Act5-41 うちの愛娘はさいかわです(Byカレン
あー、間に合わなかった←汗
明日は間に合わせたいですね。
アダマンタイトの鉱脈を荒らす連中の相手をするメンバーは決まった。
ライコウ様も参加してくれるとは思っていなかったけど、ライコウ様が参加してくださるのであれば、これ以上心強いことはない。
ルルドの仲間たちはさすがに参加させられなかった。というのもルルドの仲間たちはホワイトウルフを一頭相手するのがやっとなくらいの実力しかなく、相手がどれくらい強いのかさえもわからない現状では、ルルドの仲間たちだと足手まといになる。彼らの中で一番強いルルドでさえ、シリウスに勝てないんだ。そのルルドよりも劣る子たちを参加させるのは、さすがに憚れた。
なので、ルルドの仲間たちはスパイダスさんに預かってもらうことにした。森の主であるスパイダスさんの家であれば、安全だろうからね。
本当はサラ様に預かってもらうつもりだったのだけど──。
「では私も参加しますね」
事情を説明するためにサラ様が待つアジュールに向かうと、サラ様はにこりと笑って、参加表明をされた。
一緒にアジュールへと戻られたライコウ様が言うには──。
「……あれは言外で断固として引く気はないと言われたようなものだ」
とのことだった。その言葉を証明するようにサラ様はなにを言っても引いてはくださらなかった。
「わざわざ私が守らなくてもスパイダスさんというのに守ってもらえばいいじゃんない?」
サラ様が守ってくれれば心強いと言った俺への返答がそのお言葉でした。
「それにシリウスちゃんを、私のかわいい孫娘を嫁にくれだの抜かすガ、もとい少年の顔を見てみたいもの」
サラ様は笑いながら言われた。よく見ると露になっていた口元がわずかにひきつっていた。……あれがどういうことなのかはサラ様のお言葉を鑑みれば、おのずとね?
どうやら「まま」と「ばぁば」にもルルドの言動は受け入れがたいもののようだ。ちょっと安心したのは言うまでもない。
ただ──。
「ほぅ、貴様か? 私のかわいい孫娘を、シリウスちゃんを嫁にくれだの抜かした小僧は」
サラ様の説得ができないとわかり、スパイダスさんにルルドの仲間たちを預かってもらうように頼みに向かい、一通りの話をつけたあと、ルルドも一緒にアジュールに戻ると、サラ様は開口一番にルルドに笑いかけられた。笑いかけると書いて、なんと読むのかは、まぁ、うん。
とりあえずルルドはレアに笑いかけられたときよりも怯えていたとだけ言っておきます。ぶっちゃけ怯えるなというのが無理な話ですけどね?
最近はあまり思えないことだけども、サラ様は一応この世界のナンバー2にあたる方だ。
つまりはサラ様の名は誰もが知っている。そのサラ様がシリウスの「ばぁば」だと知れば、いやサラ様のシリウスへの溺愛っぷりを知れば、そのシリウスへちよっかいをかけていたと知れば、誰だってねぇ?
そんなわけで、「まま」であるレアからも、「ばぁば」であるサラ様からもルルドは認められずじまいだった。というか明らかな敵意を向けられてしまったというか。
うん、ちょっとかわいそうだったよ。だからと言ってシリウスを嫁にやるつもりなどないけどね?
シリウスと付き合いたいなら俺に勝ってからにしろと言いたいね。
それさえもできないうちにシリウスを嫁にほしいだなんて、百年早いわ!
レアとサラ様も同じ意見なのか、ふたりもともルルドに向ける視線が怖い怖い。
あれだね。この世で一番怒らせていけないのは、愛娘ひいては孫娘を溺愛する母親と祖母だってことがよくわかります。
母さんとおばあちゃんも、俺がもし彼氏なんてものを連れてきていたら同じような反応をしてくれたのかな?
まぁ、俺が彼氏を作るとか考えられないんですけどね?
彼女ならともかく彼氏はないな。うん、ない。
仮に彼女を連れてきたら、どういう反応をしてくれたのかな?
