Act4-43 エレーンの想い
十八日の更新祭りが開催できるかどうかが怪しくなってきました←汗
年末年始の反動がすごい←汗
でもどうにか頑張りたいです。
「シリウス。痛かった? でもね、痛いのはシリウスだけじゃないんだよ?」
シリウスに向かってカルディアは言った。
シリウスはカルディアに叩かれた頬を抑えながら、涙目になってカルディアを見つめている。
いや涙目というよりもすでに泣いているね。なにせしゃくりあげているもの。
それだけカルディアに叩かれたところが痛いのか。それともカルディアに叩かせてしまったことを気にしているのか。
ふつうは前者なのだろうけれど、シリウスはたぶん後者だろうね。
シリウスは優しすぎる子だからね。「まま」に叩かせてしまったことを気にしてしまうはず。
少し無理があるというか、いくらシリウスでもとは思うけれど、うちの娘の成長の速さは目を見張るものがあるからね。本当のところはわからない。
「……カルディアままも? シリウスを叩いたから痛いの?」
えづきながらシリウスは言う。やっぱりシリウスならそう言うと思ったよ。
ううん、シリウスだからこそ言えるって言ったほうがいいのかな?
シリウスは本当に優しい子だ。けれど、いまその優しさは見当違いなんだけど。
「カルディアままも痛いよ。カルディアままはシリウスのままになってまだほんのちょっとでしかないけどね? それでもカルディアままはシリウスのことを娘だと思っているよ。そんなカルディアままがシリウスを叩いたんだ。胸が痛いわけがない。でもね? 今回は違うんだよ?」
「違う?」
「そう、違うの。お胸が痛いのはカルディアままだけじゃないの。だってシリウスはばぁばとエレーンのお胸も痛ませちゃったんだよ?」
「エレーンも?」
シリウスはよくわからないという風に言っている。
これも助長させてしまった俺の責任だな。
まさかシリウスがこんなにも助長しているなんて思っていなかった。
人の心の痛みをきちんと理解してくれる子だと思っていたのに。
いやわかってくれていたのに、それを曇らせてしまったのは俺なんだろう。
シリウスならわかってくれる。理解してくれているって勝手な思い込みをしていた。
それがこの子にとってどれほどの悪影響を与えていたのかも理解せずに。
「そうだよ。シリウスはエレーンに黙れって言ったね? でもさ、シリウスはエレーンにそんな命令ができるほど偉いの?」
「エレーンはぱぱ上のじゅーしゃだから。わたしは、ぱぱ上の娘だから」
「そうだね。でもね? それはシリウスが偉いってことじゃないよ? シリウスじゃなくて、ぱぱ上の娘だからできることなんだよ? ぱぱ上の娘じゃなかったらできなかったことなんだよ? つまりシリウスが偉いわけじゃないの。シリウスはぱぱ上の力を勝手に使って、それを自分の力だと思い込んでいるだけなんだよ? だからこそシリウスはばぁばとエレーンを傷つけちゃったんだよ?」
「……でもエレーンはばぁばを」
「エレーンはばぁばをいじめてなんていないんだよ? ばぁばはシリウスと一緒にいたいと思ってくれている。でもね、ばぁばはこの世界で二番目に偉い人なんだよ? レアままも偉い人だけど、ばぁばはレアままよりも偉い人なの。そんな偉い人はいっぱいやることがあるの。シリウスと一緒にいたくてもいられないくらいに忙しい人なんだよ? だからこそそれをシリウスに知ってもらおうとして、ばぁばはエレーンに聞いたんだよ? たしかにばぁばの対応にも問題はあると思うけどね?」
じとりカルディアがサラ様を見やる。サラ様はシリウスを抱っこしつつ、下手な口笛を吹く真似をしていた。
まぁ、今回のことはサラ様のお茶目が原因だからね。ジト目で見られても反論できないよね。
