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Act0-48 初めての…… その四

PVが3900突破しました。

いつもありがとうございます。

 商談が終わり、モーレを連れて、冒険者ギルドで、個人依頼を受けることを伝えた。


 受付のお兄さんは、ほぼ難色を示すことなく、個人依頼の受理を始めてくれたが依頼料で、唸られてしまった。


 やっぱり最低相場の半額が気になったようだ。ギルドで委託する場合は、完全にはねられかねない値段だったから、無理もない。もしかしたら、無理やり言うことを聞かされているとも考えたのかもしれない。しかし俺の隣にいたモーレを見て、いろいろと察してくれたようだった。


「この依頼料で、よろしいですか?」


 念のためにとお兄さんは尋ねてきた。よろしいもなにも、すでに受けると決めている以上、なんの問題もない。そもそもその依頼料は、表向きのものだ。本当の報酬は、湯沸かしの賃金であるのだから、俺としてはなんの問題もなかった。問題はない、と言うと、お兄さんは苦笑いしつつ、今度はモーレに質問を始めた。依頼内容の詳細とその確認のためだ。


 百年前の事件が、ギルドにとっても、いかに重大なことだったのか、というのがよくわかる対応だった。もっとも今回の場合は、そんな重大な違反なんてあるわけがなかった。そもそも街からそう離れていない森の、しかも入り口付近にあるという群生地までの護衛だ。そんな場所に危険度が高い魔物なんて、住み着いているわけがないし、これからギルド側も一応の調査をするのだから、違反なんて起こりえるわけがなかったし、アクシデントだってそうそう起きるわけもない。そう、このときの俺は思っていた。


「では、受理いたしました。今日より数日かけて、周辺の調査をいたしますので、その後に依頼を行ってください」


「わかりました。では、よろしくお願いします」


「よ、よろしくお願いします」


 受付のお兄さんに頭を下げると、モーレは一瞬唖然としたが、慌てて、頭を下げた。頭を下げつつも、モーレはなんだか珍しいものを見るように俺を見ていた。なんとなく視線が失礼な気がしたが、あえてその場では抑えた。


「カレンちゃんって、礼儀正しくできたんだね」


 ギルドを出た後に、モーレはそんなことを言ってくれた。どうやら俺の言動がいつも粗暴極まりないので、敬語や礼儀作法は壊滅的だと思い込んでいたようだ。まぁ言いたいことはわかっていたし、そう思うのも無理はないことではあったが、ちょっと心外だった。モーレの口調では、俺が粗暴という言葉を絵に描いたような扱いをされていたように思えるからだ。


 たしかに俺は見た目に反して、粗暴だろう。だからと言って、敬語ができないわけでもないし、礼儀作法が身についていないわけでもない。こう見えても、数年前から実家の仕事を手伝っているんだ。まぁだいたいが地域の仕事を割り振られていただけだったので、相手はせいぜい昔から顔見知りのじいちゃんやばあちゃんがほとんどではあったから、多少粗暴な言動をしても怒られることはなかった。例外は佐藤のばあちゃんで、ちゃんと女の子らしい言動をしろ、とよく言われたものだ。


 でも小さい頃から、いまみたいな言動だったのを、急に変えられるわけもない。それにほかのじいちゃんやばあちゃんは、俺は粗暴な言動じゃないという、共通した認識をしていたみたいで、佐藤のばあちゃんに賛同してくれる人はあんまりいなかった。なので、佐藤のばあちゃんに、なにを言われても、俺はこの言動でいままで通してきた。そしてそれはこの世界でも変わらない。


 ただ普段の言動と、仕事のそれとを一緒にはしない。そんなのは当然のことだ。仕事は仕事。普段は普段。その切り替えはきっちりとやらないといけない。それでこその社会人だと俺は思う。まぁ、俺はまだ社会人っていう年齢ではないけれど、仕事をしている以上、年齢なんてものは関係ない。ちゃんとしたマナーを守らなければならないのは、社会人だろうと学生だろうと変わらないことだった。


「なんか意外な一面を見たって気がするよ」


 モーレはしみじみと頷いてくれた。意外で悪かったなと思ったが、普段が普段だから仕方がないなと思うことにした。それにそんなことは、もう何度も言われて、すっかりと慣れてしまっていた。どうやらこの世界でも地球でも、俺の切り替えは、驚かれてしまうようだ。粗暴から礼儀正しくなれば、そりゃあ誰だって驚くか。ちょっと納得いかないが。


「とにかく、これでモーレの依頼を受ける準備はできた。あとは調査が終わってからだ」


「ねぇ、カレンちゃん。報告は済んだんだから、このまま行っちゃダメなのかな?」


「ダメ。一応調査をしてもらってからってことになっているの」


「えー、面倒だなぁ」


「面倒でもなんでもそれがルールなんだから。ルールは守るものだろう?」


 モーレは少しふてくされていたようだったけれど、一応は頷いてくれた。とはいえ、モーレの言うことにも一理ある。


 群生地は、この街の住人であれば、誰もが利用している場所だった。しかも森の入り口付近なので、危険度の高い魔物がいない。そんな場所をわざわざ調査する必要なんてない。そう言いたくなるのも無理はない。俺がモーレの立場であれば、同じことを言うだろう。


 だが、規則では一応調査をすることになっていた。する必要はないと言ってもいいけれど、それでもやらなきゃならないことだったし、守らなければならないことだった。それにだ。こういうお手軽クエストみたいなものは、わりと落とし穴になっている場合が多い。あくまでもラノベやゲームであればの話だけど。


 しかし俺がいるのは、ラノベやゲームの舞台となる異世界だった。ならば、ある種のお約束が起こる可能性は高いと考えてもいい。ならば、念には念を入れるのは、決して間違いではないだろう。


 ギルド側も、個人依頼の特殊性ゆえの危険を重々承知しているからこそ、面倒なことをしているわけなのだから、いくら必要性を感じないからと言って、勝手な行動をするのはまずい。急ぎの依頼でもないのだから、十分な調査をしても問題はない。むしろ急ぎではないからこそ、十分な調査はやって然るべきだった。


「とにかく、規則を守らないといけないんだ。じゃないと俺にペナルティーが課せられることになるし」


「そうなの?」


「ああ。だから、数日間だけ、我慢してくれよ」


「う~、わかった。カレンちゃんに迷惑をかけるのは、私の本意じゃないもの」


 モーレは唸りながらも、どうにか納得してくれた。依頼人はモーレだ。その依頼人の意向はできるだけ叶えてやりたい。でも規則を自分勝手に破るわけにもいかなかったから、モーレが頷いてくれたのはよかった。納得してくれたかどうかはわからないが、理解をしてくれたことはたしかだった。


「ありがとうな、モーレ。その代り、当日は最高の護衛をしてあげるよ」


「期待しているからね。カレンちゃん」


 現金なもので、モーレは俺の言葉を聞いて、嬉しそうに笑ってくれた。俺も素直に笑っていた。なにも起こるわけがない。そんなお手軽な依頼だと思い込んでいたからだ。しかしそれが思い込みでしかなかったことを、俺は数日後に知ることになった。

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