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Act5-48 嫁さんを怒らせてはいけません(byカレン

 なにがどうなっているのか。


 カレンちゃん、よくわからないよ。


「わぅ」


「なにかご用でしょうか!」


「ただ鳴いただけなの」


「それは失礼致しました! しかしただの鳴き声ひとつとってもお美しい」


「わぅ、ありがとうなの」


「お、おぉ、自分ごときにそのようなお言葉を。子々孫々にまでこの栄光を語り継がせていただきます!」


「大げさなの」


「なにを仰られますか! ロード様に御礼をいただけるなど、光栄の極み! そのお言葉を末代まで語り継ぐのは至極当然かと」


「そ、そうなの?」


「そうなのでございます!」


「……そうなんだ」


 シリウスがなんとも言えない顔で俺をチラチラと見つめていた。顔には明らかに「助けて!」と書かれている。そう、助けてほしいと言われているのだけど──。


「ろ、ロード様。尻尾のお手入れをさせていただきたく」


「なにを抜かすか、その役目は私が!」


「いや、私が!」


「言い争いをするな! ロード様の御前であるぞ!」


「お、長」


「す、すみません」


「気持ちはよくわかる。だからと言って、一族の恥を晒すな! 我欲に負けるなど、我が一族にあってはならぬことだ! ……申し訳ありませんでした、ロード様。御前でなんとも無礼を」


「……みんなで仲良くしてくれれば、言うことはないの」


「ありがたきお言葉。無礼を重ねるようなのですが、ひとつお願いが」


「わぅ?」


「どうか私めに尻尾のお手入れを」


「長ぁぁぁ!」


「それはないだろう!?」


「あんた、それでも我らの長か!?」


「一番我欲に負けているのは、あんたじゃないか!?」


「ええい、黙れ、黙らんかぁ!」


「……ぱぱ上ぇ~」


 シリウスが涙目になっています。涙目になっているのだけど、助けられません。だってさ、セイクリッドウルフたちの目が明らかにヤバイもん。皆さん目が血走っている。


 本来であれば、群れのボスであるセイクリッドウルフが諌めるべきなのに、そのボスが一番目を血走らせているというね。


 ……このボスさ、たしかスパイダスさんと悲壮なやり取りをしていませんでしたっけ?


 いまのお姿はどう見てもアイドルの親衛隊という名のおっかけにしか見えませんよ。


 いったいなにがどうなってこういう状況になったんですかね? カレンちゃん、本当にわからない。


 当のシリウスはさっきから本気で怯えています。


 まぁ、知らない大人が自分を囲んでなぜか熱狂的になっていれば無理もない。


 なにせ、シリウスの自慢の尻尾がいまや垂れ下がっているし、セイクリッドウルフたちの熱狂さゆえにレアにしがみついているもの。レアはレアで苦笑いしつつ、シリウスの頭を撫でている。それでも恐怖はなくならないみたいだ。


 熱狂的な人ってわりと怖いものね。話が通じるようで通じない。まるでバーサーカーですよ。


 実際セイクリッドウルフたちの姿はまさにバーサーカーの言葉がよく似合うものだし。


 おかげでシリウスが怯えっぱなしだよ。


 レアはレアで困ったように笑っている。


 シリウスが怯えているから注意したいのだろうけど、注意すればセイクリッドウルフたちは平伏して謝り、それがまたシリウスを怯えさせかねない。だからレアはなにも言えないでいる。そしてそれは俺も同じなんだよね。


 シリウスのために注意したいところだけど、注意した結果シリウスを怯えさせたら意味がない。


 とはいえ、放っておきたくもない。なにせ、シリウスったら徐々に涙目になっているもの。


 愛娘が泣いているのを黙って見ていたくはない。


 だけど、どうすりゃいいんですかね、これ?


 セイクリッドウルフたちはそれだけ狂信者じみているし、シリウスをこれ以上怯えさせたくないのだけど、セイクリッドウルフたちは止まってくれない。


 そもそもロード様ってなにさ?


 シリウスはシリウスだって言うのに、それをロード・シリウスだ? うちの愛娘に勝手な呼び名をつけるんじゃないよ!


