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Act5-5 いざ出発

 それから一週間ほどで、レアからの連絡があった。


 だいたい片付いたので、そろそろ戻るという話だった。レアは疲れきった顔をしていたよ。


「当分書類仕事はしたくないです」


 光のない瞳でレアは言っていた。どれくらいの仕事をしたのかと気にはなったけれど、あえて尋ねることはしなかった。


 代わりに慰労も含めて「鬼の王国」に俺とシリウスの三人で向かうことになったと伝えると──。


「行きます!」


 マジな顔で叫んでくれました。ちょっぴり怖かったのは秘密です。


「ふふふ、既成事実を作りますよ」


 疲れていたからなのかな? 普段よりも煩悩塗れだったね。突っ込むのも面倒なので、あえてなにも言わずに好きにさせておくことにした。……その際のレアが口走った言葉は、気にしないでおいた。同じことを何度も言うのは面倒ですから。


 とにかくレアには現地で合流する旨を伝えたので、問題なく「鬼の王国」入りは進んだ。


 アルトリアに関しては、どうにか納得してもらった。


 アルトリアは最後までごねていたので、キスで黙らせた。……自分でもどうかと思ったけれど、それで黙ってくれたのだからありがたいものだよ。


 ミーリンさんたちには留守中のことを頼んでおいたので問題はない。


「獅子の王国」に行くときとは違い、不満はなかったようだった。


 むしろ、行ってくださいと言われてしまったもの。相当に気を使わせてしまったみたいだった。


 ラースさんと勇ちゃんたちには、マモンさんによろしくと言われていた。


「マモンには住居の世話をしてやってくれと頼んである。衣食に関してはどうとでもなる。住居だけは慣れていなければ建てられんからな」


「建てる?」


「ああ。「鬼の王国」は遊牧の民だ。広大な草原地帯を季節によって移動して過ごしている。そのため、住居はアジュールと呼ばれる組立式でな、慣れていなければ建てられん」


「宿屋とかは?」


「ない」


「一軒もですか?」


「うむ。アジュールがあるから、宿屋などしても儲からんからな」


「……旅人さんとかは?」


「野宿か、その土地の諸侯ないしは、集落の長の屋敷に泊まらせてもらうかだな」


「……集落がなければ?」


「それは野宿だな。まだ少し肌寒い季節だが、なぁに、吹雪くことはもうない時期だからな。吹雪く季節に野宿をすると間違いなく死ぬが、いまは死なないから安心するといい。それにいまの時期であれば、星空はなかなかのものだから、一度は野宿をしてみるといい」


「……食事は」


「基本的に自前で狩って作る」


「狩れるような動物が?」


「いるぞ? バンマーというのが。大柄な体をして脚が速くて、なかなか捕まえることができないが、その肉はかなり美味い。ウープ派とバンマー派で軽い対立が起こるくらいには人気のある魔物だな」


「……魔物」


「魔物と言ってもみずから襲い掛かってくることはない。敵意を見せない限りは近寄っても逃げることはないからな。仕留める際には、できるかぎり離れた位置から狙撃するといい。できるだけ急所を狙ってだな、こう、ばしゅんと」


 ラースさんは喜々として「鬼の王国」での過ごし方を教えてくれた。あまり聞きたくない内容ではあったし、耳を疑う話もあったけれど、総合的に踏まえると、「鬼の王国」での生活はかなりハードモードになりそうだった。


 でもそのくらいハードモードの方が、いろいろと考えなくてすむかもしれない。いろいろと考えるのはもう当分いい。だからなにも考えられないくらいに大変な日々が送れるのであれば、「鬼の王国」に行くのはなんの問題もないことだった。


「ああ、そうそう。「鬼の王国」と言えば、狼の魔物が棲んでいるから気を付けてね?」


 最後に勇ちゃんが思い出したかのように言ってくれた。


「狼?」


「シリウスちゃんみたく人化の術が使える存在はそうそういないけれど、いないわけじゃないよ。そういう魔物は森の奥の方で縄張りを敷いているから、うかつに入り込んでもきちんと事情を話せば、殺されることはないはずだから安心してね」


 安心してね、とは勇ちゃんは言っていたけれど、いまいち安心しきれない情報だった。でも狼の魔物か。最悪シリウスをその魔物たちに一時的に任せるというのも手なのかもしれない。シリウスが嫌いになったというわけじゃない。でももしシリウスがその魔物たちと一緒に生活をしたいというのであれば、俺はきっと──。


