Act4‐36 神獣さまってまともな人いないの?(by香恋
サブタイがすべてを物語る←ヲイ
「なんでまた火口の中に」
火口の中に「炎翼殿」は、そびえ立っていた。その威容は「双竜殿」と同様に神聖さを感じさせる。
しかしなんでまた火口の中に社殿なんて作ってしまったんだろうか? というかどうやって火口の中で溶けることなく存在し続けているのかが不思議でならないね。
「参拝する人は大変そうだなぁ」
マグマが噴き上がる山道を延々と昇りきったら、今度はマグマが煮えたぎる火口の中に下りて行かなきゃいけないとか、地獄の罰よりもひどい気がするよ。
というかここって本当に神獣さまがいる社殿なのかな? 本当は地獄の大王の居城とかじゃないの?
「ガルーダ様のお住まいだから無理もないさ」
ぽんと俺の頭に手を置きながら、プライドさんが言った。
プライドさんは苦笑いしつつ、眼下の光景をじっと見つめている。
その視線が「炎翼殿」に向かっていることは明らかだ。たぶん神獣さまに、「火」のガルーダ様のことを考えているんだろうね。
「相変わらず「炎翼殿」はひどいありさまですねぇ」
レアがため息混じりに「炎翼殿」を見つめている。
レアだけではなく、希望たちも眼下の光景を見てため息を吐いてしまっていた。
うん、ため息を吐きたくなるのはわかるよ。俺だって同じだもん。
マグマが噴き上がる山道を昇りきれば、きっと涼が取れると思っていたんだ。それが見事に裏切られてしまったのだから、無理もないよね。
まぁ、ぶっちゃけるとたぶん無理かなぁとは思っていましたけどね?
だってさ道中だけでマグマが噴き上がっているんだよ?
その時点で「炎翼山」が火山であることは、それも活火山であることは明らかだった。
そんな活火山の頂上になにがあるのかなんて考えるまでもないもの。
それでも、それでもワンチャンスあると思っていました。
「双竜殿」みたく信者の方々が参拝に来るだろうから、きっと頂上は、「炎翼殿」はまともなんだと思っていた。
でも、うん、それは俺の勝手な思い込みでしかなかったみたいだね。
そもそも「火」のガルーダ様のお住まいであれば、ガルーダ様に合わせて作られるわな。
わかっていたつもりだったけれど、あくまでもつもりでしかなかったみたいだね。
「レアは「炎翼殿」に来たことがあるの?」
「ええ。なにせ「魔大陸」におわす神獣さまのお住まいですもの。「七王」のひとりとして来ないわけには参りませんよ」
「それもそうか。プライドさんは「獅子の王国」の王さまだから当然だろうけれど、レアはてっきり「水」のリヴァイアサン様のところにしか行っていないと思ったよ」
「ふふふ、「旦那さま」の仰りたい意味はわかりますよ。たしかに私は火よりも水属性の方が肌に合っておりますので、ガルーダ様を参拝するよりもリヴァイアサン様の下へと参ずるのがあたり前かもしれませんね。ただそうするとガルーダ様がですね」
なにか言いたそうにしているけど、口を閉ざすレア。
なんだろう? とっても嫌な予感がするよ?
まるでバハムート様とファフニール様のときみたいに、やっかいなご性格をされていると言っているような。いやいや、まさかね?
