Act5-14 訓練開始
めっちゃ遅れました←汗
昼間に近所で開かれていただるま市に行ってきたんですが、その際買ったケバブでお腹の調子が←汗
……はい、いいわけですね、ごめんなさい←汗
それでは、さっそくどうぞ。
「鬼の王国」での滞在四日目は、朝からハードモードと化した。
というのも朝からライコウ様に鍛えられてしまっているからだ。
最初のメニューは、マモンさんの弓をライコウ様の指示があるまで構え続けるというものだった。
ただ構えるだけならと思っていた時期が俺にもありました。でも、現実はやっぱり厳しいんですよね。
「腕が緩んでいるぞ」
ライコウ様のチョップ、いや、手刀がライコウ様曰く緩んでいる腕に振り下ろされる。そこまで力は入っていないけど、同じ場所のみに一点集中だからかな。痛みが徐々にひどくなっていく。青あざができるまでに時間はさほどかからなさそうだ。
「うむ」
痛む腕に力を込めると、ライコウ様は満足そうに頷かれると、俺の背中に回る。そして──。
「なんだ、そのへっぴり腰は? ちゃんと構えろ」
ライコウ様の容赦ない蹴りが腰に入った。さっきから腕と腰に折檻をされ続けています。本当に痛いです。腕はまだしも腰はあざができていそうだ。
「わぅわぅ、じぃじ、厳しいの」
「このくらいはまだ厳しくもなんともない」
「そうなの?」
「あぁ、まだまだ序の口だよ」
「そうなんだ」
シリウスは目を隠しつつも、俺の訓練を見守ってくれていた。もちろんシリウスだけではなく、レアとサラ様も一緒だった。
昨日からライコウ様はシリウスにじぃじと呼ばれているけれど、まだ慣れてはおられていないみたいで、いくらか恥ずかしそうだ。対照的にシリウスはライコウ様の指導が厳しいと感じつつも、感心したように頷いていた。頷きながらその居場所は見るたびに変わっている。レアとサラ様のそれぞれの腕の中を行ったり来たりだよ。
……終戦を迎えたと思った嫁姑戦争はまだ終わってはいなかったようだ。
いや、ある意味では終わっているのかな?
ただ終戦時に締結したであろう条約がいくらかややこしいのかもしれない。
そんな条約にさらされながらもシリウスはレアとサラ様の腕の中に行ったり来たりを楽しんでいるみたいだ。
おそらくはレアとサラ様の胸部装甲の差を楽しんでいるのかもしれない。
ちなみにレアが言っていた通り、サラ様の胸はレアよりかは小さい。けれど、アルトリアよりかはあるんだよね。さすがに希望ほどではないけれど、ディープなレベルはあります。……サラ様も十分巨乳のカテゴリーに入るくらいはあるんだよ。
ただ、レアのそれが圧倒的すぎるってだけなんだよね。ここまで差があるとレアから見たら、中途半端と言うのも無理はなかった。え? 俺? ……人にはね言っちゃいけない痛みがあるんですよ。
とにかくだ。レアとサラ様の胸部装甲には大分差があるけれど、その差をシリウスは実に嬉しそうに堪能中だよ。さっきから嬉しそうに「わぅわぅ」と鳴いているのがいい証拠だ。
……本当にうちの娘は、なんでこうも胸なんぞが好きなんかね? ぱぱ上は理解できません。
「ほら、よそ見をしているな」
ライコウ様の蹴りが腰に入る。かなり手加減してくれているので、そこまで痛くはないけど、この人本当に容赦ないな!? 一応俺はガールなんですけど!? ボーイではありませんよ!?
