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Act5-15 ヤキモチ

連日で遅くなってしまった←汗

休みの日はやっぱり気が抜けてしまいますね←汗

「こんなものでどうでしょうか?」


「ええ、問題ないわ」


 ライコウ様が尋ねると、サラ様は満足げに頷いていた。


 そんなおふたりの前には、ライコウ様自身が狩った獲物が並べられている。ラースさんから聞いていたバンマーという魔物が数頭横になっていた。


「わぅわぅ、じぃじ、すごいの!」


 シリウスが目の前に並んだバンマーを見やりながら喜んでいる。いまはサラ様に抱っこされていた。レアはというと──。


「大丈夫ですか? 「旦那さま」」


 レアは俺を介抱してくれている。というのもライコウ様の訓練が初日からハードすぎて、俺の体が悲鳴をあげてしまったんだ。


 なにせライコウ様ってば、弓を構えさせるという訓練を終えてすぐに次の訓練をさせてくれましたからね。その次の訓練は俺が得意とする徒手空拳でのものだった。


「我はこの円から動かん。その我に一撃当ててみせよ」


 そう言ってライコウ様は足元にほぼ動くスペースのない円を描き、その中で腕を組まれた。当ててくださいと言っているようなものだった。


 弓の訓練(結局あれを訓練と言っていいのかはわからなかったけれど)をする前であれば、バカにしているのかと俺も思っただろうけれど、あの訓練の間に食らった叱責を踏まえると、ライコウ様にとってみれば俺は敵にもなりえない存在でしかない。


 そんな俺の攻撃なんてライコウ様には簡単に捌けるってことなんだろう。それでもいくらか俺の自尊心は傷ついた。


 けれどこれくらいで傷つく自尊心なんていらない。俺はもう目の前で誰かを喪わないための、目の前に映るすべての人を守るための力が欲しい。


 だからこそ俺は迷いなく、ライコウ様に攻撃を仕掛けた。その結果は、まぁ、言うまでもないが、一撃も当てられなかった。それどころか攻撃を仕掛けるたびに俺は傷付いていった。


 ライコウ様がカウンターを仕掛けたわけじゃない。単純に投げ飛ばされただけ。いや投げ飛ばされてもいないか。俺は自分の意思とは無関係に、みずから地面に体を叩きつけたんだ。


 なにを言っているのかと言われると思うけれど、実際そうとしか言いようがなかった。攻撃を仕掛けてもなぜか体のバランスが崩れ、みずから地面とキスすることになった。それを延々と繰り返すだけだった。ライコウ様はその場にいた。一歩も動くどころか、攻撃さえ仕掛けてこられなかった。


 なのに俺はあっという間に傷だらけになり、立つことさえできなくなってしまったんだ。


「今日はここまでにするか」


 結果、太陽が高くなった頃には、初日の訓練は終わりを告げた。俺は両手両足を投げ出して地面の上で大の字になっていた。


「まだまだだな。だが、筋はいい。これからに期待だな、カレン殿」


 ライコウ様は見えている口元をにやりと歪ませていた。口元と言葉だけを踏まえると、とんでもなく意地悪そうではあったけれど、その口調はとても穏やかでそして優しかった。


 その口調はどこか親父に似ている気がした。ありえないとは思う。というか自分で否定したけれど、やっぱりライコウ様を親父と重ねてしまう。むしろライコウ様は親父なんじゃないかという疑惑が浮かんでは消えていく。


 たしかにライコウ様は親父よりも見た目が若い。まぁ、仮面で顔を隠されているから、実際の年齢なんざわかりませんけれど、少なくとも肌のはりを見るかぎりは、親父よりも年齢は若い。もっとも天使であるライコウ様の方が親父よりもはるかに年上なんだろうけれど。


 そう、ライコウ様は天使だ。そして親父はいくらかアレではあるけれど、一応は人間だった。だから親父がライコウ様なわけがなかった。


「それでは我は狩りにでも行って来よう。カレン殿はいかがする?」


「……行ける余裕がございません」


「であろうな。そんな余裕を残すほどに優しくはしておらんからな。そのまま少し寝ているといい。蛇王よ、介抱してやってくれ」


「言われずともやりますよ、ライコウ様」


 レアはライコウ様に言われる前に俺を膝枕で介抱してくれる。レアの圧倒的なブツで視界が埋まってしまう。こうして間近で見るとレアのそれがとんでもない迫力なのがよくわかる。実際あの夜もすごかったからなぁ。喘ぐたびにダイナミックに動いていたし。うん、あれはたしかに眼福ではあったね。いくらか物悲しくはあったけれども──。


