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Act4-ex-2 真相

 本日七話目です。

 お父さまの研究成果を木偶に使った結果、木偶は醜悪な化け物にと変化した。


 カオスグール。神代、母神スカイストが地上に降り立っていた時代に滅んだとされる最悪の化け物。


 グールと違うのは、喰らえば喰らうほど強くなるという性質があるという点と、怒りに狂えば体を膨張させて巨大化するという二点だ。


 その二点が、母神スカイストがカオスグールを滅ぼしたという要因だった。


 なぜそんな化け物が生まれたのかはわからない。


 お父さまが言うには、もともとの性質がグール化したことで、悪性に変化したのではないかということだった。


例えば戦えば戦うほど強くなる存在が、グールに変化したことでその性質が悪性化したなどだ。


 あくまでも推論にしかすぎないが、可能性はたしかにあった。


 もっともすべては神代の話だ。遠い昔に起こったことだから、可能性を論じたところで答えは出ない。


 そう、カオスグールの始まりがなんであるのかなんてどうでもいいことだ。


 いま大事なのはカオスグールがこの現代に甦ったということなのだから。


「ふむ。さすがは我が君です。神代の化け物を甦らせるとは」


 じいやが感嘆としていた。じいやがそうなるのも無理はない。それだけの存在が目の前にはいる。


 それもすべてはお父さまの研究あってこそ。本当にお父さまは凄い方だ。そんなお父さまを裏切るなど、「七王」や「六神獣」はつくづく愚かだと言える。


「ええ、あの木偶をここまで強力にできるなんて。さすがはお父さまね」


 お父さまはやはり偉大だ。そんなお父さまの娘であることが私にはなによりも誇らしい。


「ふふふ、このまま「獅子の王国」を亡ぼしてくれればずいぶんと楽になるわね」


「ええ。我が祖国はまだ表だった行動をするべきではありませんからな」


「七王」たちも「六神獣」どももまだルシフェニアの関与を疑っている段階のはずだ。


 ルシフェニアが事を為しているとは考えてもいないはず。


「その点、姉さまが私のことを洩らしたのは痛かったわね」


 その言葉にじいやの表情が沈痛そうなものに変わった。


「アルトリア姫を籠絡してしまうほどに、かの少女に魅力があるということなのでしょうな。わからなくもないのですが、まさかアルトリア姫を」


「……じいや」


「申し訳ありません。ですぎたことを」


「よい。私も少し過剰に反応した。すまぬ」


 あの女が姉さまを籠絡した。どう考えても現状を招いた理由はそれだ。


 姉さまがどこまであの女に事情を話しているのか。それによってはルシフェニアの立ち位置は相当に危うくなる。


 まだ表だった行動をするべきではない。じいやの言うとおりだ。まだルシフェニアは準備ができていない。


 いや、最終準備がすんでいない。それが終わるまでルシフェニアの存在を嗅ぎ付けられるわけにはいかなかった。


「まぁ、いいわ。姉さまがなにを言おうとあの女ごとこの国を亡ぼせばいいだけのことだもの」


 姉さまがなにを言おうと関係はない。この国をあの女ごと亡ぼしてしまえば、それで帳消しだから。


 問題があるとすれば──。


「獅子王とガルーダがどれだけの力があるかが問題ね」


 そう、なによりも問題なのは、獅子王とガルーダの力だ。神獣であるガルーダは当然としても、獅子王にどれだけの力があるかどうかがネックになる。


 できればカオスグールに殺される程度であればいいのだけど。


 そんな私の期待はあっさりと崩れた。


 魔竜バアルを蛇王が一蹴したように、カオスグールは獅子王の相手にはならなかった。


 カオスグールは白い鎧を身につけた獅子王の手によって滅ぼされてしまった。


「……やはり、「七王」たちは化け物揃いか」


「裏切り者とはいえ、さすがは「七王」というところですか」


 じいやも苦々しげに表情を歪ませていた。これ以上の観察は意味がない。引き上げるべきだと思ったそのとき。


「まだダメだよ、アイリス」


「姉さま?」


 私とじいやの背後に笑顔の姉さまが立っておられた。いつの間にいたんだろうか?


