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Act0-42 星の小人亭

本日二回目の更新です。

明日からはいつも通りの十六時になります。

 その後、常駐依頼だった「ホーンドラビットの「討伐」」をこなした頃には、日はだいぶ暮れてしまっていた。もう一回くらいは常駐依頼をこなせそうかなとは思ったのだけど、ギルドに戻ると、受注自体はすでに終了していて、できたのは、依頼終了の手続きとホーンドラビットの素材の買い取りだけだった。


 日が暮れてはいたけれど、まだ日が出ているのだから、もう一回くらいは受けたかったのだけど、規則は規則だからと受け付けてもらえなかった。


「まぁ、今日は早めに休んでおきな」


 ちょうどギルドにいたクーさんは笑っていた。それはほかのお兄さんやお姉さん方も同じだった。俺としては笑いごとじゃなかったのだけど、文句を言っても仕方がなかった。


 それに依頼を受けられないのであれば、長々とギルドにいても仕方がないので、宿に帰ることにした。


 俺が定宿にしているのは、星の小人亭という宿だった。ギルドからそう離れていない場所にあるうえ、朝と夜の二食付きで、一日銀貨三枚という宿だ。俺の場合は一か月泊まらせてもらう代わりに、一日銀貨二枚にしてもらっているので、一か月で銀貨六十枚だった。ただ風呂がないのがちょっといただけない。


 まぁ、風呂は入れないけれど、お湯で体を拭くことはできる。代金は桶一杯に入ったお湯が銅貨十枚だった。が俺の場合は付与魔法を使って、水に手を突っ込めばいいだけなので、代金は半分である銅貨五枚で済んでいた。俺の付与魔法は、消耗がほとんどないので、いくらでも使いたい放題なので、疲れて帰ってきても、特に問題ない。


 それどころか、手を突っ込むだけで、お湯を沸かせることを活かして、銅貨三枚で一回の湯沸かしを受けることもある。売り上げの三割というと、暴利っちゃ暴利かもしれないけれど、この世界でもお湯を沸かすのはただでできることじゃない。燃料代は必要だ。まぁ調理の際についでにやればいいだけだとしても、燃料代が必要であることには変わりない。


 それが燃料代いらずで、なおかつすぐに沸かせることができるとなれば、銅貨三枚は逆に安いし、かまどのひとつを占領されることもない。なので、湯沸かしの仕事はわりと頼まれることが多い。おかげで、バカにできない額を稼げることもある。今日もできれば、やりたい。常駐依頼をもう一回できれば、する必要はなかったのだけど、できなかったので、その分の補てんをしたかった。


「ただいまぁ」


 扉を開けると、駆け寄ってくる足音が聞こえた。入ってすぐのところにある食堂から、エプロンドレスを身に着けた、茶髪の、十歳くらいの女の子が出て来た。


「お帰りなさい、カレンちゃん」


「ただいま、モーレ」


 出てきた女の子の名前はモーレ。この宿の娘さんのひとりで、おかみさん曰く、看板娘ということだった。モーレの家族はお姉さんがふたりとお兄さんがひとりで、父親の旦那さんに母親のおかみさんの六人家族だった。うちよりかは少ないけれど、結構多いと思う。その六人と数人のお手伝いさんで、経営している宿だった。


 クーさんほかの先輩冒険者さんたち曰く、美味くて量も多い食事に、安くて清潔な宿とかなり高評価だった。実際、ここを紹介してくれた勇ちゃんたちも太鼓判を押していた。その勇ちゃんたちは、いま「蛇の王国」にいない。なんか用事ができたとかで、「竜の王国」に戻ってしまっていた。


「まぁ、星金貨一千枚を稼ぐっていうのであれば、俺たちの協力なしで金貨十枚くらいは稼げるでしょう?」


「蛇の王国」を出る際に、勇ちゃんはそんな挑発じみたことを言ってくれた。単純に発破をかけてくれたのだろうね。でその発破に見事に乗っかっています。勇ちゃんたちがいつ戻ってくるのかはわからないけれど、それまでには絶対に金貨十枚を稼ごうと決めた。


 だから連日での常駐依頼をこなし続けたのだけど、どうにも失敗した感じがしてならない。Dランクにはなれた。なれたけれど、それでもまだ金貨四枚も稼げていない。もう残りは二週間を切っているというのにも関わらずだ。