「少し手加減しすぎたかな?」


 喉の奥を鳴らしてライコウ様が笑っていた。同時にレアがなんとも言えないように、頬を赤くしていた。どうにも俺はまた鼻の下を伸ばしていたみたいですね。いや鼻の下を伸ばしたというよりも、あの夜のことを口にしてしまったことの方が悪かったのかもしれない。どちらにせよ、思ったことを口にしすぎてしまったことはたしかだった。


「まぁ、いいさ。英雄色を好むとも言う。むしろ人であれば、当然の反応だ。あまりにすぎるのも問題ではあるが、それくらいに羽目を外すのは問題もなかろう」


「……フォローになっていないですよ」


 ライコウ様なりにフォローしてくださったんだと思うけれど、それじゃフォローにはなっていない。でもそんな俺の言葉をスルーしてライコウ様はマモンさんの弓を手に取った。


「それでは、我は行く。サラ様、少しの間よろしくお願いいたします」


「ええ。あなたもね、ライコウ。バンマーを数頭お願いするわ」


「了解いたしました。極上のバンマーを狩って参りましょう」


 和やかに会話をしてから、ライコウ様は弓と矢を背負って行ってしまった。その後ろ姿を眺めている間に俺は意識を手放していた。


 目を醒ましたときには、空は茜色に染まっていた。


「お目覚めですか?」


 目を醒ました俺にレアは優しく笑い掛けてくれた。おはようとあいさつする前にライコウ様が戻られた。サラ様がリクエストしたバンマーを数頭肩に担ぎながらね。バンマーがどういう魔物なのかはわからなかったけれど、俺のイメージだと鹿かなと思っていた。うん、間違ってはいない。ただこの世界が地球ではないということを俺はどうにもまだ理解していなかったみたいだった。


「馬と鹿だな」


 そう、バンマーは馬と鹿のハイブリットとでもいうべき魔物だった。顔と体はどう見ても馬なんだ。でも角があるうえに毛皮の模様が鹿のものだった。……鹿の模様って言っても、あくまでもテレビで見る剥製の模様と同じってだけなんだけどね。


 とにかく、そんなバンマーをライコウ様は数頭も肩に担いで戻ってこられた。正直よく運べたなって思う。この人もやっぱり規格外のようだった。


「バンマーってあんなに大きいんだね」


「ええ。でも美味しい魔物ですよ。「旦那さま」も宴の際には食べられたでしょう?」


「うん、美味しかった」


 煮られたバンマーの肉はたしかに美味しかった。味付けもよかったとは思うけれど、肉自体がよかったというのもあったとは思う。希望であれば、どう調理するのかなと一瞬考えてしまったけれど──。


「ダメですよ、「旦那さま」」


 レアが唇を尖らせる。ちょっと怒っているみたいだ。でもなんで怒っているのかが俺にはわからない。


「いまこの場にはノゾミちゃんはいません。いまあなたを介抱しているのは私なんですからね?」


 頬を膨らませるレア。そんなレアが可愛くて、そして愛おしかった。ごめんごめんと謝っておいた。その間にサラ様が腕を振るってバンマー料理をすると言われていた。


「サラ様は料理上手だから、問題はない」


 ライコウ様はそう言ってサラ様の調理の手伝いをしていた。シリウスも小さな体で手伝っている。その光景はなんというか、孫が遊びに来て張り切っている祖父母とそんな祖父母の手伝いをする孫娘っていう感じだ。ライコウ様も最初は渋っていたのに、いまでは完全にシリウスを孫娘として認知されたみたいだ。……ますますシリウスの地位が爆上がりしていくのはどうしたものですかね。


「……「旦那さま」は本当にノゾミちゃんとシリウスちゃんのことばかりですね。ちょっと妬けちゃいます」


 レアが頬を膨らませる。そういうつもりではなかったけれど、結果としてそういうことになっていた。俺は慌てて謝った。でもレアはダメですとしか言わなかったよ。


「ここでの生活の間だけは、私をちゃんと見てくれると言ってくれるのであれば許します」


 レアは頬を染めつつも、真剣なまなざしを向けてくれる。なにを言えばいいのかはわからなかった。


「……うん、わかった」


 そう言って頷いていた。レアが嬉しそうに笑う。その笑顔はとてもきれいで、そしてかわいかった。そうして「鬼の王国」での滞在四日目も無事に過ぎて行ったんだ。

 ライコウ様がやんちゃっぷりを書くつもりだったのに、レアさんのヤキモチですべてを持っていかれてしまった気分です。

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