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Act4-17 ご飯を食べているのに、お腹が痛いです(Byカレン

 本日六話目です。

 

 アルトリアとプーレ。


 プーレは誰にも気遣いをするいい子だった。やはり商人の、しかも屋台の商人という血筋ゆえなのかな。対峙する相手がなにを考えているのかを察し、満足させようとする姿勢が好ましい。


 アルトリアはカミツキガメ系な子ではあるけれど、仕事はきっちりとやってくれる頼りになるいい子だ。家事はその分壊滅的だけど、頑張って上達しようとするその姿勢はやはり好ましい。


 そんな好ましい嫁ふたりなのだけど──。


「「旦那さま」、こちらのお料理美味しいですよ。どうぞ」


 ニコニコと笑いながら、プーレがウープの刺身を俺の口元へと運んでくれる。刺身の名の通り生肉だった。生肉ではあるけれど、きちんと処理してあるみたいでお腹を壊すことはない、と女将さんが言っていた。


 たしかに生肉を刺身で食べるというのは、かなり勇気がいる。魚を刺身で食うのに、生肉は食べないのが日本人らしいと思う。


 まぁ、魚とは違って肉は雑菌が多いから生肉で食べるのが難しいってことなんだけどね。


 特に豚と鶏はちゃんと火を通さないと、下手したら病院送りだもの。


 牛は若干でも火が通っていれば問題はないみたいだけど。ウープはどうなのかな? 普通の動物ではなく、魔物の肉だから余計に火を通した方がいい気がするのだけど。


 でもそんな刺身をプーレに差し出されてしまっている以上、俺に食べないという選択肢は存在しない。意を決して口を開こうとした。


「「旦那さま」に生肉を食べさせるおつもりですか? 新参者。あなた程度の舌では美味しかったとしても、「旦那さま」の高貴なる舌には合わないかもしれないという発想ができないのですか? この淫売。そもそも「旦那さま」のご体調を崩しかねないとは考えないのですか? まったく新参者はこれだから。「旦那さま」、そんな淫売のおすすめよりも、私が実際に食べたこちらの一品はなかなかのものと存じます。さぁ、どうぞ」


 アルトリアがひと言多すぎることを言いながら、俺の前にウープの陶板焼きを一切れ差し出してくれた。


 まぁ、陶板焼きというよりかは、まんまステーキなんですけどね? 実際差し出された一切れからは俺の好きな匂いが漂ってきます。うん、いい香りだ。


「これだから家事が壊滅な先輩気取りは。いいですか? 本来お肉というものは生食には適してはいないのです。野性動物や魔物は生肉を食べますが、人間の体は生肉を食べるのは適していません。しかしその適していない生肉をプロの料理人が提供した。それはつまりプロの料理人が誇りを持って生食ができるように処理を施した一品ということです。それを生半可な認識で生肉だからと断じるのは愚行ですね。だから家事が壊滅的なのですよ」


 ニコニコと笑いながらプーレが言い切った。


 プーレの言葉にアルトリアもまたニコニコと笑いだす。


 笑っているのだけど、その笑顔はとてもではないけれど、穏やかなものとは言えない。殺気溢れる笑顔なんて、笑顔じゃないよ!


「新参者、あなたはやはり私に喧嘩を売っていますね? この正妻たるアルトリアに」


「何度も言いますが、あなたが正妻なわけがないでしょう? 正妻であれば正妻たる余裕があるはずです。でもその余裕の欠片もないあなたを、誰が正妻だと思うんです? バカも休み休み言ってくださいなのです」


「微妙胸の分際で生意気なぁ」


「それはお互いさまでしょう」


「残念でした。私の方が大きいですよ」


「はっ、たかが数センチの差で威張るなんて、かわいそうな人」


「あ? なんて言った?」


「そっちこそですよ」


 にらみ合いを続けるアルトリアとプーレ。それぞれに好ましい嫁さんなのだけど、顔を合わせるともうダメだ。


 完全に水と油ですね。そんなふたりに挟まれている俺、なぜにこうなったのか、さっぱりですよ。


「……あんたがプーレちゃんを抱こうとしたからでしょうに」


 やれやれとため息混じりにウープの陶板焼きを、膝に座らせているシリウスに食べさせていく希望。


 シリウスは希望の胸をクッションにしたうえ、希望からご飯を食べさせてもらってご満悦な顔をしている。……う、羨ましくなんかないもん!


「まったくですね。プーレはまだ若いというのに、もう手を出そうとするなんて。「旦那さま」ってば、ロリコンさんですか?」


 やれやれとため息を吐きつつも、俺を膝の上に座らせて食事を取るレア。そう、いま俺はレアに後ろから抱っこされながら食事をしています。


 そのうえでアルトリアとプーレからそれぞれが美味しかった料理を食べさせられている。


 なんでこうなったのか? 希望の言う通り、俺がプーレを抱こうとしているのをアルトリアにばっちりと目撃されてしまったからなんだよね。


 そのことでプーレとアルトリアが喧嘩を始めたのは言うまでもないことなのだけど、運の悪いことにふたりが喧嘩をしているところを希望とシリウスに見られ、その後に帰ってきたレアにも知られてしまったんだ。