「エレーンは自分のするべきことをきちんと理解していた。そしてばぁばがすることもね。だからこそダメだって言ったの。それはばぁばをいじめるわけじゃない。この世界をよくするために頑張っているばぁばに、シリウスからの応援をしてあげてほしかったからこそ言ったの。なのにシリウスは」
「カルディア。もうその辺でいいわ」
カルディアをサラ様は止めた。下手な口笛を吹くのはやめることにしたみたいだ。
サラ様自身反省されたみたいだし、ここからはサラ様に言ってもらうべきだろうね。
カルディアもそう思ったのか。わかりましたと言って退いてくれた。
サラ様はシリウスと向かい合わせになるように抱きなおしてから口を開いた。
「……ごめんね、シリウスちゃん。今回のことはカルディアままの言う通りだったの」
「エレーンは悪くないの?」
「ええ。悪いのはばぁばだけよ。シリウスちゃんに応援してほしくて、エレーンに口裏を合わせてもらったのだけど、やりすぎちゃったね。ごめんね」
「わぅ、じゃあシリウスは」
シリウスは涙目になってしまう。胸が痛いね。娘が泣く姿は胸を痛ませてくれる。
「……シリウスちゃんはなにも悪くないわ。悪いのはばぁばだけよ。シリウスちゃんがエレーンに言ったことはばぁばが」
「違うもん。悪いのはシリウスだもん! シリウスが悪い子だから。ばぁばもエレーンも傷つけちゃったんだもん。シリウスが全部悪いの。シリウスが悪い子だから。いい子じゃないから全部」
シリウスが頭を振りながら言う。頭を振るたびに目じりにたまっていた涙が舞っていく。
その光景はきれいなのだけど、胸が痛かった。どうしようもない後味の悪さが胸を突いていく。
「……ご息女様が悪い子であるわけがございません」
ふいにエレーンが。それまで黙っていたエレーンが言った。
シリウスは涙を流しながら、エレーンを見やる。エレーンはゆっくりとシリウスのそばに近寄り言った。
「……ご息女様が悪い子であれば、この世の子供はみんな悪い子になってしまいます。ご息女様は私がいままで見てきたなかで一番、心優しいお子です。あなたほどに優しく清らかな子供を見たことはありません」
「でも、シリウスは」
「なによりも嫌っている私などのために泣いてくださっている。そんなあなたが悪い子のはずがありません。あなたが私に言ったことは仕方がないことです。なにせ私はあなたに嫌われていますから。嫌っているものを罵倒するのは仕方がないことですので」
エレーンはシリウスに目線を合わせながら言っていた。
仮面をつけているから本当に目線を合わせているのかはわからない。けれどエレーンはたしかにシリウスと目を合わせて言っている。
シリウスもわかっているんだろうね。エレーンをじっと見つめながら、エレーンの言葉を聞いている。
あんなにも苦手にしていたエレーンの言葉を、ちゃんと聞いている。今回のことでまたひとつ大人になってくれたのかな?
「私はあなたに嫌われて当然の存在です。あなたとは違い、私の身は罪に穢れている。穢れ切った魂と体なのです。だからこそあなたに嫌われてしまうのも当然の存在です。そんな私のためにあなたは泣いてくれた。それだけでエレーンは十分でございます。それだけでエレーンはとても嬉しいのです。だからもう泣かないでくださいまし。ご息女様は私のことを嫌っても、エレーンはご息女様の笑顔が大好きです。陰からあなた様の笑顔を見られるだけでエレーンには十分すぎるほどの報酬なのです。だからもう泣かないでください。ご息女様の笑顔を、エレーンの大好きなあなた様の笑顔を見せてくださいまし。あなた様が泣きじゃくっているのを見ていると、エレーンは胸が張り裂けそうになるのです。だからもう泣き止んでくださいまし、ご息女様」
エレーンは笑った。仮面をつけていたけれど、それでもはっきりとわかるくらいに笑っていた。その笑顔にシリウスはゆっくりとでもはっきりと頷いてくれたんだ。
変態さんだけど、決めるときは決める。それがエレーン←しみじみ




