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Act5-35 鬼王、再び

 本日六話目です。折り返しですね。

 スパイダスさんの家のリビングは騒がしくなっていた。というのも──。


「調子に乗るなよ、犬っころ!」


「私は犬じゃないもん!」


「どこからどう見ても犬だろ!」


「そっちこそ角が短いくせに!」


「なんだと!?」


「なんなの!?」


 うぅ~と唸りながら取っ組み合いの喧嘩が繰り広げられているからです。当事者はうちの愛娘と突如入ってきたオーガやゴブリンの子供たちのひとりである男の子のオーガだった。


 ただオーガの割には角が短めなのを気にしているのか、シリウスの一言にぷっつんしたみたいだ。とはいえ、それはシリウスも同じで尻尾が逆立っているもの。


 まぁ、尻尾を逆立たせるようなことをオーガの男の子が言ってしまったわけなんですけどね。


「男女の姉ちゃんもいたのか。あははは、相変らず胸も色気もないなぁ」


 スパイダスさんに挨拶すると、オーガの男の子が俺たちに気づき口にした言葉で、シリウスが怒りました。


「ぱぱ上の悪口を言わないで!」


 シリウスは普段はしないような表情を、眉間にしわを寄せた鋭い目付きでオーガの男の子を睨み付けた。そこからゴングが鳴り響き、結果シリウスとオーガの男の子の取っ組み合いとなったわけだ。


 本来であれば取っ組み合いにはならないんだけどね。


 なにせオーガの男の子は見た目が十歳くらいだ。オーガらしく体の造りはしっかりとしている。いずれはオーガの名に相応しい鎧のような筋肉を纏うようになるんだろうね。


 対してシリウスは五歳児くらいの見た目だけど、Cランクの魔物と遜色ない実力を誇るグレーウルフだ。見た目の上ではシリウスが泣かされるとしか思えないけれど、実際は互角のやりとりをしている。互角と言っても、やっていることは子供の喧嘩と大差ないんですけどね?


 いや、お互いに子供だから、子供の喧嘩と言っても差し支えがないんですけどね?


 お互いに怒っているからか、一切手加減はなしだもの。


 しかし男の子も怒っているけど、シリウスの怒りはもう激昂と言っていいレベルだ。なにせいつも温厚なシリウスが牙をむき出しにし、いまにも男の子を噛み殺そうとしているもの。男の子が少しでも力を緩めたら、組付されたあげくに喉笛を噛みちぎりそうだ。


 男の子もそれがわかっているのか、必死になってシリウスを押さえ込もうとしている。体格という名のハンデを活かそうとしているのだけど、そんなハンデはあってないようなものになっていた。


 そもそもCランクの魔物と遜色ない実力を誇るシリウスに喧嘩を売るのが間違いなんだけどね。


 まぁ、そこは年下の女の子に嘗められたくないという意地があったんだろうな。シリウスは見た目であれば五歳児くらいだから、男の子にとっては半分くらいの年齢になる。実際の年齢は半分どころか十分の一にも満たないのだけど、そこは男の子の名誉もあるので、言わないことにしておくとしても、だ。


「なんで、この犬っころ、こんなに力があるんだよ!?」


 男の子は汗だくになりながらも、シリウスを抑え込んでいる。ただすでに逃げ腰になっているから、本当にギリギリのところで抑え込んでいるみたいだね。対してシリウスはすでに男の子の喉笛をロックオンしている。わずかにでも距離が詰まれば、その瞬間流血沙汰は確定か。このあたりにさせておこうか。


「こぉら、シリウス。大人げないぞ?」


 後ろからシリウスを抱き抱えると、男の子は前のめりになって倒れこんだ。


 地面とキスする形になっている。……ちょっとタイミングが遅れていたら、シリウスがこの子にキスされるところだったのか。うちの愛娘の唇を奪おうなんざいい度胸だな、坊や?


「ひっ!?」


 なぜか男の子が悲鳴を上げた。おかしいな? 俺は特になにかをした覚えはないんですけど?


 ただ、笑いかけただけさ。そう、笑いかけただけなのに、悲鳴をあげるなんて失礼な子だな。ちょっと躾がなっていないんじゃありませんかね? 親御さん、どこよ? 話があるんだけど?


「……モンスターペアレントだな」


 ライコウ様が呆れた顔をされているけど、いまはスルーです。大事なのは、この大それたことをやろうとした坊やに鉄槌を──。


「……ぱぱ上も大人げないの」


 シリウスが呆れている。……仕方がない。今回は見逃してやろう。次はないけどね? 次やったら第三の性別になってもらいます。


 男の子は顔を青くして股を押さえた。それはほかの男の子も同じだった。


 逆に女の子は不思議そうに首を傾げている。どうにもまだよくわかっていないみたいだね。そのまま清いままでいてほしいものさ。


 まぁ、とにかくシリウスに言われた通り、たしかに未遂でいちいち目くじらを立てるのはちょっと大人気ないね。釘も一応ぶっ刺しておいたから問題はないだろうし。


「……カレンさんって怖いんですね、ライコウ様」


「うむ。ためらいもなく、もぐと言っているしな」


「あまり怒らせないようにしないと危険ですね」


「ああ」


 ライコウ様とスパイダスさんがひそひそとなにかを言っているけれど、なにを話しているんだろうか? 聞いても答えてくれそうにはないだろうけれど。


「で? 君たちはどうしてここにいるの? たしかマモンさんたちと一緒に北へと向かったんじゃ?」


 釘を刺したからには次に聞くのは、ここにいる理由だろう。たしかこの子たちは宴の時にシリウスを面白くなさそうな顔をしていた子たちだ。つまりは「グリード」の子供たち。マモンさんと一緒に北上しているはずなのに、なんでここにいるんだろう?


「そんなの途中で抜け出してきたんだよ。まだレースの途中だっていうのに、続きが来年とか考えられないし」


「こら、レースのことは」


 スパイダスさんが慌てた。レース? いったいなんの話をしているんだろう? そう思った、そのときだった。


「……詳しく話を聞きたいな、スパイダス」


 スパイダスさんの家の中に聞き覚えのある声が聞こえてきた。同時に子供たちとスパイダスさんがびくんと体を震わせた。子供たちだけではなく、スパイダスさんもまた恐る恐ると振り返る。そこには──。


「どうせ、またくだらない遊びを教えているんだろうがな」


 呆れた顔をしたマモンさんが入り口そばの壁に寄りかかっていたんだ。

 続きは十六時になります。

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