だって神獣さまですよ? この世界における真の最強の一角たるお方ですよ? そんな神獣さまがまさか性格が厄介とかありえないでしょうに。
でも同じ神獣であるバハムートさまたちはパリピだったんだよね。
ティアさんと一緒に「いえーい」とか言っていたし、お布施やお供えものを宴会代と宴会の飯や酒だと平然と仰る方々だったけれど、あれはあくまでもバハムートさまたちが特殊であって、神獣さまのスタンダードではないはずだ。うん、そうだよね? そうだと誰か言って、お願いだからさ。
「ぷ、プーレはそもそもガルーダ様が最初の神獣さまなので、よくわからないのでず」
周囲を見渡すとプーレが最初に言った。でも無理もないか。
なにせ「獅子の王国」は「蛇の王国」のちょうど真逆だもんね。
向かうにしても一度「竜の王国」を抜けないといけないもんね。
ゴンさんの背中に乗ってであれば、「エンヴィー」から「プライド」までであれば、半日くらいあれば行けるだろうけれど、それができるのは「七王」陛下の方々か俺くらいだよね。
一般人であるプーレであれば、陸地を馬車に乗っての移動になるだろうね。しかもそれが最速だろうし。
たしか馬車であれば「ラース」からは一週間で「エンヴィー」に着ける。
それを踏まえると「エンヴィー」から「プライド」となると片道で三週間くらいはかかるかもしれない。
状況によって一か月はかかるだろうね。しかも帰りを考えるとさらに倍だ。計二か月近くは休まなきゃいけなくなる。
そんな長期間、屋台を休めるわけがない。そもそもそんな長期間屋台を休んでいたら、仕事がなくなるかもしれない。
プーレのお父さんであれば、そんな長期間仕事を休もうとはしなかっただろうね。
かと言って海の向こうである「双竜殿」も同じくらいに時間がかかりそうだ。
さすがに一か月はかからないと思うけど、たぶん片道二週間くらいはかかるんじゃないかな?
往復するだけで一か月。はたしてあのおじさんがそこまで休もうとするだろうか。
その答えがプーレはこれが神獣さまへの初めての参拝という言葉ですね。でも実家の仕事を考えれば、無理もないことだと思うな。
「……私も「双竜殿」に行くまでは初めてでしたので」
アルトリアは申し訳なさそうに謝っていた。
まぁ、アルトリアは人魔族だからか、かなり苦労していたみたいだし、悠長に参拝することなんていままでなかっただろうから、やっぱり無理もない。
シリウスと希望は最初から除外。
シリウスは産まれたばかりだし、希望は俺と同じで異世界人だから、当然俺と同じで神獣さまにお会いしたいのはバハムート様とファフニール様ということになる。
となれば聞くべき相手は──。
「「炎翼殿」の参拝は行われていないよ」
カルディアが、この国の出身であるカルディアが言った。カルディアは「獅子の王国」の出身だからなにか知っていると思ったのだけど、カルディアが口にしたのは思わぬ言葉だった。
「参拝が行われていないって、どういうこと?」
「そのままの意味だよ。「炎翼殿」は立地とかの理由で参拝ができないんだよ。道中はマグマだらけ。その道中を超えても「炎翼殿」自体は火口の中にある。当然一般人では参拝すること自体が不可能に近い。だから参拝は禁止されていないけれど、基本的に誰も行っていないの」
カルディアに言われてようやく理解できたよ。だから参拝する信者さんとかいなかったのか。
「双竜殿」に行くまでではよく見かけていたけれど、「炎翼殿」では見かけないなぁと思っていたけど、そういう理由なのね。
しかしそうなると管理者の人とかも大変だろうな。
「双竜殿」には管理者であるティアさんのほかにも社殿そのものに住み込んで働いている人が結構な数がいた。
まぁその人たちはバハムートさまたちの性格を知らず、敬虔な信者として働いていたけどね。
となると「炎翼殿」に住み込みで働いていたり、管理を任させていたりする人とかかなり大変なんじゃないのかな。
「ちなみにだが、「炎翼殿」にいらっしゃるのはガルーダ様だけだぞ? 参拝と同じでな。一般人では働くどころか来ることもできん。だからだろうなぁ」
プライドさんが大きくため息を吐いた。なに、そのため息? すごく不安が煽られるんですけど!?
「気持ちはわかるんだよ。ただなぁ」
ぼりぼりと頭を掻くプライドさん。ああ、どんどんと嫌な予感が──。
「ぷーらーいーどーちゃーん!」
どこからともなく声が、とても嬉しそうな声が聞こえてきた。
「……来られたみたいだな」
「……相変わらずですねぇ、ガルーダ様も」
プライドさんとレアが揃ってため息を吐いた。ため息を吐きながら空を見上げるふたり。ふたりに合わせて空を見上げるとそこには──。
「よく来てくれたね。私は嬉しいよぉ!」
バサバサと炎でできた翼をはためかせる、見た目が猛禽類っぽい女性がすごい勢いで向かってくるところだった。
神獣=まともな性格なのがいない、ってことはないとだけ。ほ、本当ダヨ?←顔を逸らす




