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Act4-18 斡旋所へ

 はっぴーにゅーいやー。

 今年もよろしくお願いしますね~。

 さて、四日目の一話目です。

 翌朝、俺たちは「焔」の玄関前で女将さんに見送られた。


「陛下、そしてカレンさま方。このたびは当館をご利用いただきありがとうざいました。お次は連泊でのご利用をお待ちしておりますね」


 くすくすと女将さんは笑っている。普通そこはまたのご利用と言うところだろうに、まさかの連泊でのご利用と言うとは。


 でも、たしかに「焔」は連泊がしたくなるような宿だった。「クロノス」とはまた違った意味でいい宿だったよ。プライドさんが常連さんになるのもわかるよ。


 たしかに料理も温泉も最高だった。プライドさんにオススメされるのも頷けたよ。


 ちなみに代金はすべてプライドさんが持ってくれることになった。最初は悪いからと言ったのだけど、プライドさんは聞いてくれなかった。


「なぁに気にすることはない。この借りはきっちりと返してもらうからな。むろん仕事でだぞ?」


 がはははとプライドさんは豪快に笑っている。「獅子の王国」には仕事で来ているんだ。それもラースさんからの依頼でだ。


 本来であればこんなにものんびりとしている暇はないはずなのだけど、ラースさんからの依頼を持ちかけられた理由であるプライドさん自身が温泉宿に泊まらせてくれたのだから、とやかく言う筋合いは俺にはないよ。それにとてもいい宿だったからね。こんな宿におごりで泊まらせてくれたのに、文句を言うのは筋違いもいいところだもの。


「希望さま」


「はい?」


「ふれんちとーすと、ごちそうさまでした」


 女将さんが希望に向かって頭を下げていく。希望はいえいえとお辞儀をしている。


 そう、希望は女将さんに今日の朝食を提供していたんだ。


 女将さんは次の機会でと言ったのだけど、希望ってば完全に無視して女将さんの分も作っていたよ。


 女将さんも社交辞令を言っただけだったのに、まさか本気で食べさせられるとは思っていなかったんだろうね、最初驚いた顔をしていたもの。


 でもその顔も希望特製のフレンチトーストを食べた瞬間、瓦解しましたね。


 ちょうどいい甘味と絶妙な焼き加減、おやつにも朝食にもなれるメニューであるフレンチトーストは、この世界にはまだなかった一品だったみたいで、女将さんは終始驚いた顔をしつつ、食べてはしきりに頷いていた。


「なんです。なんなのですか、これは!?」


 ナイフとフォークでひと口大にフレンチトーストを切り分けつつ、女将さんは次々にフレンチトーストを口に運んでいた。それは女将さんだけではなく、プライドさんも同じだった。


「まさか、たかがパン一枚に少し手を加えた程度のものが、この味になるとはなぁ」


 関心したようにプライドさんはすごい勢いでフレンチトーストを食べ進めていった。女将さんも負けじとスピードをあげて平らげていたね。


 女将さんの場合は食べつつも、レシピを必死に盗もうとしているみたいだった。


 たしかにフレンチトーストはおやつにもなるし、朝食にもなれる一品だ。


 さすがに朝からウープ料理はちょっとお腹に重いけれど、フレンチトーストであれば、軽めでさくっと食べられるし、この世界ではかなり目新しい料理だ。


 朝のメニューの目玉になれるスペックが、この世界であればある。だからこそ女将さんは鬼気迫る勢いでフレンチトーストを平らげていたんだろうね。


 もっともその甲斐はなかったんだけどね。


「レシピであれば、お渡ししますよ?」


 とてもあっさりと希望は言うと、すらすらとフレンチトーストのレシピと必要な食材のメモを書いて、女将さんに渡していた。


 女将さんは最初なにをされたのかわかっていなさそうな顔をしていたけれど、渡されたメモとレシピを見て、すごい勢いで頭を下げていた。


 もはや崇拝するかの勢いで頭を下げる女将さんに、ちょっぴり希望が引いていたのは言うまでもない。


 この世界にはまだない料理だし、あったとしても秘匿されていそうな気もする。秘匿されていないのであれば、とっくに広まっていそうな料理だもん、フレンチトーストは。


 だって用意するのはパンと卵と牛乳くらい。あとはお好みで粉砂糖や生クリームかな? それらはすべてこの世界にも存在しているものであって、誰かが作りだしていてもおかしくない料理だった。


