Act4-48 爺さま
遅くなりました。
やっぱり日曜日は気が抜けてしまいますね←汗
爺さまは優しかった。
私には生まれつき、父さまも母さまもいない。
なんでも父さまは任務の途中で命を落とされ、母さまは私を産んですぐに亡くなったそうだ。
父さまの任務がなんだったのかは知らない。爺さまも教えてはくれなかった。
だから爺さまは私にとって唯一の肉親。
たったひとりの家族だった。家族はほかにもいたと言えばいた。
「蒼炎の獅子」のみんなは私にとって家族ではあった。
でも実の家族は爺さまだけだった。爺さましか本当の家族はいなかった。
爺さまは私を愛してくれた。爺さまの実の娘だった母さまを殺した私なんかを。
母さまによく似ていると爺さまは言った。そう言ったときの爺さまはいつも泣きそうな顔をされていた。それだけ爺さまにとって母さまは大切だったんだと思う。
母さまのことを思い出していつも泣かれていたもの。それだけ母さまを爺さまは愛されていた。
そんな母さまの娘であり、爺さまにとっての孫娘である私を爺さまは愛してくれた。私を産んだせいで母さまは亡くなったのに。
「おまえはディアナの娘だ。私の孫娘だぞ? 孫を愛せぬ祖父がおるわけがなかろう」
爺さまはいつも頭を撫でてくれた。撫でながら優しく笑ってくれた。
「よいか、カルディア。訳あって我らは伏さなければならぬ。しかしそれらはすべて獅子王陛下とこの国の未来のためだ」
爺さまは陛下を、いや獅子王に心酔していた。
昔からの知己の仲だと言っていた。爺さまが「蒼炎の獅子」を率いていたのもすべては獅子王からの頼みだったと言っていた。
獅子王のために、爺さまは爵位を捨てたと言っていた。爺さまはどのくらいの貴族であったかは知らない。
ただラスティが言うには、爺さまはかつて「蒼炎伯」と言われていたって話だった。
王族の近親者である公爵とその次位にあたる侯爵の次、ちょうど中間の爵位である伯爵。それが爺さまだったって言っていた。
実際、街中を歩けば「ガイアス」という名を聞かない日はない。
獅子王を諌められる唯一の人物にして、盟友「蒼炎伯ガイアス」が爺さまであることはすぐに知れた。
爺さまに尋ねると、苦笑いされながらも頷いてくれた。
そしてそのすぐ、爺さまの字である「蒼炎」の由来を私は知ることになった。
「よいか、カルディア。これが「蒼炎」じゃ」
ある日の訓練で爺さまは掌から蒼い炎を出した。その炎はとてもきれいだった。
青空よりもきれいな色をしていた。そのときの私にはまだ作り出せないもの。
そんな炎を作り出せた爺様をますます尊敬していた。
「上位属性なの?」
「似て非なるもの、だな」
「どういうこと?」
爺さまが言うには、「蒼炎」と上位属性は火属性を昇華させたという意味であれば同じだけど、存在自体は別物って話だった。似た存在ではあることは確かだけど、あくまでも似た存在というだけのことらしい。
ただ、上位属性同様に、火属性を遥かに凌駕した力だって言っていた。
「よいか、カルディア。「蒼炎」は我らが血筋にのみ引き継がれてきた力だ。そして「蒼炎」を受け継ぎし者のみが、一族の長となれるのだ」
一族の長。爵位を捨てても、うちの一族はそれなりの数がいた。
実際「蒼炎の獅子」のある一定以上の役職に就いている者の大半はうちの一族の者だった。
その長になるために必要な力。それが「蒼炎」だった。
そして爺さまは長だった。「蒼炎伯」とは一族の長であると同時に、「蒼炎」の使い手であるからこその名前だった。そのことを私はそのとき初めて知ったんだ。
「「蒼炎」は一族の者であれば、誰でも使えるの?」
「いいや、先天性、つまりは生まれもっての力だからな。どんなに知力や武力で秀でていようとも、「蒼炎」なくしては長にはなれぬ」
「私には使えるの?」
「うむ。カルディアは特に「蒼炎」の使い手としては、かなりの素養の持ち主だの。それこそ我が一族の始祖様を彷彿させるほどに」
爺さまは私が「蒼炎」を使えることを喜んでくれていた。
