Act4-51 本心
遅くなりました。
もう更新祭りまで残り一時間ですね。
このあとすぐの十二時より開始します。
まぁ、それも見越してのこの時間なんですが←ヲイ
それでは、どうぞ。
「復讐をした後?」
カルディアはオウム返しをしてきた。
オウム返しをしているつもりは本人にはないんだろう。
というか俺に聞き返しているわけじゃない。単純に自分自身に対して問いかけているんだろうね。
なにせカルディアは考えてもいなかったという顔をしている。
復讐することばかりに気を取られている顔をしている。
目の前で肉親を殺されてしまえば、たったひとりの実の家族を失えばそうなるか。
それに相手は「七王」の一角である獅子王プライド。あの人に復讐をしようと思えば、ほかのことは些事に思えるのかもしれない。
でも実際には些事じゃない。あの人に復讐することは決して些事ではないんだ。
だってあの人は王だ。「獅子の王国」を治める王。その王を殺すことは、叛乱を起こすことであり、叛乱を起こすということは革命をするということだった。
つまりは自分たちが当代の王に替わって、新世代の王になると言っているようなものなんだ。
だというのに、頭領であるカルディアはその先のことを考えていない。プライドさんを殺せた後のことを、なにも考えてもいない。
家族を殺された復讐をするということしか考えていない。
これがまだ叛乱という形でなければ、その先のことを考えなくてもいいのかもしれない。個人で復讐をするというのであれば、その先を考えていなくても問題はなかった。
でもカルディアは叛徒の長として君臨している。その長が叛乱を成し遂げた後のことをなにも考えていなかった、というのはあまりにもお粗末にもほどがある。
というか、俺であればそんな長の下になんていたくないね。人民を煽るだけ煽っておいて、その先のことはなにも考えていませんでした、なんて許されることじゃない。
「蒼炎の獅子」の構成がどうなっているのかはわからないけど、みんなカルディアが掲げた旗のもとに賛同したはず。
みんながみんな食い詰めものやただ暴れたいだけってわけじゃない。それなりの立場や地位を持った人だっているはずだ。
みんながみんな「蒼炎の獅子」という名の旗に参じたのは、そこに希望を見出したからだろう。叛徒っていうのはだいたいがそんなもの。あくまでも表面上はね。
実際のところは、権力闘争だ。旧政権と新政権の間での確執が叛乱という形で起こっている。
当然旧政権の方がいろんな面で優位がある。
物資の補給、兵の補充など実際の戦をするために必要不可欠な要素をあらかじめ持っているんだ。
新政権は一から土台を作らなければならないから、戦える人材だけではなく、後方支援、つまりは文官の人材も集めなければならないんだ。
この「獅子の王国」で、文官を集めるのはかなり難しいはずだ。
なにせ戦士が多い国だもの。文官は少なめになる。
仮にいたとしても、旧政権ではなく、新政権である自分たちに就かせなければならない。旧政権にはないなにかを提示しなければそれもできない。
そうだ。新政権に就く者は基本的に旧政権に対してなにかしらの恨みや不満があり、その恨みや不満を叛乱という希望の旗のもとでひとつにしている。
そのすべてが理想という旗の下で戦っているわけじゃない。
自分本意の理由で戦う人もいるはずだ。例えば新政権の要職に就くためとかね。そういう人材ほど優秀な場合が多いのが人の業ってやつだね。
とにかく叛徒を率いるためには、目に見えたなにかが、わかりやすいお題目が必要だ。なんのために叛乱を起こすのか、という理由がだ。
それらしいことを言っても、中身がない理想を語られても賛同者は増えない。
叛乱なんてものは鎮圧されるというのが世の常だ。そんなことは人民が一番理解している。
下手に新政権に加担してしまっても新政権が政権闘争に負けたらなんの意味もない。反乱者として処理されるだけだ。
カルディアの叛乱はその悪い例だ。
いまに至るまでの八年間でこの子はなにを考えていたんだろう?