 でも一般的に広まっていないということは、秘匿されているか、もしくは単純に誰も思いついていないってことなのかもしれないね。


 どちらにしろ、女将さんにとってフレンチトーストは、未知の料理だった。


 そうなれば希望が試行錯誤の末に作り上げたものだと思ってしまうのは当然であり、そんな試行錯誤の末に作り上げたレシピを希望はあっさりと渡してしまった。


 うん、いま考えてみれば、女将さんが崇拝する勢いで頭を下げるのも当然だわな。俺でも同じくらいに頭を下げるよ。


「このご恩は忘れません! カレンさまご一行は、今後優先的に、いえ、今後一生「円空の間」を専用のお部屋として提供いたします!」


 ただまさかの発言が飛び出してくれたけど。まさか「円空の間」を今後俺たちだけに提供するとか言い出すとは思ってもいなかったよ。


 しかも代金はいらないとか言い出す始末。それにはお金に細かいアルトリアも慌てていたよ。当の希望はいいんですかと輝かんばかりの笑顔を見せてくれていたけど。


 とはいえだ。さすがに今回ばかりは払わせてもらうことにはしたけどね。今後無料になるとしても、さすがに今回は払わないとかえって申し訳がない。


 女将さんは受け取る気はなさそうな顔をしていたけど、最終的には折れてくれた。まぁお金を払ったのは俺たちじゃなく、プライドさんだから、結果的に俺たちはただで泊まったのであまり意味はなかったかもしれないけどね。


「それではお次のご利用もお待ちしております」


 きらきらと目を輝かせながら、女将さんはお辞儀をしていた。


 それはほかの従業員さんたちも同じだった。なにせその場にはどうしても抜け出せない人以外が、従業員の大半がいて一斉にお辞儀をしていたもの。


 プライドさんの見送りということもあるのだろうけど、それにしてはとても仰々しかった。ほかの宿泊客さん方は何事だと目を剥いていたよ。


 でもプライドさんの姿を見て、陛下のお見送りかぁと言って納得していたけど。間違ってはいない。間違ってはいないのだけど、正しくもなかった。


 でもそんなことを言えるわけもなく、俺たちは「焔」の従業員のみなさん大半に見送られる形で、「焔」を後にした。


「さぁて、ベルジュの街を出る前に、一度傭兵斡旋所でも見て行くかい?」


「焔」を出てすぐにプライドさんが言った。この街にある傭兵斡旋所はたしかに見てみたい場所ではあった。話を聞く限りでは、ギルドに近いところもあるみたいだし、今後のギルド運営のなにかしらのヒントになりそうな気がした。


「でもいいんですか?」


 運営のヒントにはなるだろうけれど、今回は旅行ではなく仕事で来ているんだ。


 それも「蒼炎の獅子」を鎮圧させるための援軍としてだ。


 ぶっちゃけた話、戦力になるのは俺とレアくらいだろうけれど、というかレアひとりで過剰戦力だとは思うけど、それでもここに仕事で来たことには変わりない。


 その俺が仕事に関係にないことをしていて本当にいいのかな。いまさらだと言われた否定しようがないんですけどね?


 それでも聞かずにはいられないことだった。


「うん? 構わんよ。それにだ。嬢ちゃんには一軍を指揮してもらう予定だからな。いまのうちに自分の手足になる連中の力量を知っておくのは悪いことじゃないさ」


「ああ、なるほ、ど?」


 おかしいな? いま聞き違いでなければ、「俺が一軍を指揮する」とか言わなかったかな? あははは、まさか、そんな、ねぇ?


「えっと、いまなんて?」


「聞こえなかったかな? 嬢ちゃんには臨時だが、我が国の将軍となってもらう。とりあえず麾下は五百くらいからだな。本来であれば五百は上級将校の抱える部隊だが、とりあえずはそこからだ」


 がはははと豪快に笑うプライドさん。笑うのはいいんですが──。


「初耳なんですけど、それ!?」


 なに、それ聞いていないんですけど!?


「なぁに、嬢ちゃんなら軽い軽い。がははは」


 俺の叫びを聞いてもプライドさんは豪快に笑うのみ。助けを求めようにも、アルトリアとプーレは将軍と言う言葉を聞いて、目を輝かせている。どうやら俺が一軍の指揮官に抜擢されて喜んでくれているみたいだね。


 レアはと言うと、「まぁ、それくらいからですかねぇ」とプライドさんの言葉に頷いていた。そこは否定するところじゃないの? 俺には指揮なんてできないって言うべきところじゃないの?


 最後に希望はと言うと──。


「ノゾミまま、しょーぐんってなに?」


「軍隊の指揮官さんのことだよ。シリウスちゃんにわかりやすく言えば、とっても大きな群れのボスになるってところかな?」


「わぅわぅ! ぱぱ上、すごい!」


「そうだね。すごいね、ぱぱ上は」


「わぅ!」


 シリウスに「将軍」の意味を教えていた。たしかにシリウスでもわかる風に言うとなると、そうなるのかな? でもってシリウスは将軍に選ばれたという意味を知って、目を輝かせている。いかん、あれは明らかに憧れのまなざしです。こ、断りづらいよ、これ。


「の、希望」


 でも最後の頼みの綱として、希望がいる。希望であれば、きっと──。


「……頑張ってね、「旦那さま」」


 頬をほんのりと染めて応援してくれました。希望にここまで言われたとあっちゃ、もう後には退けません。そもそも「獅子の王国」に来た以上、最初から退ける要素は皆無だから、いまさらだった。


「よし、そういうわけで斡旋所へ行くぞ、嬢ちゃん」


 がはははと笑うプライドさん。そんなプライドさんの後を追うようにして、俺たちは傭兵斡旋所へと向かうことになったんだ。気が重いぜ。

 なんかわりと穏やかな一話目になりました。

 続きは四時になります。

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