Act5-49 セイクリッドウルフたちの事情
ネット小説大賞落選しました。
やっぱりダメかっていうのが素直な感想です。
……だからと言って悔しくないわけではないんですけどね?
ただ、悔しいという言葉を口にできることはしていないから、あえて言いません。
毎日投稿しているだけですからね←苦笑
いつかは「悔しい」と言えるようになれるかな?
まぁ、それはさておきです。
今回は胸糞悪いお話ですね。なので注意をお願いします。
話し合いの場に選ばれたのは、スパイダスさんの一族の墓所ではなく、スパイダスさんの家だった。
というのも家主であるスパイダスさん本人が自分の家を使えと言ってくれたからだ。スパイダスさん自身も話し合いに参加する以上、スパイダスさんの巨体が入れるほどの場所となると、この森の中ではスパイダスさんの家しかなかった。
ご家族に迷惑がかかると最初は思ったのだけど、スパイダスさん曰く、家族は家の二階や三階にある部屋で眠っているから問題ないということだった。ついでにルルドの仲間たちも三階にある客室で寝ているそうだ。どうやら俺たちが入った場所は一階にあたるらしい。ただぱっと見た感じだと階段はなかった。実際スパイダスさんの家のリビングを見回しても、階段らしきものはどこにも見当たらなかった。
でもリビングにはスパイダスさんのご家族の姿はおろかルルドの仲間たちの姿もまた見当たらなかった。どういう風に行き来しているのかはわからないけれど、とにかく一階のリビングには誰もいない状態だったのでたしかに都合はよかった。スパイダスさんは以前同様に岩のソファーに腰掛けた。それを合図にセイクリッドウルフたちとの話し合いが始まった。
「まずは、なにから話せばよいだろうか? カレンさん」
セイクリッドウルフは俺をまっすぐに見つめていた。話し合いと言っても聞くべきことが複数あるからには、どれを先に話すかどうかってことになる。
セイクリッドウルフとしては、アダマンタイトを盗掘していた理由についてを話したいところなのだろうけれど、シリウスを「ロード様」と呼んでいたことに関しても話すべきだと考えているんだろう。
セイクリッドウルフたちにとってみれば、アダマンタイトを盗掘していた事情を真っ先に話したいところだろうね。
でもシリウスを怯えさせてしまっていたことは事実であり、それがきっかけで俺と一触即発の雰囲気になってしまったのもまた事実だ。
だからこそセイクリッドウルフは迷っているのかもしれない。自分たちの事情を優先したいのを堪えて、シリウスを怯えさせていた理由を先に話すかどうかを迷ってくれている。どうにもこのセイクリッドウルフは律儀な人のようだ。悪く言えばバカ正直とも言えるけれど、個人的にはバカ正直な人の方が好感を持てるよ。
となればだ。セイクリッドウルフが一歩引いてくれたのだから、こちらも一歩引くべきだろうね。話し合いのテーブルに座ってくれた以上は、対等な関係ってことだ。ならばあちらが引いたのであれば、こちらも退くべきだ。それでこそ対等と言えるのだから。そしてこの場における対等とは──。
「あなたたちの事情を先に話してくれ」
「よいのか?」
セイクリッドウルフは驚いた顔をしていた。この場には他にシャイニングウルフが数頭同席しているだけど、その数頭もまた驚いた顔をしていた。どう考えても自分たちの事情は後回しにされると覚悟していたのかもしれない。
一触即発だったことを考えれば無理のないことだろうね。もしくはシリウスの一件に関しては自分たちが暴走しすぎたと思っているのかもしれない。お互いレアに頭を冷やしてもらったおかげで、言動を顧みる余裕ができた。そうしてセイクリッドウルフたちは、自分たちの事情を後回しにされる覚悟をしていたのかもしれない。
でもそんなのは対等じゃない。それにシリウスのことも気にはなるけれど、スパイダスさんとマモンさんを裏切ってなお盗掘をしていた、いやしなければならなかった事情は相当のことだろう。