 その結果、こうして夕飯の席で俺はレアに抱っこされながら、アルトリアとプーレに食事を与えられているという、なんとも言えない目に遭ってしまっているんだ。


 きっといまの俺を見たら、勇ちゃんはまず間違いなく喚くだろうね。


「なんでカレンちゃんばっかり、ハーレムを形成しているのさ!? 普通そういうのは勇者である俺がされるべきであって、女の子であるカレンちゃんがするべきことじゃないよ!」


 とか言いそうですね、あのアホ勇者は。実際ギルドに帰ってきたときも同じことを言ってくれたもんよ、あのアホ勇者は。


「なんで、なんで、なんで!? なんでカレンちゃんばっかり美少女&美女ハーレムを形成しているのさ!? 俺にひとりちょうだ、ひぃっ!?」


 喚くアホ勇者に向かって、ちょっと頭冷やそうかと某撃墜シーンを思わせる表情を向けてあげると、アホ勇者はがくがくと体を震わせていました。


 でもそんなことは些事だよ。俺から嫁を奪おうなんてするアホ勇者が悪いの。……自分で言っておいてなんだけど、考えがまるっきりハーレム野郎ですね。


 正直ラノベとか見るハーレムものってあまり好きじゃないんだけどね。


 もうあっちにふらふら、こっちにふらふらで読んでいて、「女をバカにしているのか」と言いたくなるんだよね。


 まぁ、一応ああいう系の主人公はきちんと筋は通しているから、ふらふらとしているのはちょっといただけないけれど、筋を通そうとする姿には素直に好感が持てる。


 ただ、いまの俺ってたぶん好感が持てない類のハーレム主人公ですよね? 


 だって筋を通していないもんなぁ。筋を通すって言うのであれば、レアを抱くのはダメだったと思う。抱くのは希望だけにしていれば、筋は通ったと思うんだ。


 でも現実に俺は希望だけではなく、レアも抱いてしまった。


 それどころか、今回は俺よりも二つ下のプーレまでをも抱こうとしていたんだ。


 プーレは年齢の割にスタイルのいい子ではあるけれど、日本で言えば中学二年生くらいの子でしかなかった。そんな子を抱こうとするなんて、立派なロリコンですよね。


 とはいえ、俺だってまだ十五歳だから、ロリコンと言えるのかどうかは怪しいのだけど。むしろ二つ下じゃ同年代と言っても差し支えはないと思うんですよね。


「がははは、英雄色を好むと言うが、嬢ちゃんの場合はまさにそれだな。子供ができたら名前を考える役目を俺にくれよ? 一緒に名前を考えてやるさ」


 ひとり違う部屋に泊まるはずだったプライドさんは、いま俺たちと同じ部屋で夕食に舌鼓を打ちつつ、一杯やっている。


 どうやら俺の慌てふためく姿を肴にしているみたいだ。本当に「七王」陛下方はいい御趣味をなさっていますね!


「……カレンちゃんさんって、意外とすごいなぁ」


「そう言わないでくださいねぇ~、キーやん。あれでも一応は気をつけているみたいなのでぇ~」


「あれで?」


「ええ~、あれでも」


 夕飯に舌鼓を打つのは俺たちだけではなく、ゴンさんとキーやんも同じだった。


 ふたりとはベルジュの街の外で別れていたのだけど、気づいた時にはふたりと一緒に夕食をかこむことになっていた。たぶんプライドさんがなにか言ったんだろうね。


 でもふたりだけをのけ者にするのは気が引けるから、これはこれで問題はないよね。


 ふたりともそろって人化の術で人の姿になっている。ゴンさんはいつものようにもぎ取りたくなる胸部装甲を装備している。


 対してキーやんは、紅い髪の褐色ロリ系の女の子になっていた。


 どうやらキーやんもメスだったみたいです。


 俺って言うから、てっきりオスだと思っていたのに、まさかのメスでした。


 口調からして人化の術をすると、ライオンの顏がメイン人格になるみたいだね。


「その汚らわしい手を離しなさい、新参者。あなたごときが「旦那さま」に触れていいとでも?」


「それを決めるのは「旦那さま」ですよ。そもそも「旦那さま」は私を抱こうとしてくださったのです。それはつまり」


「そ、それを言うのであれば私だって同じです。いままで何度も抱いていただけそうになって」


「でも抱いていただけていないんですよね? 何度もチャンスがあったにも関わらず」


 にっこりとプーレが笑う。その笑みを向けられたアルトリアの表情が怒りに染まった。


「喧嘩を売っていますよね、新参者」


「何度もそう言っていますよ、先輩気取りさん」


 お互いにノーガードでの殴り合いをしながら、アルトリアとプーレのやり取りは続いていく。


「……ダレカタスケテェ」


 ふたりのやり取りを聞いているとお腹が痛いです。


 本当に誰か助けてよ。でもそんな俺の声は誰にも届くこともなく、プーレとアルトリアは淡々とお互いを言葉で殴り続けていく。


 俺はなんでこんな目に遭うんでしょうかね? 本当に意味がわからないよ。


 そんな俺の疑問をよそにふたりの言葉での殴り合いは夕飯が終わり、寝る時間になっても続くことになってしまったのは、言うまでもないのかな?

 三日目終了&2017年の更新はこれにておしまいです。

 八か月間ありがとうございました。

 来年もよろしくお願いいたします。

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