Act4-71 母娘
本日は諸事情につき、二話更新ではなく、一話更新となります。
娘。レンさんはたしかにそう言っていた。
ララおばあさんは、「焔」にカルディアのお母さんのディアナさんがいると言っていた。でもそのディアナさんがレンさん?
たしかディアナさんはラスティ所長の妹さんにあたる。
でもレンさんの見た目は明らかにラスティ所長よりも年上だった。
それこそララおばあさんと同年代か少し年下くらいに見える。ラスティ所長の妹かつララおばあさんの娘のようには見えなかった。
「……なんですか、その顔は? その見た目じゃ母さまの娘は無理があるだろうって顔ですね?」
ぎろりと俺を睨んでくるレンさん。明らかに怒っていますよね。そして言われていることは否定できません。実際同じことを思っていますから。
「がははは、まぁ無理もないだろうさ、レン。いやディアナ。そろそろ解いたらどうだ?」
「……こんな入り口で変装を解けるわけがないじゃないですか」
「だがそうでもしないと嬢ちゃんは納得しないと思うぞ?」
「こんな種馬に納得してもらわなくても」
「その種馬に惚れているそうじゃないか、おまえさんの娘は」
レンさんが苦虫を潰したように顔をしかめている。どうやらいまのプライドさんのひと言はレンさんにとっては余計すぎる一言だったみたいだ。ぶっちゃけ怖い。
「まぁ、とにかくだ。さっさと変装を解けよ、ディアナ」
「……はぁ、陛下がそうおっしゃるのであれば」
やれやれとため息を吐いたレンさん。次の瞬間見覚えのある蒼い炎がレンさんを包み込んだ。カルディアと同じ「蒼炎」をレンさんが纏った。
そして「蒼炎」はレンさんの顔を焼いていく。
顔を焼いているけれど、その下からまた別の顏が現れていく。
その顔はララおばあさんともカルディアとも似ていた。ふたりの中間って感じだ。なによりもカルディアと同じきれいな銀髪が蒼い炎のなかで揺れ動いていた。
「……これでよろしいですか? 陛下」
「ああ、これでわかったか? 嬢ちゃん」
「ええ、納得しました」
地球で言う特殊メイクをレンさん、いやディアナさんはしていたわけか。そりゃあ気づかないって。だって見た目はララおばあさんとさほど変わらないくらいだったし。そんな人がまさかディアナさんだとは誰も思わないよ。
「正直あなたに納得されたところで、私は嬉しくもなんともないわけなんですけどね? カルディア以外に四人も嫁がいるような人になんてね」
ディアナさんはいわゆるジト目で俺を見ている。カルディア以外に四人も嫁がいることが気に食わないみたいだ。
ただ、うん。実際はカルディア以外に五人いるんですよね。そんなことを言ったら確実に怒られそうだからあえてなにも言いませんけど。
「わぅ? ぱぱ上のお嫁さんはカルディアままを入れると六人だよ?」
しーりーうーすーちゃーんっ!? なんで本当のことを言っちゃっていますかねぇっ!? そこは本当のことを言うべき状況じゃないよぉぉぉーっ!?
「……へぇ? またひとり増えたんですかぁ? どういう了見ですかねぇ? うちのかわいい娘だけじゃ足りないってかぁ? あーん!?」
ディアナさんはゆらゆらと揺れ動いていたと思っていたら、次の瞬間には襟首を掴んでくれていたでござる。
あかん、この人も元レディース系だわ。嫁がレディースの次は、義母がレディースとは。その次は祖母がレディースになるのか? これ以上嫁を増やすつもりはありませんけどね!?
「お、落ち着ていください、お義母さん」
「だーれーが、お義母さんだ、コラ!? おまえみたいな種馬にお義母さんなんて言われる筋合いはない!」
いかん。油を注いでしまったようだ。お義母さんって言ったのは明らかにまずかったね。そもそもなんでお義母さんって言ったんだよ、俺?
「で、ですから俺にはそういう機能はですね?」
「そういう言い訳はいいんだよ! うちの娘に手を出してないだろうなぁ!?」
「え、えっと」
なんて言えばいいんだろう? 手を出されましたと言えばいいのか。
まぁたしかに手を出しはしたけれど、逆に手を出されもしたわけであって。
かといってこの場でそんなことを言えば、アルトリアとかアルトリアとかアルトリアとかがブチ切れそうな──。
「……手を出したな?」
冷や汗が背筋を伝った。なぜに気付かれた? なんて言ったら下手をしたら殺されますよね? このお義母さん、明らかに雰囲気がヤバいですもん。
「な、なんのことで」
「言い訳するなと言ったよな? そーしーてぇー! そういうことを言う奴に限って手を出しているんだよなぁ!? どうなんだ!?」
ディアナさんが憤怒の表情で俺を見つめている。母は強しと言うけれど、こういう意味じゃないと思うんです。でもそんなことを言ってもディアナさんの怒りは収まりそうにないです。
「……えっとですね。まずはその、カルディア、さんにですね。組み伏されまして、そのまま食べられました。でその後にカルディアさんにしてほしいと頼まれまして」
「したと?」
「……その通りでございます」
頷きながら恐る恐るとアルトリアを見やると、目がヤバい。ぶつぶつと呪詛じみた言葉を口にしている。
よく見ればアルトリアだけではなく、レアの笑顔に影が差しているような。
うん、アルトリアだけじゃなかったね。レアもヤバいことになっています。俺やっちまったかな?
