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Act0-43 うっかりカレンと魔法

PVが3100突破しました。

いつもありがとうございます!

「あ、あははは。俺ってどうも常識がなくてさ。やっぱり辺境育ちが影響しているのかなぁ」


「かもしれないねぇ。だって私、「しんでれら」なんておとぎ話、初めて聞いたもの。カレンちゃんの村では、有名なお話なんでしょう?」


「あ、うん。みんな知っているよ」


「ふぅん。でも、スカイストさまのことは知らないなんて、不思議だなぁ」


 モーレは探るような目をして俺を見つめる。いまにもぼろが出てしまいそうだ。でも、下手にぼろを出して、この宿に迷惑をかけるわけにはいかない。


 ちなみに、シンデレラをモーレが知っているのは、以前モーレに、好きなおとぎ話を聞かれた際に、とっさに口にしたのがシンデレラだった。本当は別のものがあるけれど、あまり一般的なものではなかったから、あえて省いた。でも、それがかえってよくなかった。


「しんでれら? なに、それ?」


 その言葉は、俺の人生において、一番の衝撃だった。シンデレラを知らない十歳児なんていたのか、と。でもすぐに気づいた。ここ地球じゃなかった、と。地球であれば、たいていの人であれば、シンデレラを理解してもらえただろうけれど、この世界ではそうはいかない。なにせシンデレラ自体、誰も知らない世界なのだから。そりゃ言ったところで、通じないのも無理はなかった。それにシンデレラは内容を知っているけれど、ちゃんと暗記しているわけじゃない。ところどころで抜けがあった。だから話してほしい、と言われても、話すことができなかった。でも、一応の代用はしているけれども。


「それよりも、カレンちゃん。また後でお話しを聞かせてくれない?」


「ああ、「いつも」のね。いいよ。お仕事が終わったら、部屋に来てくれれば」


「ありがとう。じゃあ、私そろそろ戻るね」


「あ、うん。またね」


 モーレは嬉しそうに飛び跳ねたあと、そそくさと食堂に戻って行った。立ち話のはずが、すっかりと長くなってしまっていたことに気付いたみたいだ。俺も宿の入り口前で話し込みすぎていた。食堂に行く前に、一度部屋に戻ろう。


「あ。「湯沸かし」の仕事、頼むのを忘れていた」


 逃してしまった常駐依頼の補てんをしたかったのに、すっかりと忘れていた。ちょうどいまくらいから、他の宿泊客たちが戻ってくる。つまりお湯の注文が入るのは、これからがピークだというのに、すっかりと忘れていた。


「しまったなぁ」


 受付には、モーレのお姉さんはいない。普通なら受付には誰か立っていないとまずいと思うのだけど、見たところ今日は食堂が大盛況のようだ。受付担当のお姉さんまで駆り出されて、対応しているようだ。


「……こりゃあ、補てんはできそうにないかなぁ」


 どう考えても、「湯沸かし」の仕事をお願いする余裕はなさそうだ。それどころか、これだと部屋に帰るのも難しいような。


「どうしたものかな?」


 俺はしばらくの間、呆然と受付の前に立ち尽くしていた。


 その後、俺の様子に気付いたモーレのお姉さんが、部屋の鍵を渡してくれて、ようやく部屋に戻れた。その際、「湯沸かし」の仕事を切り出したが、いまはそれどころじゃないと言われてしまった。どうやら団体さんが、宴会をしているようで、いまはお湯の注文は受け付けていないようだった。


「宴会が終わったら、お願いすると思うから、それまでは待っていて。ごめんね」


 モーレのお姉さんは、申し訳なさそうな顔をしていた。謝られることではなかったし、時間がないわけでもなかったので、気にしないでいいと言って、俺は部屋に戻った。


 部屋に戻ってもやることはなかったけれど、たまにはのんびりするのも悪くはなかった。まぁ、のんびりとしつつも、魔法の練習をしていた。練習といっても、部屋の中でできるのは、せいぜい火と水、あと土以外の三属性の魔法の練習くらいしかできなかったけれど、こつこつと頑張っていれば、いつかは魔法を放てるようになるかもしれないのだから、やらない理由にはならない。まぁ、望み薄だとは思うけれど、それでもやって損するわけではないし、どうせ暇つぶしのようなものだった。


「表面上には覆えても、魔法にはならないなぁ」


 いつものように付与魔法の要領で、風を拳に纏わせる。けれどできるのは、そこまで。纏わせた風を、飛ばすことはどうやってもできなかった。


「レアさんや、クリスティナさんみたいにはいかないなぁ」


 特にエンヴィーさんが見せてくれた「炎蛇」のような、カッコいい魔法が使いたいのに、できるのは体の表面に纏わせるだけ。まぁ、纏わせた分だけで、攻撃力は上がるし、追加効果もあるから、いまのところは問題ない。


 けれどここから先、打撃だけでこの世界の魔物と戦っていけるかどうか。特にCランク以上の魔物を相手するとき、たとえばファンタシーにおける最強の生物ドラゴンを相手にする場合、魔法も使えないときっとお話にすらならないだろう。


 まぁ勇ちゃんは、剣の一撃でゴンさんの鱗を切り裂いたけど。あ、でも、ゴンさん曰く、あれはかさぶたがはがれた程度だっていう話だし、大したことはないのかな。でも、ファンタシー世界だと、ドラゴンの鱗ってかなり堅いはず。それこそ生半可な武器じゃ、刃こぼれどころか、あっさりと折れてしまうくらいには。もしかしたら、勇ちゃんの剣って、かなりの業物なのかな。ゲームで言う、ドラゴンキラー的な名剣なのかも。もしくは、勇ちゃん自身の素の力か。


「どちらにせよ、俺はまだまだ力不足かぁ」


 人前で見せられる実力という意味では、まだまだ未熟だった。チート能力である「天」の力を使えれば、それこそ一発だし、チート強化された身体能力をフルに用いれば、やはり同じだ。けれどいまのところは、どちらも使えない。せいぜいフル活用できるのは、動体視力くらいだった。動体視力であれば、まだごまかしが利くから、最大限利用させてもらっている。


「ん~。風の刃よ、飛べ」


 だが動体視力だけでは、いずれどうしようもなくなる。それまでには、魔法を使えるようになりたい。素質はあるのだから、きっと魔法を使えるようになる日も、いずれ訪れるはずだ。それがいつになるのかは、まったく不明だけど、諦めたらそこで試合終了だって、有名な監督さんも言っているし、ここは頑張るべきだ。そうして俺は何度めかになる、魔法の詠唱を、初歩の「風刃」を唱えた。


 が、やっぱりうんともすんとも言わずに、俺の掌の表面に纏わりつくだけだった。


「あーあ、やっぱり、ダメかぁ」


 背後にあったベッドに向かって倒れ込む。ぎしり、とスプリングが軋む音を聞きながら、俺は深いため息を吐いた。

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