 あー、なんかイライラしてきたぞ。うちの愛娘が怯えているのを無視して、勝手に盛り上がりやがって。そろそろいい加減にしろよ?


「ロード様、どうか尻尾のお手入れを私に!」


「いや、私に!」


「なにを言うか! 私にお任せあれ!」


「わぅ~」


 詰め寄るセイクリッドウルフたちに、シリウスは涙目になって、小さく鳴き声を上げた。それが俺の限界だった。


「おい、あんたら! うちの愛娘を泣かすんじゃない!」


 目の前にいる狼どもを睨み付けた。


 すると狼どもが一斉に振り返った。明らかに「邪魔すんな」と顔に書いてあった。


 邪魔すんなだ?


 ふざけるなよ、この犬っころども!


 うちの愛娘を怯えさせておいていい度胸しているじゃないか!


 よろしい、戦争だ!


 そのあまり毛並みはよくないけど、ふさふさの毛皮を刈り取って、全身丸坊主にしてやる!


「丸坊主だと!? よほど死にたいようだな、小娘!」


「そっちこそ、うちの愛娘を泣かせたんだ。覚悟はできているんだろうな!?」


 セイクリッドウルフたちが一斉に唸り始める。だからと言って退けるか! シリウスを怖がらせた報いを受けさせてやる!


「覚悟だと!? 貴様こそ覚悟はいいんだろうな、小娘!」


「そっくりそのまま返してやるよ、犬っころ!」


 完全に一触即発だった。それでも俺も犬っころどももお互いに退く気はなかった。退かないまま、いざ殴り合おうとしたそのとき。


 俺と犬っころどもの間を青色の光が入り乱れるように放たれた。光は俺と犬っころどもの顔の脇をとてつもない速さで掠めていった。俺も犬っころどもも一瞬で動きを止めた。いや、止められてしまった。その犯人はと言うと──。


「少し、頭を冷やしましょう。ね?」


レアが人差し指をこちらに向けてにこにこと笑っていました。よく見るとこめかみに青筋が。


 ……うん、まぁ、その、あれだね。セイクリッドウルフたちの話も聞かずに突っ走るのは、よくないよね? せっかく言葉が通じるのだから、ちゃんと対話をするべきですよね? うん、言葉という偉大なる文化があるのだから、その文化を有効活用しないのは言葉という文化を築き上げた先人たちに対する侮辱とも言えますもんね。


 見ればセイクリッドウルフたちも同じ結論に達したのか。しきりに頷いています。真っ白な毛皮に覆われているのに、顔がいくらか蒼いけれど、そこは気にしないでおこう。どうせ俺も同じように蒼白としているだろうからね。


「えー、その、セイクリッドウルフ、さん?」


「……なんでしょう? カレン、さんでしたか?」


「あ、はい。えっとですね。せっかく言葉が通じ合うのですから、話し合いの場を設けたいなと思うのですが、いかがでしょうか?」


「そうですね。ええ、言葉がせっかく通じ合うのですから、その言葉を用いないのは文化的ではありませんからね」


「ええ、ええ、そうですよ。ここは文化的かつ平和的な解決を」


「そうですね。少し興奮しすぎました。申し訳ない」


「いえいえ、こちらこそ」


 にこにこと笑うレアが怖い。怖すぎて、俺もセイクリッドウルフもなぜか敬語での会話をしていた。そうしないとなにをされるのかわかったものじゃない。


 嫁はやはり怒らせるべきではありませんね。というか、いまのレアは鬼嫁かと思うほどに──。


「「旦那さま」?」


「……なんでもございません」


 いかん。下手なことは考えない方がいい。いまのレアには考えていることが筒抜けになってしまう。


「と、とにかく、話し合いをしましょう」


「そうですね。お願いします」


 俺もセイクリッドウルフもお互いにぺこぺこと頭を下げ合いつつも、話し合いの場を設けることに同意した。そうしていろんな問題を抱えた話し合いは始まったんだ。

 要するにお嫁さんには敵いません、ですね←しみじみ

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