よくわからないなぁ。
想像さえもしたことがなかったから。
まぁ、彼女と言うと、確実に希望になったわけでしょうけども。
あ、でも希望であれば、昔はほぼ毎日来ていたわけだから、おばちゃんには公認されていたようなものだったのかな?
うん、さすがは俺の嫁だね。
でも、シリウスが嫁になることは許しません。というかシリウスを嫁にしようとする馬の骨など許しませんよ?
「というわけで、諦めろルルド」
「いきなりすぎて意味がわからないんですけど!?」
アジュール内でひとり正座をしているルルドの肩を優しく叩いてあげたのだけど、ルルドはどうにもノリが悪いね。意味を理解してくれなかったよ。こんなノリの悪い奴をシリウスの婿になどできません。
だからといってチャラい系は許さん。特に地元で希望をナンパしたああいうチャラい兄さんみたいなのは絶対に許さない! つまりは勇ちゃんみたいなのは絶対にダメだ!
あんなのがシリウスの婿として来たのであれば、尻を蹴っ飛ばしてでも追い出してやる!
その点、ルルドはまぁいまのところは真面目だけど、真面目すぎるからシリウスの婿には向かないね。
うん? 真面目すぎてもダメで、チャラいのもダメならどんなのがいいのか?
そんなの知るか。
とにかくシリウスを嫁にほしいと抜かす奴はすべて俺の敵です! それだけはたしかだよ!
「まぁ、そういうわけだからほかを探してくれ。な?」
「だから意味がわかりませんよ!?」
ルルドがまた叫んでいる。本当にノリが悪い奴だなぁ。
やっぱりこいつが婿になるのは認められんね。
「わぅ~」
不意にシリウスが唸り始めた。うん? なんで唸っているんだい、シリウスちゃんや?
まさか、ルルドを俺が独り占めにしていると勘違いを──。
「ごふっ」
「だ、「旦那さま」!?」
レアの慌てる声が聞こえる。けれど答える余裕はなかった。
だっていまの最悪の光景が事実であれば、シリウスはもうルルドを──。
「がはっ!?」
「だ、「旦那さま」、お気をたしかに!」
レアが介抱してくれる。まぁ、連続で吐血したらそうなるわな。しかしストレスで吐血って本当にするんだね。ストレス社会って半端じゃないね。
「わぅ!」
シリウスがやや強めに声を上げた。そしてとことこと俺のところに来ると──。
「わぅん!」
なぜか飛びついて来て、そのまま俺の腕の中に潜り込んでくれました。とてもご機嫌なお顔で俺の胸に顔をぐりぐりとしてくれています。……へい、まいがーる。ぱぱ上、意味がわからないですよ?
「えっと?」
「ぱぱ上は、私のぱぱ上なの。取っちゃダメなの!」
そう言って頬を膨らませるシリウスが見やるのは、ルルドだ。ルルドはいきなりのことでまた反応できていない。ただ頬を膨らませるシリウスの愛らしさに顔を赤くしているね。……目玉を抉られるのと即刻顔を逸らすのどっちを選ばせようかな?
「ご、ごめんなさい」
ルルドは静かに顔を反らした。まぁいい。チャンスはいくらでもある。それよりもだ。
「し、シリウス?」
「わぅ?」
「ヤキモチを妬いていたのは、ルルドになのか? ぱぱ上ではなく?」
「わぅ?」
なにを言っているのとシリウスは不思議そうに首を傾げている。ああ、その仕草と表情もまた愛らしい。しかし、そうか、シリウスはルルドが俺を独り占めにしていると思ったのか。だから不機嫌そうな顔を──。
「レアまま、ぱぱ上、なんで泣いているの?」
「そういうときもあるのよ、シリウスちゃん」
「わぅ~?」
わけがわからないとシリウスの顏には書いてあった。それでもいい。それでもいいのさ。なにせシリウスがお嫁に行くことはなくなったのだから。あははは、我が世の春が来たぞぉぉぉ!
「とにかく、ルルドはぱぱ上を取っちゃダメなの! ぱぱ上は私のだもん!」
そう言って俺に抱き着くシリウス。それだけで意識が飛びそうになったのは言うまでもない。こうしてこの日俺はこの世の幸せをこれ以上となく味わうことになった。




