Act0-46 初めての…… その二
PVが3600突破しました。
いつもありがとうございます。
今回は、この外道! と誰もが言うでしょうね。
そんな内容になりました。
事の起こりは、数日前だった。
「薬草採取?」
「うん。カレンちゃんに依頼したいの」
「勇者と八人の仲間たち」をいつも通り、話し終えた後、モーレから依頼を申し込まれた。
依頼は基本的に、依頼人が冒険者ギルドに依頼を委託し、委託された依頼を冒険者が受注するというのが一般的ではあるが、冒険者に直接依頼を申し込まれることもある。これを個人依頼とギルドでは呼んでいる。個人依頼は、あくまでも依頼人と冒険者が個人的に親しいという場合においてだけ、発生する特殊な依頼だった。
個人依頼でも、一旦冒険者ギルドを経由することにはなる。じゃないと貢献度が発生しないし、依頼人側が意図的に、依頼内容を隠ぺいしてしまう可能性があるからだ。
薬草採取と銘打って、実態は薬草の群生地付近に住み着いてしまった、危険度の高い魔物を狩猟させられるとか。通常であれば、こんな依頼は、委託した段階で撥ねられる。
薬草採取自体は、基本的にはどのランクにもあるもので、ある意味では、冒険者にとってはポピュラーな依頼と言ってもいい。
しかし採取する薬草の希少価値に加え、その薬草の群生地付近にどんな魔物が住み着いているのか。そのふたつによって、ランクが上下する。店売りしているレベルの、森で探せば、すぐに見つかるようなものから、おとぎ話で聞く、死んだ人間すら蘇生可能な、幻の霊草までと多種多様だ。そのため、薬草採取自体は、ポピュラーな依頼ではあるが、きちんと依頼内容を精査したうえで、ギルドは依頼を貼り出すんだ。Gランク冒険者向けのクエストと銘打って、実際はSランク冒険者でないと太刀打ちできない魔物が跋扈していたなんてことは、もってのほかだからね。
だが、個人依頼の場合は、その特殊性ゆえに、ギルドでの精査を昔はしていなかったそうだ。だが、百年ほど前にとんでもない悪質な依頼があった。その依頼も薬草採取だったそうだけど、実態は群生地付近に住み着いてしまったワイバーンの群れの狩猟だった。ワイバーンは、Bランクの魔物だが、群れの場合は危険度があがり、Aランク相当になる。当然その依頼もAランクの依頼になるはずだった。
だが、その依頼は個人依頼として、一組のクランが受注することになった。そのクランはようやく一人前になったDランク冒険者たちで、バランスもよかったので、戦力的にはCランク相当だったが、Aランクのワイバーンの群れに敵うわけもなく、クランは壊滅してしまった。だが冒険者たちが嬲られている間に、依頼人は薬草を採取し、ひとりで逃げてしまったそうだ。
当然、依頼人はそのクランたちが依頼を失敗した、とギルドに報告した。それどころか、そのクランが失敗したのは、自身の隠ぺいのせいではなく、受注したクランがお粗末な行動をしてしまい、危険な魔物を呼び寄せてしまったからだと、嘘の供述までし、冒険者ギルドから慰謝料を請求したらしい。
つまりその依頼人は、高い依頼料を払わずに、高価な薬草を冒険者の命と引き換えにただで手に入れたうえで、冒険者の勝手なふるまいのせいで、依頼が失敗したと嘘の供述をし、ギルドから多額の慰謝料をふんだくるという悪質な手段を用いるために、そのクランに近づいたというわけだった。
が、そういう悪人は、最後の最後で運に見放されてしまうのは、どこの世界でも共通する。壊滅したはずのクランのメンバーのうちのひとりが、ボロボロの姿で、ギルドに生還した。依頼人が逃げたあと、運よく、Aランク相当のクランが通りかかり、ワイバーンの群れを、壊滅したクランの代りに掃討してくれたからだった。だがそれでも助かったのは、ひとりだけで、ほかのメンバーはワイバーンの群れの餌になってしまった。
事情を聴いたAランクのクランは、最後のひとりをギルドまで護衛し、依頼人の悪質さを報告した。それは依頼人がギルドで、虚偽の報告をする数時間ほど前のことだった。なんでも依頼人は、死人に口なしと言わんばかりに、薬草を売りに出したあとで、冒険者ギルドに虚偽の報告をしたらしい。
真実を知っているのは、自分だけだということで、安心しきっていたからこそのお粗末さだった。俺に言わせてみれば、ただのアホだとは思うけれど、そんなアホな依頼人のせいで、未来ある若者のクランが壊滅してしまった。最後のひとりは優秀な剣士だったそうだが、冒険者として活動することはできないほどの傷を、利き腕に深い傷を負ってしまったそうだ。
