできた。


 でも命の重さを知ったシリウスが、いつものシリウスがいくら敵相手であったとしても、こんなことをするわけがない。していいわけがない。


 だからこそ俺は叱ってやらなきゃいけない。暴走して命を奪い続けるあの子を叱り飛ばしてやらなきゃいけない。じゃないとあの子はいつまでも止まることができないだろうから。子供のしたことは、子供の罪は親が背負う。だから俺は──。


「シリウスっ!」


「うるさいなぁ。いい気持ちなのに、邪魔を──」


 シリウスがむくれながら振り返る。血を浴びすぎているからなのか、それとも「堕ちて」いるからなのかはわからない。ただシリウスの目は、カルディアによく似た紅い瞳は見る影もなく変貌していた。瞳孔は縦に裂け、白目が黒く染まっている。なによりもきれいな紅い瞳は、血の色のように禍々しく染まりつつあった。それでも目の前にいるのはシリウスだ。俺の娘だ。なら俺が、俺がしなければいけないことはひとつだけだった。


「このバカ娘ぇぇぇ!」


「わぅ!?」


 叩いてでも糺してあげることだった。そうして俺は文字通りシリウスの頭を思いっきり叩いた。ごすっという鈍い音が響き渡った。シリウスは「黒護狼」を落として、顔から地面に倒れ込む。が、すぐに襟を掴んで無理やり立たせた。


「暴走しているんじゃない! 力に呑まれるな!」


「いきなりなにを」


「黙れ、このバカ娘!」


「きゃうん!」


 説教の途中で文句を言おうとしたシリウスの頭を再び叩く。鈍い音を再び響かせながら、俺は続けた。


「力に呑まれるな! 自分を見失うんじゃない!」


「誰かは知らないけど、知ったことを」


「バカ野郎、パパの顏を忘れるな!」


「きゃん!」


 三度目のゲンコツだった。どうにもたわけたことを抜かしてくれたので、ついつい力が入ってしまったけれど、どうにもシリウスは俺を認識できていないようだ。「堕ち」始めているのが原因なのかな? 目に見えるすべてが敵のように思えているのかもしれない。


 でもまだちゃんと話はできる。まだ連れ戻すことはできるはずだ。


「う、うぅ~、三度も殴ったなぁ!? パパはそんなことしないもん!」


「そうだな。たしかに俺はいままで一度も殴ってはいない。でもそれは殴るほどのことをお前がしなかったからだよ」


 そう、いまのいままで俺はシリウスには手をあげてはいない、はずだ。あるような気もするけれど、たぶんないはず、だよね?


 いかん、説教の最中なのに、急に自信がなくなってきたよ!? 落ち着け、俺。まだ慌てる時間じゃない!


「……そう、俺はおまえが悪いことをしていなかったから殴らなかっただけだ」


「いまの間はなに?」


 さすがはまいどーたー。見事なツッコミです。とはいえ、いまはそんなことを言っている場合じゃないのです。


「細かいことは気にするな。そんなことよりももっと大事なことがあるだろう!」


 勢いでごまかそう。うん、もうそれっきゃない。若干情けない気がするけれど、そんなことを気にしていられる余裕なんてないんだよ!


「い、勢いでごまかすな! なんで本当にパパがするようなことを」


 勢いでごまかそうとしたことが気づかれていますね。本当にシリウスはよく俺のことを見ているね。だからこそ、いまのやり取りで俺だということに気付いてほしかったんだけど。さすがにそこまでうまくはいかないか。


「パパだからだよ。俺はカレン。カレン・ズッキー。おまえのパパだ!」


「違う! パパは私を殴らない。パパは私を認めてくれる。パパは私が望むことをなんだって──」


 シリウスが叫ぶ。変色した目から涙を流しながらシリウスは叫んでいた。でも言っていることは間違っていない。俺はいままでそうしてきた。シリウスを娘として認め、殴ることもなく愛情を注ぎ続けてきた。そしてこの子が望むことはある程度のことは叶えてあげた。そうすることが俺にはできたから。


 でも復讐だけは認めなかった。それは初めて俺がこの子の願いを拒絶したことだった。それがきっかけだったんだ。いま思えばそれがこの子を、この子の心に闇を巣食わせた。その闇がこの子を暴走させてしまった。


 意地悪でそうしたわけじゃない。ただこの子の手を血で染めたくなかった。血塗られた道をこの子に歩んでほしくなかった。


 だけどその想いは通じなかった。いや通じていたんだ。ただ俺もシリウスも頑固だから。お互いの気持ちを知ってもなお、自分の気持ちを貫いてしまった。それがこの惨状を産んだんだ。責任は俺にある。だからこそ、この状況になったからこそ言わなきゃいけない。俺の気持ちをこの子に伝えないといけないんだ。


「俺がパパだよ、シリウス」


 泣き叫ぶシリウスを俺は強く抱きしめた。血に濡れようと、「堕ち」かかっていたとしても。それでもこの子は俺の娘だ。その娘を抱き締めることになんのためらいがある。抱きしめられないわけがなかった。


「何度でも言うよ、俺がパパだ、シリウス」


 シリウスの頭を掻き抱きながら、俺は想いを込めて囁いた。

 続きは二十時になります。

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