Act4-22 模擬戦開始
本日五話目です。
あかん、やっぱり左クリックさん、完全にご臨終です←汗
なので今回もちょっぴり一文が長めです←汗
傭兵斡旋所の裏手には練兵所があった。要は訓練施設です。
実際新人の傭兵さんらしき人たちが、教官さんの指導を元に素振りをしていたり、走り込みをしていたりする。プライドさんが言うには、引退した冒険者や腕に自信がある人たちって話だったけど、全員が全員即戦力になるってわけではないみたいだね。
そういうところは冒険者も同じかな? そう言えば、うちのギルドにはそういう施設はないんだよなぁ。「竜の王国」の、しかも首都にあるからかな。たいていの冒険者は腕が立つ人ばっかりで、新人用の施設とかはなかった。
というか必要ないかなとさえ思っていたからね。なにせうちのギルドで冒険者デビューをする人なんているとは思っていなかったもの。
でも考えてみれば、「ラース」で産まれ育った人もいるわけだし、その人が冒険者になることだってありえるわけだよね。なにせ「魔大陸」でもふたつしかない冒険者ギルドが、出身地にあるんだから、そこで冒険者にならないなんて選択肢は存在しないよね。
となればだ。やはり新人さん向けの訓練施設は必要かな。「ラース」に戻ったら、新人冒険者用の施設を開設することにしよう。ちょっと初期費用がいるけれど、そこはジョン爺さんと話し合えばいい。というかついでにドルーサ商会の私兵さん方にも訓練をつけてあげればいいかな? そうだよ。新人冒険者だけの訓練施設だけじゃもったいないよね? ドルーサ商会だけじゃなく、「ラース」の兵隊さんたちの訓練できる施設として開設すればいいじゃんか。
まぁ、兵隊さんたちには十分な訓練施設はあるでしょうけど、習熟度なんて人それぞれだもの。うちの施設は習熟度が低いないしは、本当に初心者用の施設にしちゃえばいい。初心者から卒業したら、冒険者は実際に依頼を受ければいいし、兵隊さんは本来の訓練施設に、私兵さん方もそのまま業務に移行すればいい。でも道は分かれても、一緒の施設で卒業したという記憶は残る。そうなればそれぞれにピンチのときには、よりスムーズに助け合えるんじゃないかな?
正直冒険者や兵隊さんたちの連携っていまいちうまく行っていないみたいだし。兵隊さんたちは、自分たちこそが国や街を守っているという意識があるだろうし、冒険者たちは兵隊さんたちを有事の時にしか働かないと思っているだろうからね。
要は公務員とフリーターみたいなものかな? あきらかに格差があるたとえだろうけれど、そこまで大きく間違ってはいないと思うな。
実際に立場の差はそれくらいにあるだろうけれど、実力の差もそこまで離れているかどうかはわからない。むしろ実力は逆ってパターンも大いにありうる。
なにせ勇ちゃんも元は冒険者だったけれど、いまや知らない人がいないほどの有名人かつ実力者なんだ。当然公務員たる兵隊さんたちよりも、はるかに強いはず。……性格はあれとしても。
とにかく勇ちゃんという例もあるから、兵隊さんの方が冒険者よりも必ずしも強いとは限らない。なかにはとんでもなく強い冒険者だっている。
なのに公務員かそうではないかというだけで、実力差を顧みないというのはちょっと悲しい。そういう意識をなくすためにも訓練施設は必要だな。うん、場合によっては初心者用だけではなく、中級者と上級者用の施設もいるかもしれないね。
こうなるとうちのギルドとドルーサ商会だけで話を進められることじゃなくなってしまうね。ラースさんも巻き込んでの国家単位のプロジェクトになるね。
ついでに字を教えるのもありかもね。あと簡単な計算とかもさ。冒険者のなかには読めないし書けないって人もいる。兵隊さんたちのなかにもそういう人がいるだろうから、そういう人たち向けに勉学を教えるのもありだろうね。