「男だろうが女だろうが、我の鍛え方は変わらん」
「でも」
「ほら、言っている間にまたへっぴり腰だぞ?」
今度はやや力の入った膝蹴りが腰に入った。って、膝蹴りはアカンでしょう!? 膝と肘は危険だからって一心さんが──。
「……あいつは相変わらず、か」
「え?」
「なんでもない。それよりもだ。今度は腰ではなく、腕が緩んでいるぞ?」
ライコウ様がなにかを言った。けれど、よく聞こえなかった。それくらいに小さい声だった。
聞き返そうと思ったのが悪かったのか、今度は腕が緩んでしまった。ライコウ様は、俺の腕に両手を置くと──。
「今回はちょっと厳しめにするぞ」
ライコウ様の両手が動いた。同時に鮮血が舞う。肌が切れて血が舞い上がる。思わず膝を着いて腕を抑えた。血の量に比べて傷はさほどひどくなかった。それでも血はいくらか勢いよく溢れていく。
「ぱぱ上!?」
レアの腕に中にいたシリウスが慌てた。でも、レアはシリウスを強く抱き締めた。
「落ち着いて、シリウスちゃん。腕が落ちたわけじゃないから」
「でも、レアまま」
「少しだけ厳しすぎるとは思うけれど、ライコウ様はあくまでも指導をされているだけ。そう、いくらか厳しすぎるけども」
シリウスを落ち着かせようとしているけど、レア自身も冷静ではないみたいだ。その証拠にレアの瞳孔が縦に裂けているし、長い髪がふわりと浮き上がっている。髪が束になって蛇身となるにまで、さほど時間はかからなさそうだ。
「やれやれ、ライコウは相変わらず厳しいわね」
「この程度はまだまだ序の口です。我としてもだいぶ加減をしております」
「ええ。あなたが加減をしていなければ、カレン殿はとっくに倒れ伏しているのはわかっているわ」
サラ様はあっさりと言い切られた。どうやら本当に手加減をされていたみたいだ。
ただ気遣っているのは俺に対してではなく、シリウスに対してだろうけどね。
シリウスにあまりショッキングな光景を見せたくないのかな。
その優しさを俺にもくださいと言いたいけど、たぶん聞いてはくれない。ライコウ様は優しい人だ。
シリウスに接する態度からそれがよくわかる。
ただその分、教え子に対しては鬼のように厳しくなるんだろう。……一心さんがじいちゃんはそういう人だったと言っていたっけ。
「香恋ちゃんのおじいさんは、すごかったね。うん、稽古の内容を思い出すだけで体が勝手に」
一心さんは遠い目をして体を震わせていた。
あの一心さんがそうなってしまうほどにじいちゃんの稽古はヤバかったということ。
一心さんに稽古をしてもらい始めた頃に、一度だけじいちゃんに稽古を頼んだことがあったけれど、あのとき一心さんは本気で止めていたっけ。
「香恋ちゃん、ダメだよ!香恋ちゃんは希望をお嫁さんにするという使命があるのだから、師匠の鬼畜稽古なんて受けちゃいけない!」
あのときの一心さんは普段の笑顔がなくなり、真剣な顔で言っていたっけ。ただ、その後ろに満面の笑みのじいちゃんがたっていて、一心さんの肩を叩いていた。その後、俺はそのとき見学していた希望と一緒に道場から出されてしまった。それからすぐに一心さんの悲鳴が聞こえてきたっけな。あれは、うん、怖かったな。
とにかくじいちゃんの稽古が荒稽古であることは確かだった。
その荒稽古に勝るとも劣らないのがライコウ様の訓練なのかもしれない。
「痛みはある。だが、それだけだ。血も出ているが、あくまでも表面を切っただけのこと。だが今回はあくまでもその程度で済ませたのだ。だが次はない」
ライコウ様の声が一段低く聞こえた。脅しではない。本気で言っている。
「我はアミティーユの娘であろうと容赦はせぬ。たとえ鍛える過程で、その娘を殺すことになったとしても、我は我の思うままに行動する。それが我の在り方だ」
ライコウ様はそう言って俺を見つめている。この人がその気になれば、俺を殺すことなんて簡単にできるだろう。いま腕を切られたのだってどうやったのかもわからないんだ。この人が本気になれば、俺は瞬く間に首を落とされる。もしくは心臓を潰される。それだけの実力差があった。
だからこそ、この世界における師匠にふさわしい。俺はもう後悔なんてしたくない。守りたい者を守る力が俺は欲しい。だからどんなことをされても俺はこの人の訓練に耐えるつもりだ。
「ご教授お願いします」
「……容赦はしないと言ったのを聞いたうえで、あえてそう言うのか?」
「俺は強くなりたい。だからどんな辛い稽古でも耐えます。だからご教授お願いします」
立ち上がり、ライコウ様を見つめる。するとライコウ様が笑った。
「……強くなったな、香恋」
「え?」
ライコウ様は嬉しそうに笑っていた。でもその言葉の意味がいまいちわからない。まるで昔から俺を知っているみたいな言い方だった。
「ライコウ様、いまのは」
「ほら、ぼさっとするな! さっさと構えろ! あと一時間だ!」
「は、はい!」
ライコウ様に怒鳴られてしまう。怒鳴られつつ、再び弓を構えた。ライコウ様は満足そうに頷かれている。でもその前に口にされた言葉は、とても親し気な口調だった。それこそ、それこそまるで家族に対して言っているかのように。
「……まさかな」
ふと思い浮かんだことがあった。けれどそれを否定しながら、俺は訓練に集中していく。
ライコウ様が親父なわけがない。希望がこの世界に来たからと言って、親父までもがこの世界に来るわけがなかった。それにライコウ様は明らかに親父よりも若い。
さっきのはただの聞き間違いだろう。それでもわずかにだけど生じた可能性が頭をよぎる。よぎりつつも、どうにかその疑問を頭の隅においやりながら、俺はどうにか残りの一時間を集中し続けられたんだ。