「……あまり深く考え込まないほうがいい。そなたの性分であることはわかっているが、大切な娘なのだろう? なら手放すことなく、ちゃんと育てることを考えておくべきだ。たとえどんなに嫌われていたとしても、子にとって親は親なのだからな」


 耳に痛い言葉をラースさんには言われてしまった。でもさ、それは実の親という意味なんだ。俺みたいに血のつながりもない親に、本当の両親を殺して父親面をしているような俺に言えることじゃないんだ。それでも否定はできなかった。ただ頷くことしか俺にはできなかった。


 そうして時間はあっという間に過ぎていった。


 レアからの連絡が入ってからさらに一週間後、「獅子の王国」から戻って来てから一か月半が経った頃、俺はシリウスと一緒に「ラース」を後にした。


 いつものようにゴンさんの背中に乗って、「ラース」から飛び立った。いつもと違うのは、希望たちを置いて、俺とシリウスだけってこと。「鬼の王国」との国境でレアと待ち合わせをしている。国境と言ってもかなり広範囲だから、具体的な場所は一応決めてある。


「「鬼竜の谷」って場所までお願いするね」


「はいはい、了解ですよぉ~」


 いつものように間延びした口調でゴンさんは頷いてくれた。レアが言うには「竜の王国」と「鬼の王国」との国境に位置する谷ってことだった。国境で待ち合わせというよりかは具体的だけど、谷は谷で広範囲な気もしたけれど、レアが言うからには目印にはちょうどいい場所なんだと思う。


「今回はシリウスくんとの二人旅ですねぇ~。親子でのんびりとしてきてくださいねぇ~」


 ふふふと笑うゴンさん。そんなゴンさんの言葉に俺は頷くけれど、シリウスはなにも言わない。広いゴンさんの背中の上でシリウスは俺から離れてひとり体育座りをしている。なにか言うべきなんだろうけれど、いまいち言うべき言葉が思いつかなかった。


「……まぁ、いろいろとありましたからねぇ~。でも親子なんですから、すぐに元通りですよぉ~」


 ゴンさんは一瞬だけ物悲しそうな顔をしていたけれど、すぐに笑ってくれた。その言葉とその笑顔に少しだけ救われた気分だった。


「うん、楽しんでくるね」


「はいぃ~、そうしてくださいねぇ~。グリード様は優しいお方ですから、いろいろと気遣ってくださるかとぉ~」


「グリード?」


「あー、鬼王さまのことですよ。鬼王さまは本来鬼王グリードを代々襲名されるんですが、当代の鬼王さまはご本名を名乗っておられますのでぇ~」


 なるほど。みんなマモンと言っていたから、鬼王はマモンを襲名するのかと思っていたけれど、そっちは本名なのか。


 プライドさんはベリアル。レアはレヴィアが本名。ほかの「七王」さんたちの本名は知らないけど、鬼王さんが本名を名乗っているのであれば、ほかにも本名を名乗っていそうな「七王」さんたちもいそうだ。たとえば──。


「ラースさんも、本名なの?」


「ご主人は違いますねぇ~。ご主人の本名はシャータです」


「ふぅん」


 なんというかかわいらしい響きだった。本人の前で言ったら怒られそうだから、あえて言わないけれど。


 しかしラースさんも本名を名乗ってはいなかったんだな。ちょっと意外だ。


 なんというかあの人はありのままの自分を出しているというイメージだったから、本名を名乗っていないというのは思ってもいなかった。


「あぁ、私がご主人の本名を教えたというのは内緒にしてくださいねぇ~、怒られちゃいますからぁ~」


「うん、わかった」


 本名を教えないというのはなにかしらの意味があるんだと思う。俺みたく本名が好きじゃないとかね。俺の場合は当てはめられた漢字だけど、それはまぁいいかな。


 ラースさんにもラースさんなりの理由があるんだ。それを詮索するのはあまり褒められたことじゃないだろうから、気にしないでおこうか。


「さぁて、レアさまをお待たせするのも悪いですから、ここは少し飛ばしていきますよ~?」


 ゴンさんがにこやかに笑う。その言葉に頷いてから慌ててゴンさんにしがみつく。次の瞬間、ゴンさんの口調が大きく変わり、高速で飛び始めた。


「行くぜ行くぜ行くぜ、ぶっこむぜぇぇぇーっ!」


 久しぶりのオラオラ口調になぜかしんみりとしつつ、俺とシリウスはゴンさんの背中にしがみついて「鬼の王国」の国境へと向かって行ったんだ。

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