「カレンちゃん、お疲れ気味かな?」


「そうでもないよ? せっかくDランクになれたのだけど、いままでとさほど変わらないくらいしか稼げないなぁって思っていただけで」


「え? Dランクになれたの? 飛び級でEランクの次は二週間でDランクって。いままで最速なんじゃないかな?」


 モーレは目をきらきらと輝かせていた。たしかに異例の速さとは言えなくもないかもしれないけれど、俺がランクを上げているのは、金を稼ぐためなのだから、さっさとランクを上げるのは当然のことであり、むしろ二週間でまだDランクにしかなれていないというのが、地味にダメージを喰らわせてくれる。


「どんなに速くても、全然稼げていなければ意味ねえよ」


「カレンちゃんは、卑屈だねぇ。もうちょっと前向きにならなきゃ、幸せが遠くに行っちゃうよ?」


 両頬を人差し指で持ち上げて笑うモーレ。ため息なんて吐かずに、笑っていろ、ということなのだろう。俺だって笑ってはいたい。けれど現実を前にすると、とてもではないけれど、笑ってなんていられなかった。なのに笑えなんて言われても、腹が立つだけだった。


 だからと言って、自分よりも小さい子に向かって、苛立ちをぶつけるのは、褒められたものではない。それくらいの自制心はまだ残っていた。それにモーレやモーレのご家族には、いろいろとお世話になっている。その恩を仇で返すわけにはいかない。


「……こう?」


 モーレのまねをして、両頬を人差し指で上げてみる。モーレは嬉しそうに笑ってくれる。どうやらお眼鏡にはかなったようだが、俺みたいなかわいげのないちんちくりんには、似合わない仕草な気がしてならない。でも、モーレが笑ってくれるのであれば、それはそれでいい。


「うんうん、これできっとカレンちゃんにも、スカイストさまのご加護がもらえるはずだよ。スカイストさまは、いつも世界中のみんなを見守ってくださっている、お優しいお方なんだから」


「どうかなぁ? いくら母神さまだからって、世界中のみんなを見守ってくれるとは、限らないと思うよ? そんなことをしていたら、時間なんていくらあっても足りないだろうし」


 いるかどうかはわからない神さまだけど、仮にいたとしても、モーレの言う通りに、この世界の住人すべてを見守っていられるとは思えない。この世界の人口がどれくらいは知らないが、仮に数十億人いたとしたら、そのひとりひとりを見守っていられるわけがない。


 まぁ、神さまだからできるかもしれないけれど、でもそれをずっと続けられるものだろうか。できるわけがない。だから母神さまがいたとしても、この世界の住人すべてを見守っているというのは、さすがにありえない。とはいえ、それをモーレに言うのは、ちょっと大人気がなかったかもしれない。


 怒られちゃうかもしれないなぁ。そう思いながら、モーレを見やる。けれどモーレは特に怒っているようではなかった。むしろなにを言っているんだろうか、という顔をしていた。


「カレンちゃんはなにを言っているの? スカイストさまは、「時」を操れるお方なんだから、時間なんていくらでも作れるのに」


「へ?」


 時を操る。そんな話は初めて聞いた。でも、考えてみれば、母神と言われている方なんだから、時間を操ることくらい簡単にできるかもしれない。


「そうなんだ。初めて知ったよ」


「カレンちゃんって変わっているね。スカイストさまのことは、この世界の人はみんな知っているはずなのに」


 モーレが首を傾げた。その仕草はかわいい。かわいいけれど、言われた内容については、なにも言えない。そりゃあ知るわけがないよ。俺はこの世界の住人ではないのだから。そう言えれば、どんなにいいことか。


 しかし言えない。言えるわけがない。エンヴィーさんにしっかりと釘を刺されているのだから。本当に信頼する人以外には、異世界人であることを伝えてはならない、と。だからモーレにも、そのご家族にも、そしてクーさんたち先輩冒険者のみなさんにも、俺は俺の出自を教えていない。


 教えていないけれど、薄々勘付かれてはいると思う。なにせ、いまみたいにこの世界では、常識であることを俺は知らない。だからいまのモーレみたく、不思議がられることが多々ある。まぁ、不思議がられても、どうにかごまかすのだから、果たしてちゃんとごまかしきれているのかは、怪しいところだ。

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