「よし、よくやった!」
ディアナさんが一転し笑顔になった。うん、意味がわからない。どういうことですかね?
「あん? 娘に婿ができたのだから喜ばないはずがないだろうに」
ディアナさんが「なにを言っているんだ、おまえ」と言うように不思議そうな顔をされております。
いや、言いたいことはわかるんだ。うん、言いたいことはね?
たださぁ、いままでの「うちの娘に手を出していたら承知しねえぞ」っていう態度だったのはどういうことなんでしょうか? カレンちゃん、マジわからん。
「あたりまえだろうが。かわいいカルディアに手を出されたら、腹が立つに決まっている」
「え? でもいま「よくやった」と」
「うちの娘を嫁にしておいて、手を出さないとか私に対する侮辱だろう?」
……うん。意味わからん。手を出したら腹が立ち、手を出さなかったら侮辱とか。素晴らしいくらいに横暴ですね。言ったところで意味ないでしょうけどね!?
「まぁ、これから先仲良くやろうや、婿殿」
「背中痛いです」
バシバシと力強く背中を叩いてくれるディアナさん。たぶん手を出したことに対する報復でしょうね。本当に獣人さんって考えがわからないよ。
「……わかっているだろうが、カルディアを泣かしたらただじゃすまさないからな?」
「承知しております、お義母さま」
ディアナさんが肩を組みながら笑っている。
笑っているのだけど、よく見るとこめかみに青筋が。……気づいたら敬礼していましたよ。
イエス、マムと言おうとさえしていたもの。
レディース系というよりも将軍系じゃないかな、この人は。
……うん、想像してみたけど、違和感が仕事をしてくれなかったとだけ言っておこうかな。
「……うちのお母さんと似ているかも」
ぼそりと希望が言った。……たしかに似ているかもしれない。希望のお母さんはじいちゃんの弟子のひとりであり、めちゃくちゃ強いんですよね、あの人。そのうえディアナさんみたく、ヤンチャな方でして。
よくあの人の遺伝子から希望みたいなお嬢様っぽい子が産まれたよなって思いますわ。むしろ、あれに育てられてよく希望はこうなったよなってつくづく思いますよ。
そもそもおじさんはあの人のどこに惹かれたんでしょうね? やはりギャップか? 野郎はみんなギャップに弱いのか?
「……ディアナ。その辺にしておけ」
「わかっております、獅子王陛下。ただ少々釘を指しておこうかと。あと早く孫の顔を見せろと催促を」
「わぅ? ぱぱ上の娘はもういるよ?」
しゅたとシリウスが手を挙げている。ディアナさんはシリウスをじっと見つめると、無言で近づくと──。
「シリウスちゃん、だったよね?」
「わぅん! よろしくなの、ばぁば!」
満面の笑顔を浮かべるシリウス。もう本当にうちの娘には困ったもんだぜ。なんでそんなにかわいいんだ!
「……婿殿」
「はい?」
「合格!」
親指を立てて、ディアナさんが満面の笑みで笑った。かなりだらしのない笑顔ですね。
しかしシリウスの撃墜率の高さは異常だね。うん、さすがはわが愛娘。世界一かわいいよ!
「さぁさぁ、シリウスちゃん、ばぁばの腕の中においで~」
「わぅ!」
ディアナさんが腕を広げるとシリウスは迷いなく飛び込んでいく。
うん、その迷いのないスタイルは本当にすごいよね。
「あー、もうかわいいなぁ! お客さんで来たときからかわいいと思っていたけど、孫娘になったらすごくかわいいわぁ~」
ディアナさんがシリウスに頬擦りをしていく。シリウスは嫌がるどころか、すごく嬉しそうです。
「とりあえず行くぞ、嬢ちゃん。それはもうダメだ」
ため息混じりにプライドさんは「焔」の奥へと向かって行く。俺たちはその後に続いた。
シリウスに先行っているぞ、と声をかけると、わぅんと返事をしてくれた。
まぁ、ディアナさんと一緒なら問題ないよね?
そうしてプライドさんの後を追いかけると、プライドさんはある部屋の前で止まっていた。
そこは俺たちが宿泊していた「円空の間」だった。
「まずは俺様が先に入る。嬢ちゃんたちはその後で頼む」
そう言ってプライドさんが部屋の中に入る。
しばらくは話し声が聞こえたけど、ほどなくしてカルディアの泣き声が聞こえてきた。
「悔しいよ、陛下」
カルディアがプライドさんを陛下と呼びながら泣いていた。
間違いなくラスティ所長のことだろうね。あの人には一発お見舞いしておいたけど、足りなかった。そう思いながら、俺は「円空の間」に入ったんだ。
明日の更新時間は未定ということで←汗
いつも十六時にと言って守れないので←汗




