Act0-40 昇格と不穏
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いつもありがとうございます。
「とりあえず、Cランクの魔物の「討伐」をなんなくこなせることは、わかりました。そしてそんなEランク冒険者なんているわけがありません。カードを出してください」
カードを出せ。それになんの意味があるのか、いまいちわからなかった。が、口にしても、説明してくれそうにはなかった。とりあえず、言われるがままに、冒険者カードを手渡した。ギルドマスターは、俺のカードをひったくるようにして受け取ると、カードに向けて手をかざした。
なにをしているんですか。そう言おうとしたとき、カードがいきなり輝きはじめ、ランクがEからDへと変わった。
「はい、これでおしまいです。これで今日からはDランク冒険者として活動してください」
言われるがままに、カードを受け取る。さっきまでは、Eランクだったのが、いまはDランクになっていた。まさに魔法だった。というか、ギルドマスターはいま本当になにをしたのだろう。手をかざしただけで、ランクが変わるなんて聞いていない。
「いま、なにを」
「あなたのランクを上げました。一定の貢献度ないし実力を示せば、冒険者ランクを上げることはできる。それは知っていますね?」
異世界転移系のラノベのお決まりだった。基本的には、一定の依頼をこなすか、実力を示せば、冒険者のランクを上げられる。でも、それはギルドマスターにしてもらうことではなく、基本的に受付で行われることだった。それはこの世界でも変わらないと思っていたのだけど、どうやらこの世界では、ギルドマスターみずからしてもらうことなのかもしれない。
「言っておきますが、私がこうして一冒険者のランクを上げることは、そうありませんからね。基本的には受付でやることになっています。ギルドマスターがランクを上げるのは、BランクからAランクに上がった場合に限ります」
「Sランクになる場合は違うんですか?」
「Sランクの場合は、エルヴァニアのギルド本部のグランドマスターが直々に行われることになっています。もっともその際は大々的に行われることになっていますね。一種のフェスティバルのようになります」
「フェスティバルって」
Sランク冒険者に昇進するたびに、お祭り騒ぎっていうのは、どうかと思う。でも、この世界でSランク冒険者っていうのは、勇者に次ぐ実力者っていう扱いだろうから、そういうお祭り騒ぎになっても無理はないか。
あ、でも、最近の勇者は劣化が激しいって話だから、もしかしたら勇者よりも強い人とかもいるかもしれないな。少なくとも、ぽっと出の勇者よりも、叩き上げで成長してきたSランクの冒険者の方が経験はあるだろうし、強かったとしても不思議ではないかもしれない。
「そんな規律を無視して、わざわざEランクからDランクへの昇格を私がしてあげたのですから、Dランク程度で足踏みなんてせずに、さっさと上がってくださいね」
「それって期待しているってことですか?」
「……それ以外になにがありますか? というか、こんなところで油を売っている暇があるのであれば、少しでも多くの依頼をこなしなさい。そしてさっさと金貨十枚を稼いで、「蛇の王国」を出て行きなさい。……あなたには、もっと大きな目標があるのでしょう?」
ギルドマスターは俺に背を向けた。これ以上話すことはない、ということなのだろう。そっけないとも言えるけれど、言われていることは間違いじゃなかった。俺の目標は金貨十枚を稼ぐことじゃない。一応の目標とは言えるけれど、それは本当の目標に至るための大前提であり、いわば通過点にしか過ぎなかった。
でもその通過点でさえも、いまは雲の上のようなものだ。そこに至るためには、たしかにいつまでも油を売っている暇はない。もっとも油を売っていたわけではなく、いまのいままで理不尽なお説教を受けていたわけだけど、それを言ったら、もっと長くお説教になりそうなので、あえて言わない。
「ギルドマスター。ありがとうございます。ギルドマスターのご期待に添えるよう、誠心誠意頑張ります」
「……せいぜい命を大事にすることですね。お金はいくらでも稼げますが、あなたの命はひとつしかありませんから」
「はい、わかっています」
忠告に頷きながら、俺はギルドマスターの執務室を後にした。
「……わかっていないから、言っているのだけどね」
扉を潜る際に、ギルドマスターがなにかを言っていたようだったけど、聞き返すよりも早く、俺は執務室を出て行ってしまった。
「なにか言っていたかな?」
扉はすでに閉っている。開けようとしても、扉は不思議なことにぴくりとも動かなかった。
「まぁ、ギルドマスターから、もっと働けって言われたし。戻ったところで、なにをしに来たんですか、とか言われるだけか」
ギルドマスターは、基本的に厳しい人だった。エンヴィーさんに言われているから、俺に目をかけてくれているのだろうだけど、それをなしにしても、気に掛けてくれたと思う。厳しいけれど、それと同じくらいに優しい人だと思う。雰囲気がどこか親父に似ている。まぁギルドマスターにとってみれば、男である親父と雰囲気が似ているなんて言われても、喜ぶわけもない。
むしろ、あの人にとってみれば、母さんに似ていると言った方がまだいいだろう。実際の年齢は知らないけれど、俺くらいの玄孫がいても、おかしくはないだろう。あ、でも、それだと母さんと言うのは、かえってまずいのか。女性を褒めるのって、本当に難しいんだなぁと改めて実感するね。
「まぁ、いいか。それよりも、仕事だ、仕事。もっといっぱい働かないとなぁ」
足取り軽く、俺は階下へと向かう。Dランク冒険者になれたのだから、少しは稼ぎもましになることだろう。それでも金貨十枚は難しいかもしれない。それでもやるしかない。いややってみせる。決意を新たに、階段をゆっくりと降りて行った。