なにせお互いに血が上っていたとはいえ、一戦やらかす寸前まで行っていた理由についてを優先しようとするくらいに律儀な人たちだ。そんな人たちが主とか恩人とか言う相手を裏切るなんて、相当に追い詰められていたってことだ。
まぁ、未来を作る子供たちを誘拐されてしまっているのであれば、無理もないことだと思う。だからこそセイクリッドウルフたちの事情を優先するべきだと俺は思った。そんな俺の言葉にレアたちは頷いてくれたし、マモンさんとスパイダスさんたちも頷いてくれた。
「……感謝いたします」
セイクリッドウルフは涙を流しながら頭を下げた。それは同席していたシャイニングウルフたちも同じだった。流れ落ちる涙を眺めつつ、セイクリッドウルフたちが口を開くのを待った。
「主の祖先の墓を荒らしていたのは、我らの子弟たちが攫われてしまったのだ。主やカレンさんの予想通りにな」
セイクリッドウルフが口にしたのは、想定していた通りのものだった。セイクリッドウルフもシャイニングウルフたちも悔しいのか、顔を歪ませている。どうやっても奪われた子供たちを取り返すことができなかったんだろう。それほど相手が強いってことなんだろうな。でも──。
「セイクリッドウルフ。あなたはBランクの魔物のはずだ。そのあなたであっても勝てない相手なのか?」
そう、セイクリッドウルフはガルムとマーナと同じBランクの魔物のはずだ。そのBランクの魔物がどうあっても勝てないなんて、いったい誰を相手にしているんだろうか?
「わからない」
「え?」
「相手が誰なのかはわからない。ただ恐ろしく強い。強すぎるほどに強い相手だった。私でも歯が立たないほどに強い相手だった」
セイクリッドウルフはまぶたを閉じながら言った。その表情にあるのは悔しさや怒り、そして悲しみ、いろんな感情がないまぜになったものだ。Bランクであるセイクリッドウルフにここまで言わせるほどに相手が強かったということなのか。
でもわからないというのはどういうことだろう? 知らない相手という意味であればわかる。けれど、それでも人間か魔物かくらいは言えるんじゃないか? なのにセイクリッドウルフは人間か魔物かも言わなかった。どういうことなんだろうか?
「相手は人間ですか? それとも魔物ですか?」
「それさえもわからない。見目は人間なのだ。だが中身は人間ではない。人でも魔物でもない。あえて言うとすれば、奴らからは「死肉の臭い」がしたよ」
「アンデッドってことですか?」
「死肉の臭い」とは、この世界で言えばアンデッドを指す言葉だ。わかりやすく言えばゾンビとかグールが当てはまる。そう当てはまるのだけど──。
「アンデッドがアダマンタイトを要求してきたんですか?」
正直ありえないことだった。アンデッドという存在は基本的に理性的な行動ができない。はっきりと言えば、本能に基づいた行動しかできないのがアンデッドと呼ばれる存在だった。そのアンデッドがアダマンタイトを要求してきた。普通のアンデッドであればしないことをしてきたってことになる。
「あくまでも「死肉の臭い」がしたということであり、奴らがアンデッドだというわけではない。しかし、「死肉の臭い」がするのはアンデッドどもだけだ。だが」
「アンデッドであれば、そんな要求はしない。そもそも意思の疎通さえできない、ですか?」
「ああ。だが奴らは意思の疎通ができるうえに、なぜか大量のアダマンタイトを要求してきた。要求を呑まねば子弟たちを生きたまま貪り喰らうと言ってきた。実際目の前で」
セイクリッドウルフが強く牙を噛みしめていた。その言動でなにをされたのかは理解できた。胸が痛いし、腹が立つね。
「これ以上あの子たちから犠牲を出させるわけにはいかない。だから奴らの要求を呑むしかなかったのだ」
セイクリッドウルフは絞り出すように言った。その言葉にやりきれなさを感じてしまったのは言うまでもなかった。