依頼内容の隠ぺいに、虚偽の報告をしたうえで、死人を出してしまったことを踏まえ、その依頼人は裁判にかけられ、死罪になった。生きたまま、ワイバーンの巣に投げ込まれるという、自身が行った非道と同じ報いを受ける形でだ。
そんな事件があったため、いまでは冒険者ギルドも、個人依頼でも調査をすることにしたそうだ。まぁ、通常の依頼のように精査とまでは言わないが、数日かけて、依頼人側の隠ぺいがないように、調査したうえで、申し込まれた冒険者に改めて受注してもらうというシステムになったそうだ。
それでも当時のような、悪質な依頼は年に数件はあるそうだ。もっとも調査するようになったいまでは、そんな悪質な依頼は、調査終了と同時にはねられ、依頼人は逮捕されてしまうのだけど、それでも悪質な依頼が後を絶たない。それだけ人の欲望というものは、いまも昔も変わっていないという証拠なのだろう。
「個人依頼になるから、数日後になるけれど」
「うん、構わないよ。本当なら私ひとりでも平気なんだけど、念のために頼んでいるだけだから」
モーレが言うには、その薬草は一般的に出回っていて、小人亭でも常備しているものなのだけど、訳ありで欲しいのだけど、いつもひいきにしている薬屋が在庫切れになっているそうだ。そうなると、あとは自然に群生しているものを採取するしかなかった。
群生地は、魔物が出る森の中にある。もっとも魔物が出ると言っても、せいぜいがGランク、上でもFランク程度しか出ない、森の入り口付近にあるらしく、モーレだけではなく、「エンヴィー」のほかの住人も頻繁に採取しているそうだった。
通常の依頼でも、Fランク相当の依頼で、依頼料も相応になるらしいが、個人依頼であれば、双方の合意があれば、通常よりも値段が上下することが多い。要は値切られるか、上乗せしてもらうかの差ってことだ。そしてモーレの場合は、値切るために個人依頼を俺に申し込んだということだった。
なんでも常備していた薬草を、モーレのミスで燃やしてしまったそうだ。燃やしたと言っても、数回分程度だし、宿屋に常備してある薬草なんて、たかが知れている。せいぜいはかすり傷を治す程度のものでしかない。地球で言えば、絆創膏みたいなものだろう。
一応在庫切れではないが、常に常備してある数よりも少ないので、その補充のための依頼。しかも依頼料を払うのは、ミスをしたモーレ自身。もちろん、おかみさんや旦那さんは、立て替えてくれないと来れば、どうにか安く済ませたいと思うのは、お小遣いをもらう子供であれば、共通した発想だろう。本来なら、護衛なんて雇わなくても問題はないのだろうが、念には念を、というのは商売人の心得みたいなものだとモーレは語っていた。つまりは必要経費ってことだ。
そしてその必要経費をできるだけ安く抑えるのにふさわしいのは、俺しかいないとモーレは考えたそうだった。まぁ普通の冒険者でも、Fランクの依頼だからと言って、子供の小遣いレベルの依頼料で、依頼を受けるなんていうのはさすがにありえない。
なにせモーレが指定した依頼料は、銅貨五枚だった。Gランクでも、最低銅貨十枚からなのに、その半額となれば、誰も請け負ってはくれないし、そもそも正式な依頼として委託することさえもできない。当然俺もその値段では受ける気にはなれなかったのだけど──。
「お願い! 受けてくれたら、湯沸かしの仕事の代金を、一回銅貨四枚にしてもらえるよう、母さんに頼み込むから!」
銅貨三枚を、銅貨四枚に。たかが銅貨一枚。されど銅貨一枚とも言う。銅貨一枚ではなく、仕事の報酬が三割上昇する。Fランクの仕事だが、値段的にはGランク以下の、かなり簡単な仕事でだ。加えて魔物が出たら、その素材は俺持ちってことになれば、十分補てんは利く。そのうえ湯沸かしの仕事の代金も増える。
たしかに依頼料だけを見れば、完全に損でしかない。しかしその他のことにまで目を向ければ、十分魅力的な仕事と言えるだろう。しかも森の入り口付近となれば、時間もそこまではかからない。総合的に見て、俺に損はなかった。むしろ長い目で見れば、得でしかなかった。受けても問題はなかった。だが──。
「受けてもいいよ。ただし」
「ただし?」
「湯沸かしの仕事、銅貨九枚ね」
ここはあえてふっかけてみることにした。




