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Act4-65 惜寂

 やっぱり日曜日はダメですね←汗

 どうにも時間を守れない←汗

 あ、明日はちゃんと十六時に更新しますので。

 なにが起こったのか、まるでわからない。


 わからないまま、斡旋所で抱えていた男は、使えると思っていたはずの男は一蹴されてしまった。一瞬だった。本当に一瞬で男は倒れてしまっている。


 少し前までは、威勢よくカレン・ズッキーに挑みかかっていたはずだったのに、気づいたときにはすでに男は地面に後頭部から叩きつけられていた。


 あっという間だった。あっという間に自分が抱えている最高戦力のひとつが潰されてしまった。


 男の顏は血まみれになっていた。もとはそれなりに整っていた顏だったが、いまやその面影はない。


 鼻は折れて潰れてしまっている。並びのよかった歯は前歯が全滅している。目が飛び出ていないことだけが救いと言ってもいい。


 これほどの威力を持った一撃を放ったというのに、カレン・ズッキーは疲れた素振りすら見せない。彼女にとっては、これほどの一撃であっても肩慣らしのようなものでしかないのかもしれない。


 もっともそのことはどうでもいい。問題なのは彼女が言った言葉だ。親殺し。なぜ彼女がそのことを知っているのだろうか?


 なぜ自分が父を殺したことを彼女は知っている? 


 誰が彼女に自分が父を殺したことを教えたのだろうか。


 周りにいる部下を見やるも、誰もが首を振る。父を殺したことを知っているのは、周囲にいる部下だけだ。


 しかしその部下が教えていないということは、ほかの誰かが彼女にそのことを教えたということなのか。いったい誰が。


「……否定しないんだね? 親殺しってことを」


 カレン・ズッキーは悲しそうに目を細めている。まるで憐れんでいるかのようだ。誰を憐れんでいる? 私を憐れむなどふざけるな。


「やれ!」


 周りの部下たちに指示を出す。部下たちが一斉に襲い掛かる。


 だが、カレン・ズッキーはわずかな動きで部下たちの攻撃を避け、各々の顎を一回ずつ打ち上げていく。


 まるで予め決められていたかのように、部下たちは攻撃した順番で倒れていく。やがて最後のひとりが倒れ伏すと、カレン・ズッキーが一歩前に出てきた。


「憐れだね、あんた」


「私が憐れだと?」


「そうだろう? 自分を理解してくれない父親が悪いって。反抗期の子供かよって話じゃん。そもそも親父さんが言ったことをなにひとつ実践しようとはせず、自分が有能だってアピールされても親父さんだって困るし、失望もするよ。第一あんたは、あんた自身が思っているほど有能なのか?」


「私を無能だと言うつもりか!?」


「どんなに能力があろうとも、結果を出せなきゃ無能だよ。それ以前に自分を抑制できない奴がなにを成せるんだよ? ……あまり人のことは言えないけどさ」


 カレン・ズッキーは自嘲気味に言う。その表情にあるのは悲しみか怒りか。はたまたふたつが混じり合っているのか、判断がつかなかった。


「否定されれば頭に来るのは誰だって同じだ。それを抑えられるかどうかで、その人の価値が決まる。腹を立てても堪えられる人と腹を立てたまま行動に出てしまう人。あんたはその後者だね」


「貴様は自分を前者だと言いたいのか? 偉そうなことを言っているのは、自分が優れた存在だと──」


「……いや、俺も後者だよ。ただ俺は自分がダメだってわかっている。どうしようもないバカ野郎だということを知っている。でも自分をダメだと思っていない奴より、いや認めることができない奴よりかは少しだけましだってことを知っているよ。あんたはどうなんだい?」


「なに?」


「あんたは誰かに讃えられるようなすごい人なのか? それとも自画自賛と阿諛追従に彩られるだけの寂しい人なのか?」


 胸がなぜか痛んだ。そして思い出すのは、父が何度も口にした言葉だった。


「おまえには欠けているものが多すぎる」


 あれはどういう意味だったのだろうか?


 欠けているものが多いとはどういうことなのか?


 まだひとつならわかる。


 しかし多すぎるということは、父から見た自分には大切なものが多く欠けすぎているということなのか?


 わからない。父がなにを言いたかったのか、いまでもわからない。


 いや、いまのいままであれは父の頭がおかしくなっていたとだけ思っていた。


 しかし実際に本当は多くのものが欠けていたのではないか?


 なぜかはわからない。ありえないとは思うが、不思議とそんなことを考えてしまいそうになる。


 違うと言いたい。言いたいのに、なにも言えない。言葉が出ない。


 いったい自分はどうしたと──。


「閣下ぁ!」


 通路から声が聞こえてくる。顔を上げると残りの分隊が駆けて来るところだった。


「……時間切れかぁ。仕方がないね。とりあえず駄賃は貰って行くよ?」


 カレン・ズッキーが言う。同時に意識が飛びそうになった。殴られたのだろう。だがこんなにも強烈な一撃を食らうのは初めてだった。


「……とりあえず頼まれた分の駄賃、たしかに受け取ったよ」


 カレン・ズッキーは冷めた目をしながら見つめている。冷めつつも、相変らず憐れんでいるような目を向けてくる。言い返したい。言い返したいが、なにもできずに倒れ込んだ。


「さぁて、俺も脱出するとしますかね」


 カレン・ズッキーは牢屋の方へと向かって駆け出していく。


 部下たちがその後を追いかけていく。何人かは残るだろうと思ったが、誰ひとり残ることなく、カレン・ズッキーを追いかけていくのを意識が薄れるなか、見つめ続けた。

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