叛乱を成功させるためのビジョンもなにもない。いや感じられない。
だってさ、こうして問いかけてもなにも返ってこないんだ。
その時点で無謀な叛乱だとしか思われないよ。
実際「蒼炎の獅子」はその気になればすぐに葬れるとプライドさんは考えている。
こうして連行されるまでは余裕を持ちすぎじゃないかと思っていたけれど、プライドさんがそう言うのもわかるよ。
こんな叛乱軍怖くもなんともない。本当に怖いのは、どんな劣勢になっても戦い続けようとする軍だ。
「蒼炎の獅子」の場合はカルディアだけじゃないかな? カルディアが孤軍奮闘する姿しか俺には想像できないよ。
「答えられないのか?」
「……そんなのは後で考えれば」
「バカ野郎!」
「なっ!?」
「おまえには、おまえが掲げた旗印のもとに集まった同志を養い、その命を守り、そして導く責任があるんだよ!」
復讐するのはいい。家族を殺された側であれば当然の感情だから。
だけど、復讐のために兵を募った時点で、個人的な復讐は二の次にしなければならない。
集った兵を養う責任がまず生じるからだ。
そして養う代わりに戦に出るという労働をしてもらう。そこでも兵の命をできるだけ守らなきゃいけないという責任が生じる。
最後に、いや一番大事なことが 命を失いかねない戦場に兵を出すさいに、どうして戦うのかという目的、ひとりひとりが命を懸けていいと思わせるお題目を掲げる、つまりは導かなければならないんだ。
なのに、カルディアはその手のことを考えてもいない。
その時点でダメだよ。っていうか、そんな体たらくで叛乱軍なんて発足させるんじゃない!
人の命を預かる立場の人間がそんなあたりまえなことを軽視するなよ!
「か、勝手なことばかり言うな! 私だって少しは考えて」
「考えているのであれば、プライドさんを倒したあとのことも考えておけ!」
「あんな化け物を倒したあとのことなんて考えられるわけがない!」
カルディアが叫んだ。完全にむきになっているみたいだけど、それは言ってはダメな言葉だよ。
「……それはプライドさんにはどうあっても勝てないって認めているのか?」
「っ!?」
「だってそうだろう? 倒すと考えているのであれば言えるはずだ。倒そうと本気で思っているのであれば、その先のことも考えているはずだ!」
カルディアの復讐という気持ちは本物だ。
でも、それだけなんだ。そこから先がない。
創作物でも復讐者っていうのは、そこから先がないものだけど、実際の復讐者もそうなるんだな。
それだけ怒りと悲しみというものが、目を曇らしてしまうってことなのかな。
普段のカルディアはなにを考えているのかはわかりづらい子だけど、いまのカルディアであればわかるよ。きっと──。
「うるさい、おまえに」
「私のなにがわかるんだ!? とは言うなよ?」
「っ!?」
カルディアが目を見開いていた。言動が読まれるとは考えていなかったんだろう。普段のカルディアであればわからないよ。でも、いまのカルディアはわかりやすい。
「空っぽだな、カルディアは」
「なに?」
「空っぽだって言ったんだよ。中身がないとも言えばいいか?」
「私のどこが」
「私は復讐しか考えていない。獅子王を殺して爺様の仇を討てればそれでいい。後のことなんて知ったことか!ってところかな?」
「なんで」
それを。カルディアが口をつぐむも、続いたであろう言葉がなんであったのかはたやすく読めてしまった。
「その先を考えていない時点でそうだとは思っていたけど、本当に空っぽなんだな、君は」
「やめろ」
「復讐だけが人生じゃないよとは言わない。俺には君の気持ちはわからないから」
「やめろよ」
「でもさ、君が復讐だけで人生を終わらしても君のおじいさんは喜ばないよ。幸せになれと言ってくれたんだろう。なら幸せになれよ。幸せな日々をどうしたら送れるかを考えた方がいい。君には復讐は似合わないよ」
「黙れ」
「俺はシリウスと接していたときの君が一番」
「黙れぇぇぇーっ!」
カルディアが叫んだ。叫びながら俺の体に馬乗りになって腕を振りかぶる。拳が頬を抉るように放たれてくる。
防ぐこともできないまま、ただ殴られ続ける。殴りながらカルディアは泣いていた。
泣きながら殴り続けるカルディアを俺は意識が遠のくのを感じながら、見つめることしかできなかった。
続きはこのあと十二時より開始の更新祭りにて。