大好きな爺さまに喜んでもらえて嬉しかったことを、いまでも憶えている。
「始祖様?」
「うむ。お会いしたことはないが、わしの曾爺さまが言うにはガルーダ様の炎を授かった唯一の女性だという話だったな」
「女性? 始祖様は女性なの?」
「だったと聞く。わしも会ったことはないからよくわからんがな。ただとても美しく、優しいお方だったそうだ。その始祖様からお前の名はいただいたのだよ」
「じゃあ、始祖様もカルディアだったの?」
「ああ。始祖カルディア。我らが偉大なる始祖の名よ。憶えておきなさい」
爺さまは穏やかに笑って私の頭を撫でてくれた。
始祖カルディア。偉大なる始祖様。その始祖様から名前をいただいたのが私。
そして私の「蒼炎」は始祖様を彷彿させるに強力な物。まるでおまえは選ばれたのだと爺さまに言われたような気分だった。
「──というわけでじゃ」
「じ、爺さま?」
そう選ばれた。選ばれてしまったからこそ、その日から爺さまは豹変した。
なにせ撫でていたはずの私の頭をいきなり掴むと、そのまま爺さまの目線の高さまで持ち上げてくれたのだから。
そのときの爺さまは笑顔だった。そう笑顔だったのだけど、まるで獰猛な獣のような笑顔で、心底怖かったことをいまでも憶えている。
というか、忘れることができない日々が、そのときから始まりを告げたのだから。
「強くなるんじゃぞ? 我が愛おしき孫娘よ」
そう言って爺さまは天空高くまで私を投げ飛ばしてくれた。「獅子の王国」の名物「天空肩車」を私はそのとき初めて受けることになった。
爺さまは笑っていた。笑いながら何度も何度も私を空高くまで投げ飛ばしてくれた。どうにか泣かずにはすんだけれど、あくまでもどうにかだった。
しかしそれはあくまでも序の口だった。
「さぁ、準備運動はここまでじゃな。本番はここからじゃよ」
そう言って爺さまは一度消していた「蒼炎」を手に纏わせた。
なにをされてしまうのかがわかるまで、時間はさほどかからなかった。
「あ、あの、爺さま? それを私に向けて撃つとしかないよね?」
恐る恐ると尋ねると、爺さまはなにも言わなかった。ただとても清々しく笑うだけだった。それが答えだった。
「では始めるぞ、カルディア。生き残りなさい」
「ちょ、ちょっと爺さま!?」
爺さまは笑顔を浮かべながら、手の「蒼炎」を次々に投げつけてきた。
「蒼炎」はひとつひとつの温度がとんでもなく高温で、触れた地面が一瞬で結晶化していた。
一度でも触れたら死ぬ。はっきりとそれを理解できた。爺さまはとても満足そうに笑っていた。
「さぁさぁ、我が愛おしき孫娘よ。耐えておくれ?」
「し、死んじゃうよ、爺さま!?」
「安心せい、カルディアよ」
爺さまは私を安心させようとしていたみたいだった。いつもと同じ笑顔を浮かべていた。
しかし次に爺さまが発した言葉で私は安心などできなくなってしまった。
「死ぬ死ぬ言うとるうちは、人はそう簡単に死なんからな。本当にまずいときは死ぬとも言えないときじゃから。安心せい。そこまではまだ踏み込まん」
「……ねぇ、それって最終的にはそこまで追い込むってこと?」
あってほしくないことだけど、爺さまの言葉を聞く限りはそういうことだった。
違うよねと思いつつも爺さまを見やる。けれど爺さまは笑うだけだった。笑ってそれまでよりも速く「蒼炎」を投げつけてきた。
「じ、爺さま、待って!? は、速い! 速すぎるからぁ!?」
「なにを言うておる? しっかりと避けておるではないか。ではもう少し速くするぞー?」
「じ、爺さまぁぁぁーっ!?」
私は思わす叫んでいた。けれど爺さまは「蒼炎」を淡々と投げつけるだけで、決して手を抜こうとはしてくれなかった。
そうして私は爺さまから「蒼炎」を受け継ぐための訓練を強制的に受けることになったんだ。
ちなみに爺さまが投げつけていた「蒼炎」の大半は偽物で、本物は地面に投げつけられた一発だけだったと聞かされたのは、偽物の「蒼炎」をお腹で受けたときだった。




