Act5-51 娘がツンデレになりました(Byカレン
まるで別人のようだった。
灰色だった髪はカルディアを思わせるきれいな銀髪へと変化していた。髪の長さも成長したからなのか、腰にまで届くくらいに長くなっていた。
頭の上にある耳はぴんと立っているが、色は髪に合せて銀色になっている。それは尻尾も同じでやはり髪と同じ銀色だった。
瞳の色も以前までの灰色ではなく、宝石のような紅い瞳をしている。カルディアと同じ紅の瞳。アルトリアも赤い目をしているけれど、シリウスの目はアルトリアではなく、カルディアと同じ色だと思えた。
顔立ちは、顔の作り自体はいままでと大きく変わりなく、かわいらしい。あえて言えば、いままでの美幼女から美少女にと変化したというところかな。
そう、いままでのシリウスとの一番の違いは年齢だった。あくまでも外見の年齢だけど、いままでのシリウスは五歳児くらいだった。
だけどいまのシリウスは十歳児相当の外見をしている。おかげでルルドが妙に喜んでいるが、まぁ、あとで睨み付けておけばいい。
この大きな変化が起こった理由。それは──。
「進化、か」
スパイダスさんがぽつりと呟いた。そう、シリウスの外見に変化が起こったのは、シリウスがグレーウルフからシルバーウルフへと進化したからだろう。
だけど、なんでいまなんだろう? ガルムとマーナが言うには、経験を積まなきゃいけないはずだった。経験を積まなければ進化することはできないはずなのに。
なのに、戦ってもいないはずのシリウスがなんでいきなり進化をしているんだろうか? 明らかにおかしい。おかしいけれど、それをいま言える状況じゃなかった。
「シルバーウルフか。この目で見るのは初めてだな」
マモンさんは上から下までシリウスを観察している。単なる好奇心なのだろうけど、あまりじろじろと見るのはやめていただきたいですね。
なんで? そんなのシリウスがいまほぼ全裸だからですよ!
さっきまでは五歳児相当、一メートルちょっとくらいだったのが、いまや一メートル三、四十センチはある。
……ええ、俺とそこまで変わりませんよ。胸に至っては惨敗ですよ。明らかにそこそこの膨らみがあるもの。そこもカルディアと同じなんだね、シリウスは。身長が追い付かれていることよりも、胸で負けてしまったことの方がはるかにダメージは大きいな。
「美しい」
セイクリッドウルフたちが感嘆とした声をあげている。たしかにいまのシリウスはきれいだった。かわいいからきれいになりつつあるって感じだ。発展途上にある美貌ってところかな? 世にいる小さい子が好きな紳士さんたちのターゲットになりそうな気がしてならないよ。
「シリウスちゃん、そのままじゃダメよ」
レアが慌てて荷物からレアの服を取り出した。取り出したのは黒いシャツで、そのシャツをレアはシリウスに瞬く間に着せてしまう。長身のレアのシャツだからか、シリウスには短めのワンピースになってしまっている。でもそれがまたすごく似合う。シリウスはふりふりと尻尾を振りつつ、顔を赤くしていた。
「あ、ありがとう、レアマ、じゃなく母さん」
ママと言おうとして、慌てて母さんと言い換えたけれど、レアどころか、この場にいる全員が聞いてしまっているので意味はなかった。
それでも「まま」ではなく「母さん」と言ったのは、シリウスなりの成長なんだろうね。ちょっとだけ寂しいけれど、子供は日々成長するものだから無理もないかもしれない。そう俺は思ったのだけど──。
「ダメよ、シリウスちゃん。ちゃんと「レアママ」と言いなさい」
レアには通じなかった。レアはシリウスを後ろから抱きしめた。シリウスは「わぅ」と慌てるけれど、レアはお構いなしにシリウスを強く抱きしめた。その顔はとても嬉しそうに笑っている。
「れ、レア母さん。やめてよ、恥ずかしい」
「だぁめ。ちゃんと「ママ」と言ってくれるまでやめません」
「わ、わぅ~、横暴だよ」
「ふふふ、横暴結構よ。かわいい娘の成長を見られたのはいいけれど、それと同じくらいに変わらない部分も見たいんだもの。だから言ってちょうだい?」
「……れ、レアママ」
「はぁい。なにかしら? シリウスちゃん」
レアが腕の中のシリウスを覗き込む。シリウスは顔どころか耳まで真っ赤にしてしまっている。「母さん」はともかく「ママ」と言うのは恥ずかしいってことなんだろうか。もしくはちょっと早めの反抗期に突入しているのかもしれない。
どちらにしろ、ちょっとだけ寂しいな。以前までのシリウスがいなくなってしまったみたいで、少しだけ寂しかった。
「は、恥ずかしいから離して」
「そう? 私にしてみれば、シリウスちゃんの恰好の方が恥ずかしいと思うけど? だって下着もないじゃない?」
「だ、だって服なんてないし」
「大丈夫よ。ぱぱ上の服があるから。いまのシリウスちゃんであれば、ぱぱ上の服も着られるでしょう?」
シリウスは服がないというけれど、いまのシリウスと俺の体格にはそこまで大きな差はない。となればシリウスの服がちゃんと用意できるまでは俺の服を貸すのは当然の帰結であって──。
「……やだ」
……おかしいな? いま変な声が聞こえたよ? いまシリウスちゃんがやだって言わなかったかい? えっとなにが嫌なのかな? うん? ぱぱ上ちょっとわからないな。
「か、カレンさん? 口の端から血が」
マモンさんが顔を引きつらせている。けれどなにを言っているのかな、この人は? 口の端から血だって? 吐血するようなことなんてないのに、なにを言っているんだろうか?
「ぱぱ上の服は嫌なの?」
「うん、やだ」
レアが尋ね、シリウスが口にした答えに思わず「ごふっ」となってしまったよ。今度はマモンさんだけではなく、スパイダスさんたちも慌てている。けど俺はみんなの声に答えていられる余裕は皆無です。なにせ──。
「どうして?」
「だって、変な臭いしそうだもん」
愛娘からの容赦のない言葉に膝が折れ掛かっているもの。あははは、おかしいな。前が見えないぜ。やけに目の前が霞んで見える。目の病気にでもなったかな?
「それにぱぱ上って呼ぶのは子供っぽいから嫌だ」
「ふふふ、じゃあなんて呼ぶの?」
「え? えっと、その」
シリウスが急に体を捩りだす。ふふふ、この際だ。もうなにを言われても俺のストロングハートは傷つきゃしないよ。……巨乳マイスターとか、肉食レディとか、そういう不名誉チックな呼び名ではない限り俺の心が折れることは──。
「パパかな?」
「ふふふ、私のことは「お母さん」と言ったのに?」
「そ、それはその、「まま」はいっぱいいるけれど、「ぱぱ」はひとりだけだもん。だからパパでいいかなって」
顔を背けながらシリウスは言ってくれました。その言動に俺が膝から崩れ落ちたのは言うまでもなかった。
「ぱ、パパ? どうしたの?」
シリウスが恐る恐ると声を掛けてくれた。でも答える余裕は俺にはない。というか、もう意識がもうろうとしてしまっていた。嫌がる素振りのツンから、最後のデレの破壊力は凄まじすぎて、俺に耐えられるわけがなかった。スパイダスさんの家のリビングを視界に収めながら俺はゆっくりと後ろへと倒れ込んでいった。
「ぱ、パパぁっ!?」
シリウスの慌てる声を聞きながら、俺はその場で意識を手放した。




