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Act5-6 鬼王マモン

 恒例の土曜日ですが、本日は諸事情につき一話更新とさせていただきます。

 来週には二話更新に戻したいですね←しみじみ


「到着ですよ~」


 ゴンさんの口調が元に戻った。


「ラース」から約二時間ほどのフライトでレアとの待ち合わせ場所である「鬼竜の谷」にたどり着いたようだ。


「鬼竜の谷」はいかつい名前に反して、ずいぶんときれいな場所だった。


「獅子の王国」との国境とは違い、木々が生い茂っている。谷の名の通り、大きな裂け目があり、その裂け目は地平線の彼方まで続いている。


 裂け目はかなり深く、底が一切見えない。ただ川が流れているのか、水の音がしていた。かなり深い谷の底から聞こえるということは、相当な激流かな?


 でも、そんな激流を踏まえても「鬼竜の谷」はきれいな場所だった。


 そこそこの高さの木々があり、その木々の間を小鳥たちが舞っている。小鳥たちのさえずりは荒んだ心には心地よかった。


 谷までの地面には草花が生い茂っていて、いい匂いがしていた。キンモクセイのような甘い香り。そんな香りに谷全体が包まれているかのようで、やはり心地よかった。


 なによりも木々以外には一切の遮蔽物がないからか、地平線の彼方に大きな山が見えていた。天高くそびえる。よく使われる動詞ではあるけれど、本当に雄大な光景を見るとなにも言えなくなる。余計な言葉なんていらなくなってしまう。それがありありとわかった。


 普段であればシリウスもはしゃぐんだけど、今回に限っては、なにも言わなかった。ここに来るまでの間も、「ラース」を出てからの間シリウスの声を聞いていない。


 いや、この一ヶ月半シリウスの元気な声を、明るくかわいらしい声を俺は聞いてさえいない。


 シリウスとはそれだけ疎遠になっていた。


 みんな親子なんだからと言うけれど、俺とシリウスは本当の親子じゃない。この子の両親を殺して成り代わっただけ。わかっていたことだ。わかりきっていたことだけど、そのわかりきっていたことがひどく胸を痛ませる。


 どうしたらいいのか。どうすればいいのか。そんなことばかりを考えるけれど、答えはまだ出そうにない。


「カレンちゃんさん、レア様がおられますよぉ~」


 ゴンさんの声に顔を上げる。谷と谷の間に架かる橋のふもとにレアがひとり「椅子」に腰かけていた。

 

 その姿はとても優雅だ。優雅なのだけど、その周囲にうめき声を上げる野盗っぽい人たちが折り重なっているのは気にしない方がいいんだろうね。


 まぁ、こんな人気のない場所にレアみたいな一見お上品で、スタイル抜群の美人が立っていたら、狙われるわな。


 けれど、不運なことに野盗さん方が狙った美人さんは「魔大陸」の支配者のおひとりなんですよね。


 誰が野盗さんの頭目なのかは一目でわかる。折り重なっている野盗さんの一番上にいてかつ、一番ぼこぼこにされている人だろうね。


 ……どう考えてもストレス発散のための標的にされたとしか思えません。もしくはレアの怒りを買ったとかかな?


 たとえばレアの胸に触ったとか。


 ……うん、なんでだろうね? 無性に腹立つわ。


 俺も一発殴っていいかな?


「……レア様にぼこぼこにされたうえで、カレンちゃんさんにも殴られたらあの人死にますよぉ~?」


 ゴンさんが呆れ顔で釘を指してくる。それを言われるとなにも言えなくなってしまう。


 実際、一撃で殺せる自信があるもの。うん、ここは大人の対応をですね。


「わぅ!」


 なんだかシリウスの声が聞こえたような? 恐る恐ると振り返るとシリウスがいなかった。


 代わりにドスンという鈍い音とうめき声が。下を見やると──。


「レアままのおむねにはさわっちゃダメなの! 私のだもん!」


 そう言ってレアの胸に抱きついたシリウスがいました。


 レアはひさしぶりのシリウスの愛らしさが堪らないのか、無言でシリウスを抱き締めていた。


「シリウスちゃん、かわいい」


 ぽっと顔を赤くしながらレアは幸せそうだ。


 相当にストレスが溜まっていたみたいだけど、シリウスのおかげでそのストレスも解消できたみたいだ。


 シリウスはもしかしてそれを察したのかな? 聡いあの子のことだから、十分にありえそうな──。


「わぅわぅ。レアままのおむねなの」


 シリウスは明らかに幸せそうな声で言っていた。……うん、俺の勘違いですね。あれはただ単にレアの胸を知らない誰かに汚されたと思い込んだだけみたいだ。実際にそうとは限らないのだけど、シリウスの中ではレアままのおむねを汚されたというのが確定事項なんだろうね。哀れ、野盗さん。


「そうね。シリウスちゃんの大好きなレアままのおむねだよ。この下衆どもに触られちゃったけど」


 ……うん、極刑かな。誰の女に手を出したかわかっているのか、このケダモノどもめ!


 俺の怒りの視線が注がれているのがわかったのか、野盗どもが体をびくりと震わせた。しかしその程度で俺の怒りが治まるとは思うなよ? 全員もいでやる。第三の性別になるがいいさ。


「……カレンちゃんさん、怒っていますねぇ~。「旦那さま」だけはありますね」


 しみじみとゴンさんがなにかを言っているがどうでもいい。いま大事なのはレアの胸を汚したケダモノどもを去勢することであって──。


「……怒るのは仕方がないとは思うが、許してやってくれ」


 いきなり聞き覚えのない声が聞こえてきた。それも後ろからだ。振り返ると、そこには見覚えのある蛮族系な服装をした背の高い男の人が座っていた。


「おひさしぶりですぅ~、グリード様」


「ああ、久しいな、ゴン。それとグリードではなく、マモンでいい」


「ふふふ~、わかりましたよぉ、グリード様」


「……相変わらず意地悪な奴だな」


 背の高い男性──鬼王さんは苦笑いしている。ゴンさんとのやりとりは一見、鬼王さんに対する不敬と取られてもおかしくないことだったのに、鬼王さんはそのことにはあまり気にしていないようだ。ゴンさんが言っていた優しいというのはこういうことなのかな。……意味合いがだいぶ違う気もするけれど。


「あと、カレンさんだったな? 兄者の城では挨拶をしなくてすまなかった」


「兄者?」


「兄者は兄者だが?」


 鬼王さんとの間でいまいち会話が成立していない。兄者の城。まぁ、どう考えてもひとりだけなんですけどね。


「ラースさんのことで?」


「ああ」


 鬼王さんは嬉しそうに笑った。寡黙ではあるけれど、表情がないわけじゃないみたいだ。


「いろいろと言うことはあるが、まずは」


 咳ばらいをして、鬼王さんは言った。


「ようこそ、「鬼の王国」へ」


 鬼王さんは穏やかに笑っていた。その笑顔はどことなく弘明兄ちゃんの笑顔と似ている気がした。

 明日は十六時に更新したいです。

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