表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
405/2053

Act4-53 ツンデレさん?

 本日二話目です。

 体の痛みが消えていく。


 温かさが体を包み込んでいく。治療魔法かな。まぶたを開けると、岩肌の天井が見えた。あたりを見回すとカルディアが岩壁に背を預けてまぶたを閉じていた。


「カルディア?」


「やめておきなさい、お嬢さん。お嬢さまは眠られたばかりなんだ」


 聞いたことのない声。白髪のおばあさんが俺のそばにいた。頭には黒と黄色の縞模様の耳と背中には同じ模様の細長い尻尾が見える。このおばあさんも獣人みたいだ。そしてその手は淡く輝いていた。


「……おばあさんが治療してくれているんだ?」


「そうさ。もっとも傷は治せても痛みは消えないよ? あくまでも傷を塞いだだけさ。治療魔法だって万能じゃない。表面上の傷は治せても、その内面の組織までは治療できないよ。どうやら「蒼炎」を纏って殴られてしまったみたいだね。「蒼炎」を纏っていなければ一発で治るが、あんたの怪我を治すには何回かに分けないといけないね」


「「蒼炎」か」


 カルディアの話の中で何度も出てきた、カルディアの血筋にのみ受け継がれてきた力。いわゆる固有属性って奴なのかな。たしかに普通の火属性とはかなり違っていた。火属性は基本的に赤色なのに、カルディアのそれは蒼い色をしていた。深くきれいな蒼。それはまるで海のようですごくきれいだった。


「きれいだったな」


「ふふふ、なんだい? お嬢さまにあれだけしこたま殴られたって言うのに、そんな軽口を叩ける余裕があるのかね?」


「あー、ひどかったんですか?」


「なにせあたしが呼ばれるほどだよ? こう見えても「蒼炎の獅子」で一番の治療師と謳われているのさ。そんなあたしが呼ばれたんだ。相当な大怪我だとは思っていたが、まさか「蒼炎」を纏った状態でしこたま殴られていたとはね。まったくお嬢さまにも困ったものさ。まだお若いからお転婆なのは仕方がないとは思うんだけどね」


 やれやれとおばあさんはため息を吐いていた。でもその表情はとても穏やかで優しい。口調もとても柔らかい。うちのおばあちゃんを思い出させてくれるよ。


「しっかし、まさかお嬢さまが母親になるなんざ思ってもいなかったよ」


「あー、シリウスのことを聞いたんですか?」


 このおばあさんであれば、カルディアも話をしていそうな気がする。


 だってこのおばあさんがカルディアを見る目はとても優しい。カルディアを孫娘のように思ってくれていることは明らかだもの。きっとカルディアもこのおばあさんには気を許して──。


「いいや? あたしなんかじゃお嬢さまとはお話することさえできないさね。あたしは「蒼炎の獅子」で一番の治療師ではあるけれど、お嬢さまはあたしの名前さえ知らないよ」


「え?」


「なにせあたしは、もともと奴隷だからね。ガイアス様に買われて、あのお方に仕えてきたのさ。だからカルディア様のことはおろか、御母堂であるディアナ様のことだってよく知っているよ。カルディア様は昔からディアナ様に似ておられたけれど、いまや瓜二つだねぇ。まぁ、ディアナ様とは違ってお転婆ではあるけどね」


 くすくすとおばあさんは笑っていた。とても穏やかにおばあさんは笑っている。てっきり婆やさんみたいな人だと思っていたのだけど。まさか奴隷だったとは。


「でもなら」


「ふふふ、寝言を言われていてね。何度も「ごめんね、シリウス」って言っているのさ。最初は男でもできたのかと思ったのだけど、「カルディアままは」って呟かれたのを聞いて、男じゃなく子供ができたってわかったのさ。お嬢さんはそのシリウスって子を知っているみたいだね?」


「一応俺の娘です」


「娘? 娘なのにシリウス?」


「ええ。おかしいですか?」


「おかしいというか、シリウスって言うと男の名前って感じがしたからねぇ」


「ああ、なるほど」


 たしかに女の子でシリウスっていうのはおかしいのかもしれない。


 とはいえ、名前をつけたときはまだシリウスはウルフだったので、オスかメスかもわからなかった。


 というか勝手にオスだと思い込んでいたんだよね。


 だからシリウスっていうちょっと男っぽい名前にしてしまったんだよなぁ。いま思えばちゃんと確認をしておけばよかったのかもしれない。


「しかし娘。娘ねぇ。そのシリウスちゃんって子のお父さんは?」


「俺です」


「……お嬢さん、男だったのかい?」


「あー、そうじゃなくて。俺が引き取ったんですよ。そうしたら俺のことを「ぱぱ上」って呼んでくれたんです。それで」


「なるほどねぇ。でお嬢さまが「まま上」になったと」


「いや、「まま上」は別に」


「おや? 意外と好き者なのかい? しっかしふたりも嫁を抱えるとは」


「えっと六人です」


「……六人?」


「はい、六人です」


「……お嬢さま込みかい? それとも」


「込みですね。まぁ、カルディアが言うには本気じゃなかったと言われてしまいましたけど」


 おばあさんは俺の嫁の人数を聞いて絶句していた。無理もないよね。俺だって嫁が六人もいると言われたら、なにを言っているんだ、こいつはって思うもの。でもね、これは好きで増やしたわけじゃないんです。気付いたら増えていたんですよ!


