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Act5-47 平伏せし狼たち

 有言実行しましたよ!

 久しぶりに休みなのに、十六時更新できます!

「貴様は鬼王殿と主の元にいた」


 ホワイトウルフたちの中で一番風格のある個体が言う。いや、ホワイトウルフのように見えるけれど、明らかにレベルが違う。


 たぶんナイトメアウルフと同じランク。つまりは光属性のウルフのBランク個体。たしかセイクリッドウルフだったかな? あれがたぶん群れのボスなんだろう。


 その証拠にセイクリッドウルフの周囲にはダークネスウルフを思わせるような白い巨体の狼がいた。あれがたしかシャイニングウルフか。やっぱりCランクになると一度巨大化するのが一般的なのかな? もしシリウスが進化した場合、やっぱり巨大化するんかな? 大きくなったシリウスか。いまいち想像できないな。そもそも進化させるつもりはないんだけどね。まぁ、いまはどうでもいいか。


「あんたが群れのボスかい? セイクリッドウルフと見たけれど?」


「……そうだ。我がこの群れを率いている」


 セイクリッドウルフはガルムを思わせるほどに冷静な性格をしていた。それとも群れのボスゆえなのかな? 常に冷静であろうとしているのだろうか? それとも開き直っているだけなのかは、現時点ではちょっと判断がつかないな。


「あんたが墓荒しをさせている調本人なのか?」


 セイクリッドウルフを見やる。周囲にいたシャイニングウルフがなにか言いたそうな顔をしたが、セイクリッドウルフが止めていた。どうやら訳ありみたいだな。


「……なにを言われようとも否定せん。実際に我らは主の祖先の墓を暴いている。決して主には言えぬ。鬼王殿にも言えぬ。我らはふたりへの恩を仇で返してしまっている。それはどんな理由があろうとも拭うことはできん」


 セイクリッドウルフの目からは悲憤を感じられた。自分ではどうすることもできない悲しみと怒り。そのふたつの感情に染められた目をしていた。


「訳ありかい?」


「さてな」


 セイクリッドウルフはなにも言わない。なにも言わないのか。それとも言えないのか。たぶん後者だろうな。どんな理由があっても拭うことはできないということは、やむにやまない事情があるってことだろうし。ただその事情を語ることは許されていないってことだろうね。


「それは、俺にも言えない事情か?」


 どうやって口を割らせようかと考えていたら、スパイダスさんが出てきてしまった。スパイダスさんの登場にセイクリッドウルフを除く狼たちが慌て始めた。


「よう、兄弟。ずいぶんとしけた面をしているな?」


「……できれば会いたくはなかったよ、主」


 スパイダスさんとセイクリッドウルフはどちらも悲しそうな顔をしている。


「いったいあにがあった?」


「……言えぬ」


「ほう? 俺にも言えない事情ってか。セイクリッドウルフであるお前さんの手にも余ることってことかい?」


「さぁな」


 セイクリッドウルフはごまかそうとしている。だけど、もともと嘘が得意じゃないんだろうな。ごまかそうとしているけれど、ごまかしきれていない。それ以前にスパイダスさんの方が上手で、半ば誘導尋問のようになりつつある。セイクリッドウルフもそのことに気付いているけれど、どうすることもできないでいるようだ。


「主、これ以上は聞かないでくれぬか? なにも聞かずに私の首を刎ねてほしい。この首を以て謝罪とさせてほしい」


「ずいぶんと身勝手な願いだなぁ、おい?」


「わかっているさ。それでも私にはそうすることしかできぬのだ」


 セイクリッドウルフが俯いた。いやセイクリッドウルフだけじゃない。シャイニングウルフもホワイトウルフたちも悔しそうに俯いている。それほどのことがあったということだろう。考えられるとすれば、群れであれば、当然いるはずの存在がいないことが答えなのかもしれない。単純に連れてきていないってことなのかもしれないけれど、可能性としては十分にありえることだった。


「なぁ、子供はどうしたんだ?」


 セイクリッドウルフ以外の狼たちが明確に反応した。セイクリッドウルフが慌てて制止させようとするが、すでに後の祭りだ。


「……なるほどな。子供たちを人質にでも取られたのか」


「……知らぬ」


「ごかますんじゃねえよ。いや、ごまかしきれていないぞ、兄弟。おまえさんは嘘が得意じゃないんだ。無理をして嘘を吐くなよ。正直に言え。子供たちは誰に攫われた?」


「知らぬ」


「ごまかすなって言っているだろうが!」


「だから、知らぬと言っているだろうが!」


 スパイダスさんもセイクリッドウルフもそれぞれに息を切らしていた。お互いに言い合いをしたくないんだろう。それでも言い合うしかない。お互いに譲れないものがある。だからこそ言い合うことしかできないんだろう。


 胸が痛いな。スパイダスさんとセイクリッドウルフがいままでどういう関係を築いてきたのかは俺にはわからない。それでもスパイダスさんがセイクリッドウルフを認めていることだけはわかる。そしてセイクリッドウルフもスパイダスさんを主と呼んではいるが、その実は親友のような間柄なんだろう。その親友同士が言い合いをする。それもどちらも退けない事情があるうえでの言い合いだ。


 見ていて胸が痛いのも当然か。こんなのどっちも辛すぎるだろうに。それでも俺にはこの言い合いを止めることは、いや止められる資格がない。できることはただふたりの言い合いを──。


「わぅわぅ、なんでスパイダスさんとそっちのおじさんは怖い顔をしているの?」


「シリウスちゃん、ちょっとお口チャックしましょうね? いま大事なお話を」


 レアに抱っこされていたシリウスがシリアスムードを壊すことを言ってしまう。スパイダスさんは毒気が抜かれたのか、困ったように頭を掻いている。それはきっとセイクリッドウルフも同じで──。


「……もしやグレーウルフか?」


 セイクリッドウルフは、いや、その周囲にいた狼たちすべてが目を見開いていた。セイクリッドウルフも目を見開きつつも、声を震わせている。グレーウルフだからと言って、特殊進化個体だからと言って、なにがあるんだろうか? 


「わぅ? そうだよ。私はグレーウルフのシリウスなの」


 シリウスがお行儀よく挨拶をした瞬間、狼たちすべてがその場に平伏した。それはセイクリッドウルフもまた同じだった。思わぬ光景にスパイダスさんが固まった。それはスパイダスさんだけではなく、俺やレアも同じだ。シリウスは「わぅ?」と不思議そうに首を傾げる。


「失礼致しました! 御身とは知らずになんたる無礼を。お許しくださいませ、ロード・シリウス」


 セイクリッドウルフの声に喋られる個体が声を重ねて謝罪していた。本当になにがどうなっているのやら。そんな俺の疑問に答えることもなく、セイクリッドウルフたちはシリウスに向かって平伏し続けたんだ。

 明日もできれば十六時更新です。

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