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Act0-38 ギルドマスター

PVが2500突破しました。

いつもありがとうございます。

「はいはい、そこまで。クーさん、あなた方クランに抜けられると、うちは大変困りますので、せめて兼業にしてください。ただでさえ、うちの出張所は人が少ないんですから」


 不意に、頭上から声が聞こえて来た。見れば、ここのギルドマスターが、袖をかなり余らせている白いロープを身に着けた、鋭い目をした幼女が、階段を降りてきていた。いつもは三階の執務室に籠っているのが、今日は珍しく降りてきたようだった。


「わ、わかっていますよ、ギルドマスター。冗談ですから」


 クーさんは、顔を逸らしながら言った。お仲間さんたちもあいまいに笑っている。どうやら本気で引退するつもりだったのかもしれない。俺のひと言が渡りに船になるところだったようだ。危ないところだった。


「そういうことにしておきましょうか。さて、カレンさん?」


 クーさんから俺に視線を向けるギルドマスター。どうやら標的が完全に変わってしまったようだ。というか、余計なことを言うな、というギルドマスターの無言の抗議が聞こえてくる。


「な、なんですか?」


「……今日の獲物は、ダークネスウルフですか。Cランクの魔物を無事に「討伐」できましたか。まぁ、わかってはいましたが」


「え、あ、はい」


 俺が引きずってきた魔物──狼型の魔物のダークネスウルフは、Cランクの魔物で、以前生ゴミにしてしまったデスクローラーと同クラスの危険度を誇る魔物だった。


 もっとも同じ危険度であっても、ウルフ種は、キャタピラー種と比べて、危険度の高い魔物なので、ほぼ最高位に近いデスクローラーとは違い、ダークネスウルフはこれでもまだウルフ種の中位の魔物らしい。その反面、キャタピラー種ほど、素材の価格は高くないらしい。肉は臭い、硬い、まずいの三拍子が揃っている。毛皮と牙、爪は利用できるそうだけど、キャタピラー種の糸ほど、高価なものではないようだ。


 逆に、下位から中位くらいの魔物のキャタピラー種が、中位から上位にあたるウルフ種の素材よりも高価だという方がおかしいのかもしれない。


「デスクローラーを倒すだけだったはずの子が、同じランクの魔物を「討伐」できるようになった。本当にありえない子ですね、あなたは」


 ギルドマスターは笑っていた。見れば、クーさんやそのお仲間さんたち、他の冒険者さんたちに加えて、職員のお兄さん方も同じようにして笑っていた。ありえないのは、あんたの背格好の方だろう、とツッコミたいところだけど、そんなことをしても無意味なのはわかっていた。というか、ここにいる全員の共通した認識だろう。


 それでも俺を含めた全員が、このギルドマスターに頭が上がらないでいる。だって、この人見た目と年齢が一致していないのだから。要は幼女のなりをしているけれど、年齢は俺の十倍以上らしい。下手したらそれ以上と言われていた。


 なにせこの人は人間ではなく、エルフだった。純血のエルフではなく、ハーフフッド族の血も入っている、いわゆるハーフエルフらしい。エルフの寿命とハーフフッド族の見た目が相まって、百年以上生きているのに、見た目は幼女なのに、正真正銘のロリBBAだった。デウスさんに引き続き、この世界で会った二人目のロリBBAだった。


 ただデウスさんとは違い、胸部装甲は慎ましやかだ。それでも俺よりも大きいというのが、なんとも言えない。ギルドマスターも自分よりもない人は、俺でふたり目と言って、驚いていた。


「あ、ありがとうございます。ギルドマスター」


 一応褒めてもらったみたいなので、とりあえずお礼を言っておいた。ただこの人の場合、最初に褒めるということは、次からが本番なのだろうけれど。


「一撃で絶命させたのは、見事としか言いようがありません。が、私は言っておいたはずですよね? 魔物はちゃんと「収納」しておけ、と。そのためのアイテムボックスを、「お姉さま」からいただいていましたよね?」


 ギルドマスターが笑った。それはとても攻撃的な笑みだった。もう正直に言うしかなかった。


「あ、あの、その、実は、レアさんに貰ったの、壊れちゃって」


 ダークネスウルフに巻き付けていた布を見せる。同時にギルドマスターの笑顔が固まった。そして──。


「「お姉さま」から下賜されたものを、さらっと壊しているんじゃねぇ!」


 ギルドマスターが咆哮した。それこそゴンさんのそれとそん色ない声量で、ギルドマスターは、咆哮していた。

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