 でもエレーンが増えたけれど、カルディアが減ったので五人のままと言うことでいいのかな。どうにもカルディアからは嫌われてしまっているみたいだし。


「ははは、なんだいなんだい。お嬢さまから相当に気に入られているみたいだね?」


「え?」


「お嬢さまはそれを言ったとき、どんな目をされていた?」


「目、ですか?」


「ああ、そうさ。ほかにもよく笑っていなかったかい?」


「そう言えば、笑っていましたね。それまではあまり笑っていなかったんですけど」


 目のことはよくわからない。いくらかの感情が見え隠れはしていたけど、すべて理解できたわけじゃなかったから。


 だけどおばあさんの言う通り、あのときのカルディアはたしかに笑っていた。普段はそんな笑っているイメージはないのに、はっきりとわかるくらいの笑顔を浮かべていた。それはたしかに珍しかったとは思う。でもそれがなんだと言うんだろう?


「決まりさね。どうやらお嬢さまは相当にあんたに惚れているみたいだ」


「へ? で、でも」


「愛情の裏返しって奴だね。そもそもなんとも思っていないのであれば、そこまで殴りはしないさ。というか殴るどころか殺してさえいただろうね。でもあんたは生きている。その時点で答えはおのずと出ているだろう?」


「で、でもそれくらいじゃ」


「ふふふ、いいことを教えてあげようか? お嬢さまは嘘を吐かれるとき、たいてい笑っているのさ。それもひどい嘘を吐くときほど笑ってしまうんだよ。たぶん、嘘を吐く自分をあざ笑っているんだろうね。昔からのお嬢さまの癖だよ」


 おばあさんは愛おしそうにカルディアを見つめている。カルディアは寝息を立てていた。でもよくみるとカルディアの体には毛布がかかっていた。誰が掛けたのかは考えるまでもないか。


「……カルディアが好きなんですね、おばあさんは」


「ここだけの話、孫娘みたいに思っているよ。さすがにお嬢さまの前では言えないし、ラスティ様の前でも言えないけどね」


 おばあさんの表情が急に変わる。それまで穏やかだったのが、顰め面になった。そうなったのはラスティ所長のことを口にしてからだった。


「……ラスティ所長はどういう人なんですか?」


「あまりよくない人かな? お嬢さまは信頼されているみたいだけどね」


 おばあさんはあっさりと言った。よくないとは言ったけれど、実際はいけ好かない相手と言いたかったのかもしれない。そう思えるくらいにおばあさんの表情の変化はすごいものだった。


「詳しく話を聞きたいんですけど」


「ごめんよ、あたしには詳しい話はできないのさ。あたしの身柄はラスティさまが握っているからね。いまのあたしの雇い主はあの人なのさ。だからなにも言えないんだよ」


 おばあさんは申し訳なさそうに言っている。


 でもそれだけで十分に理解できた。ラスティ所長はかなり問題のある人のようだね。


 雇い主だからこそなにも言えないとおばあさんは言った。


 それはつまり雇い主でなければ言いたいことが山ほどあるってことだろう。


 それだけラスティ所長の腹は黒いんだろうな。古参のメンバーであるおばあさんが心配になるほどには。


「……治療師、手が止まっているよ?」


 不意にカルディアがまぶたを開いた。眠っていたと思っていたんだけど、どうやら起きていたみたいだった。


「失礼致しました。治療を続けさせていただきます」


「それでいい。余計なことは言うな」


「はい、申し訳ございません」


 おばあさんは平謝りをしていた。どこから聞いていたかは知らないけれど、ちょっと一方的すぎないか?


 いくらおばあさんが奴隷の身分だとはいえ、孫娘のように思ってくれている人に対してそういう態度はいただけないと。


「あと」


「はい?」


「……ありがとう、ララ婆」


「え?」


「いつもはラスティがいるから言えないけれど、私もララ婆が好きだよ。私にとっての婆様はララ婆なんだ」


 はにかみながらカルディアは言った。その言葉におばあさん、ララおばあさんが涙を流してしまった。

「ちょ、ちょっとララ婆、なに泣いているのさ!?」


「い、いえ、まさかお嬢さまに名前を憶えてもらっているなんて」


「あたり前だよ。ララ婆はいつも優しくしてくれたもん。怪我をしたらすぐに飛んできてくれて、治してくれたもん。ララ婆が本当の婆様ならいいのにって何度も思ったもの」


「左様ですか。それは身に余る光栄でございます」


 ララおばあさんはまだ泣いている。カルディアもどうしていいのかわからないみたいだ。


 というかツンデレすぎないかな? ツンのあとにそんなデレなんてされたら誰だって泣いちゃうよ。


「なにを笑っているの? まだぼこぼこにされたいのか、カレン・ズッキー」


 カルディアが顔を赤くしていた。どうやら慌てているところを俺に見られて恥ずかしいみたいだ。うん、典型的なツンデレですね。それもクール系のだ。


「いや、かわいいなって思ったんだ。普段からそれくらい素直ならもっとかわいいのに、勿体ないなぁって」


「が、がぅっ!?」


「がぅ?」


 なんか初めて聞いた鳴き声なんですけど? なんでそんな鳴き声をあげて。


「……ああ、これはたしかに嫁が六人もできますねぇ。お嬢さまも大変な人に心を奪われましたね」


「ら、ララ婆! 勝手なことを言わないの!」


 カルディアの顏がさらに赤く染まっていく。


 えっと俺いまなにをしましたかね? 社交辞令的な褒め言葉をしただけなんですけど。


 なのにララおばあさんってば、なぜかしみじみと頷いているし。うん、よくわからん。


「なに他人事みたいな顔をしているんだ!?」


「え? だって俺は特になにも」


「おまえのせいだろう!」


 カルディアが叫んだ。叫びながら再び俺の頬にカルディアの鉄拳が飛んできたのは言うまでもないことだね。

 カルディアがツンデレキャラっぽくなっていく←笑

 続きは六時になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