「アルトリア姫、なぜこちらに?」


 じいやは怪訝そうな顔をしている。そんなじいやに姉さまは言った。 笑いながら、そう不気味に笑いながら、姉さまは言った。


「駄犬の処理だよ」


 そう言うと姉さまは空間から黄金の弓を取り出した。姉さまの愛用している弓だった。姉さまは剣の腕だけではなく、弓の腕にも優れている方だった。だけどなぜいま弓を取り出したのだろうか? 弓を取り出す必要なんてないはずなのに。


「姉さま、なにを?」


「言ったよ? 駄犬の処理だってね」


 姉さまは楽しそうに笑うと、弓を引き絞る。金色の光の矢が引き絞られた弓に番い、そして──。


「死ね、雌犬」


 金色の矢が放たれた。放たれると同時に衝撃波が走る。姉さまが本気で弓を放った証だった。


 しかしなんで弓を放つ必要がある? 今回はここが引き際だというのに。


 なぜ、いやなにを狙って放ったのだろうか? 場合によっては面倒事になる可能性が高い。


「ね、姉さま!?」


 矢が放たれた方を見やると、そこにはガルーダとカルディアがいる。カルディアだけが気づいていた。


 気づいたからこそ、カルディアは行動し、放たれた矢をみずから受け止めるべく行動を起こした。ガルーダに体をぶつけて押し倒し、ガルーダの代りにカルディアの胸を金色の矢が穿った。


「ふ、ふはは、あははは!」


「姉さま、なぜ?」


「やられっぱなしはダメでしょう? だから一矢報いなきゃいけないでしょう? だから殺したの」


 姉さまは、笑っていた。楽しそうに笑っていた。その姿は狂気を宿していた。


「「旦那さま」に色目を使うからいけないの。「旦那さま」の正妻は私なのだから! だからおまえは死んで当然なんだ、雌犬!」


 あはははと姉さまは高笑いしていた。それらしいことを言ってはいるけれど、要は痴情のもつれによる犯行ということだ。


「……同情するわ、カレン・ズッキー」


 おまえは手を出す相手を間違えた。あの女を憐れみながら私は、高笑いを続ける姉さまを見つめた。狂ったように笑い続ける姉さまを見つめることしかできなかった。


「さぁ、行きましょうか。送ってあげる」


 姉さまが空間をなぞる。空間が割れる。その先には緑に覆われた大地が見えた。


「アリアの代りに頑張ってね、アイリス。じいやも同じところでいいかしら?」


 にこにこと笑う姉さまに私とじいやは頷くしかなった。


「ありがとうございます、姉さま」


「問題ございませぬ。「ラース」には我が力を使えばいいだけですので」


「そう、じゃあ、途中までね。私もすぐに戻る予定だから、途中までしか送ってあげられないけれど、ふたりとも頑張ってね」


 姉さまは笑っている。以前姉さまが人らしくなったとは思った。たしかによく笑うようになった。だけど同時に狂気が溢れるようになった。逆らえば殺される。姉さまが可愛がってくれることは知っている。でもそれは駒としてだ。それ以上でもそれ以下でもない。


「さぁ、行きましょう」


 姉さまが空間に足を踏み入れる。その後を私とじいやは続いた。移動し、空間を閉めるのとほぼ同時に、すさまじい咆哮がふたつ聞こえてきたのは言うまでもなかった。


「憶えていろ、愚か者どもが」


 また声が聞こえた。同時に背筋を震わせる強い殺意を感じた。振り返るもやはり誰もいない。不毛の大地である「獅子の王国」の光景は見えなかった。


「どうかした? アイリス」


「……なんでもありません」


 それだけ言うので私は精いっぱいだった。そうと不思議そうに首を傾げられてから、姉さまは「獅子の王国」へと戻られていった。姉さまを見送りながら、少し前に感じた殺意について考えていた。


「……監視されていた?」


 いったいいつからだろう? いや、そもそも誰に? なぜ私に気付いた? いや気付いてなぜ泳がした? わからないことが多い。多いがわかることはひとつだけあった。


「これからはもっと慎重に行動するべきね」


 やはり「七王」も「六神獣」も侮るべきではない。そんな教訓を胸に抱きながら、私は「蠅の王国」での活動を始めることにした。

 続きは十八時になります。

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