冒険者も兵隊さんたちも強いに越したことはないけれど、勉学をおろそかにしてはいけないはずだ。実際和樹兄も武辺だけの人間は大成しないと言っていたもんね。……和樹兄は一般人のはずなのだけど、なんでいつもプロの軍人さんっぽいことを言うのかな? そこんところがカレンちゃん、前々からよくわからないよ。
和樹兄の謎は在るけれど、その言葉は有用なものだ。その言葉をここで有効に活用するべきだろう。うん、このアイディアは早めにラースさんに伝えておきたいな。そうすれば、俺が帰る頃までには訓練施設の設立が決定するだろうし、もしかしたら施設の建設まで終わっているかもしれない。うん、善は急げだね。こうしちゃいられない。いますぐに──。
「どこに行くの? カレン・ズッキー」
がしりとカルディアが俺の肩を掴んでくれる。その力はとても強いし、目がはっきりと逃がさないよと言っていた。どうやら逃がしてはもらえないみたいですね。
「申し訳ないですね、カレン殿。ただ今回ばかりは私のわがままを聞いていただきますよ」
所長さんが申し訳なさそうに謝ってくれた。謝ってくれているのだけど、「つべこべ言わずに言うことを聞け」だもの。いくらか丁寧に言ってくれているけれど、この人が言っていることって要はそういうことだものね。
あきらかに所長さんも俺を逃がす気はないみたいです。
そもそも強制的にここまで連行されている時点で逃げるなと言っているようなものだものね。俺ってばなにをしたのかな? わけがわからないよ。
「勝敗は意識が飛ぶか、参ったかでのみです」
所長さんはよく通る声で勝敗方法を言っている。
俺とカルディアの間に立って、所長さんは諸注意を話している。諸注意を話してくれるのはいいんだ。そういうことって意外と重要だものね。だから、うん、そのこと自体はいいんだ。そのこと自体は特に問題ではないんだよ。
問題なのはさ、どうして俺とカルディアが模擬戦をやらにゃならんのかってことですよ!?
そもそもなぜに俺はここまで連行されているのよ? 俺の意思を完全に無視だもんね、このふたり! 俺はカルディアとは違ってバトルマニアってわけじゃないんだよ!
戦うのは生きるためにしているわけだって、戦うのが好きだから戦うわけじゃないの! むしろ利益のない戦いはしたくないの! そんな骨折り損のくたびれ儲けなんてごめんですよ!
「いいよ、所長。私はその方法でいい」
カルディアは俺の意思を無視して言った。ねぇ、俺の意思は? 俺の意思は本当に無視ですか? 言っても無駄なんでしょうけどね!?
「よろしい。では、カレン殿は?」
「……ダメって言っても聞いてくれないですよね?」
「ええ、申し訳ないですが」
所長さんはにっこりと笑って言った。ああ、やっぱりかよ! 俺の意見なんて無視ですか! こうなれば開始早々に参った宣言を──。
「ちなみに開始早々の参ったは無効とさせていただきます。もし実際にやられた場合は、ペナルティーとして金貨百枚を徴収させていただきますゆえ」
……見事なくらいに先手を打たれたね。金貨百枚を徴収とか、ふざけんなと言いたいけれど、郷にいては郷に従えと言うからなぁ。興味本位で来てしまったうえに、こうして実際に内部に入ってしまっている以上、逃げることはたぶん難しい。
プライドさんに言えば、どうにかしてもらえるかもしれないけれど、あの人のことだから笑いながら、戦ってくれと言い出しそうだよね。
いかん、どう考えても逃げ道がない。逃げ道がないのであれば、戦うしかないのかな? ぶっちゃけめんどうなんだけど、それを言ってもカルディアは聞いてくれそうにないよねぇ。
たしかに同じくらいの強さであるカルディアには興味があるけれど、だからと言ってなんでわざわざ模擬戦なんてせにゃならんのやら。理不尽すぎないかな?
「では、両者合意ということで、模擬戦を開始します」
ああ、考えている間に勝手に合意にされている。もう言っても無駄だね。となれば、もう開き直るしかないか。
「はじめ!」
所長さんの合図とともにカルディアが踏み込んでくる。ため息を吐きつつ、俺もまたカルディアへと向かって踏み込んだ。
続きは二十時になります。




